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7 探索の成果

「たくさん集めましたね……」

 ラセルが驚くほど、元居た場所には様々なものが並べられていた。

 綺麗な貝や石はともかく。枝やロープのようなもの、海藻や何かの植物の蔦まで。拠点を作る際の材料になりそうなものが多くあったのには驚いた。

 満足げな顔にはどこか見覚えがあった。

 そうだ、ちょうど幼い子供が磯遊びをしている様子だ。母親に、見て見て、とせがみながらも誇らしげな、そういう顔だ。

 ——楽しそうだな。

 率直にそう思ったくらい、ウキウキが漏れ出ていた。

「ほら、首都に行く時の事を思い出してみたの。テントを張って、火を熾して、水を汲んで。騎士たちが忙しそうに働いてくれるのをいつも見ていたから」

 フィーアを伴っての移動となると、離れた所で魔道具を使ったりもしていたが、万全を期して原始的な行軍をする事も多かった。

「その材料になりそうなものを集めておいたのだけど」

「それは……ありがとうございます」

 ラセルはかなり驚いていた。

 フィーアは生粋の伯爵令嬢である。

 自分から何かをしようとするとは思わなかったし、してもらうつもりもなかった。せめて邪魔だけはしないでほしいとすら思っていたくらいだ。

「この棒とか、すごくしっかりしてるでしょ?」

 磯遊びの子供というより、棒を拾って来た犬のようだ。

「あとね、この海藻は幅がすごいから布がわりに張ればいいと思うの。ちょっと海臭いのが玉に瑕ね」

 どうやら本気で思っているようだ。一つ一つ、一応使い道を考えて拾って来たらしい。

 では、この一見何に使えばいいかわからない物たちもそうなのだろうか。一番数が多い。

「この貝殻は……」

「それは装飾品よ。やっぱり毎日暮らすお家だもの、可愛いのがいいでしょう」

「可愛い……」

 ちょっと意味がわからないであるラセルを置いて、フィーアは続けた。

「あ、あとこれ見て。この枝ね、中が空洞になっているの」

 渡された枝は何かの枯れ枝で、綺麗に中が空洞になっている。

「これは……よく燃えそうですね」

「やあね、笛みたいでしょ?」

「ふ、笛、ですか」

「そうよ。音楽は大切でしょう?」

 何が大切なのかわからない。そもそもラセルは笛の作り方を知らないし、フィーアも知っているとは思えない。

 やっぱりご令嬢だった。だが、役に立つものも集めてくれているから深くは突っ込まないことにした。

「あ、あと見てこれ!」

 フィーアがそっと布袋を差し出した。覗いてみると、手のひらほどの大きさの大きなカニが1匹入っていた。

「砂浜に穴がたくさんあったから掘ってみたの。そしたらこんなに大きなカニがいたのよ。凶暴でね。指を挟まれそうになったけど、たまたま掘るときに使っていた棒を挟んでくれたから。そのまま捕まえてみたの。それで——」

「うまそうですね」

 フィーアは笑顔のまましばし固まった。

 実はこの後、「名前はニカってつけたの」と続けようとしていた。既に名前を付けて、可愛がっていたところだ。何ならさっきも、ニカの餌を探しに潮だまりに行ったのだ。

 甲羅はざらざらしているけれど、ハサミの所はつるつるしていてとてもかわいい。時々口から泡をぶくぶくと出すところも見ていて飽きなかった。

「た、食べれる、の……」

「はい。焼くと美味しいです」

「そう……役に立てて、良かったわ……」

 食料は貴重だ。ラセルが食べようというのなら、食べよう。何より、珍しくラセルがちょっと嬉しそうにしている。好物なのだろうか。

「もっと取って来るから、言ってね。私、カニ担当になってもいいわよ」

 こうなったら。そう思ったが、ラセルは結構です、とそっけなかった。

 いつもの事だ。フィーアは特に気にしなかった。

「——それで、そっちはどうだった?」

 ラセルの袋も何やらふっくらしている。

「ココナッツがあったので、1つ取ってきました」

 ごん、と袋から出したのは頭ほどの大きさのある木の実だった。ごわごわしていて堅そうだが、ラセルが役立たないものをわざわざ持ち帰る訳はないので、きっと貴重なものなのだろう。

「美味しいの?」

「まあ……好みが分かれるかもしれませんが、貴重な水分なので」

「水分……」

 フィーアが知っているココナッツは、白い粉のようなものだった。クッキーに乗っているのを食べたことはある。それと水分が結びつかなかった。

「高台から見た限り、ここは島でした。周りは海に囲まれています。広さで言うと……そうですね、パーデンオスのお屋敷があった街くらいでしょうか」

 それは広いのか狭いのか、微妙なところだ。街を一周回れば2時間くらいで回れる広さ。少し高いところに登れば見渡せる程度の範囲。

 でも整地されている訳ではない島で言うと、一周するのにはもっと時間がかかるだろう。

「ざっと目視する限り、対岸も見当たりませんでした」

「島……それで……何かいた?」

 誰かいた、とは聞けなかった。この海岸線を見る限り、人の気配が皆無だから。

「少なくとも通りすがりには、探知機に反応する大きな生物はいませんでした。反応していても目視で確認できなかったので、おそらくネズミ程度ですね」

 探知機は生き物を拾うが、昆虫程小さなものは拾わない。ネズミや小鳥程度の大きさ以上のものを拾う。

「大きな獣の痕跡もなかったので……とりあえず警戒はしますが」

 大きな獣がいるなら、その餌となる中程度の生き物もいるはずだが、それもなかった。それほど大きなものはいないのではないかとラセルは踏んでいた。

「要するに、ここは無人島なのね」

 どことも知れない孤島で近隣に島も見えない。

「お嬢様、その……」

 どう声を掛けたらいいのかと、ラセルは言葉を探した。

 この絶望的な状況に、何と言っていいのかわからなかった。

「あまり気を落とさないで」

「は」

「きっと方法はあるわ。私達で見つけましょう」

 うん、とフィーアが頷いた。

 それはこっちの台詞だし、方法を見つけ出すのはラセルの役目になる。

 そう思ったが、現状足手まといでしかない心配の種に断言されると、かえって力が抜けた。そんなラセルを知ってか知らずか、フィーアは勝手に話を変える。

「それでね、私は今日、ものすごい発見をしたの」

「何ですか」

「海の水で顔を洗っても、余計べたべたする」

「……………」

 当たり前の事だった。

 しかし世紀の大発見のようにフィーアは言って、ベタつく体に触れていた。

「海に入った……?」

「あー……不可抗力でね。そう、波が素早くて。海に入らずに顔を洗おうと思ったんだけど」

 どこか楽しそうに言っている。初めて海を触ったのだから仕方ないのだろうか。

「さて、それで、次にすることは……寝床かしら」

「いえ。寝床はまだです」

 早速集めた道具を使おうと思っていたフィーアはがっかりした。

「まだなの?じゃあ次は?」

「水です」

 そう言ってラセルは岩の上にココナッツを置き、剣を振り下ろした。

 カン!と硬い金属音がして、ココナッツの硬い皮が吹っ飛んだ。

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