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無人島ですが魔法が暴走してしまいます!〜巻き込まれ騎士×クラッシャー令嬢〜  作者: サイ


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6 フィーアの海辺探索

 1人残されたフィーアは遠く豆粒のようになったラセルが飛躍し見えなくなったのをしばらく見送っていた。

 1人になると途端に物寂しく感じる。

 聞き慣れない鳥の鳴き声は、遠い。それよりも押し寄せる波音の方が大きかった。フィーアは不思議に思って海を眺めた。移動の途中に遠くから見たことはあっても、こうして砂浜に直接降り立つのは初めてだった。

 ざざ、という音も心地いいし、近づいてはまた遠ざかっていく波の動きがいつまでも見ていられるような、不思議な動きをしている。海というのは、こんなにも賑やかなものだったのだ。

 さっき、ラセルは海に入って気持ちよさそうに水を浴びていた。

 フィーアは少しきょろきょろと見渡した。体は汗ばんでいて気持ち悪い。

 海に入るなと言われていたから、入らずにちょっと水に触れたらいいだろうか。

 ととと、と波打ち際まで駆けて行った。砂に足を取られるから思ったように進まない。それでも何とか辿り着く。

 波が引いて行ったのに合わせて走って行って水をすくった。

 海水は冷たくて気持ちいい。

 それで顔を洗おうとした途端、波が寄せてきて足を濡らした。

「あ……」

 入っちゃった。

 そう思ったのもつかの間、そのあまりの心地よさに夢中になった。

 海水がやってくるたびに、足が砂の中に埋もれていく。

「わ、たのしい」

 澄んだ海の向こうには、魚も見えた。あんなに素早い動きをするものを捕まえられる気はしないが、ラセルなら何か方法を知っているかもしれない。

 そうして辺りを観察しながら足元を冷やしたら、熱く火照っていた体もようやく収まって来た。 

「よし」

 フィーアの担当はここから見える範囲を探索することだ。そうと言われたわけではないが、フィーアはそう認識した。

 まずは、そのまま波打ち際を歩き始めた。

 時々綺麗な貝殻が落ちていて、拾いながら歩く。すると段々楽しくなってきて、大荷物になって来た。

 貝を広い、綺麗な石を拾い。時々、見たこともないほど大きな貝を見つけ一人で興奮したりした。

 あっという間に時間が過ぎていく。

「——やだ、楽しくてつい」

 はっとしてフィーアは元の場所に戻った。ラセルが帰ってきた時、海辺で遊んでいることがばれたら面倒である。お小言が始まってしまうかもしれない。

 ラセルは元々、口数は多くなかった。というより、ほとんど喋ることはなかった。一日中声を聞かないこともある程だった。あっちへ行ってもいいかしら、と聞いても、頷いて数歩下がってついてくる。

 それが少しずつ、少しずつ話すようになった。フィーアが奔放に振る舞えば振る舞う程、未然に防いだほうがいいと思ったようで。ただ、いつも眉間に皺を寄せて、なんと言っていいのか迷いながら、考え抜いてやっと一言、という様子だ。

 いつか気楽に話してくれたらな、と思っている。


 採取を始めたつもりなのに、いつのまにか遊びになったのかしら。

 変ね、とは思ったが、フィーアは深く考えない性格だった。収穫物を並べて、しばらくそれを眺めた。

 綺麗なものを集めたけど……これがこの漂流生活に役立つものだろうか。多分、違う。

 昔読んだ本の古い記憶を探った。

 キャンプ……野営って事よね。野営で必要なものと言えば……やっぱり火かしら。

 火を燃やすには薪が必要だ。フィーアの部屋にも、魔道具が使えないせいで、昔ながらの暖炉がある。火が小さくなってきたところに新しい薪を入れると、火はまた息を吹き返す。フィーアはそれを見るのが好きだった。

 夜までによく燃えそうな木を集めよう。そう思い、フィーアは流木を拾い集めた。




 1時間くらいしてから、ラセルは戻って来た。

 軽く辺りを一周したものの、息を切らすこともなく走り続けている。

 元の場所が近づいたのに気付き、魔道具の電源を切った、その時。

「きゃあっ……!」

 フィーアの微かな悲鳴を聞いて、はっと周囲を警戒した。

 そう遠くない場所だ。ラセルは慌てて駆け出した。

「お嬢様!」

 呼んでみるが、返事はない。危険があるのなら声を上げていいのかは分からないが、尋ねずにはいられなかった。

 元の場所にフィーアはいなかった。慌てて辺りを見渡すと——ラセルが出て行ったのとは反対側の岩陰に、フィーアの水色のワンピースが見える。

 急いで駆け寄るとフィーアは尻もちをついていた。

「お嬢様……一体」

 とりあえず元気に座っているだけに見えてほっとする。

 フィーアは手に棒を持っていた。その先にずるずると海藻が引っかかっている。

「どうしましたか」

「あ、お帰り、ラセル」

 ラセルの顔を見てほっとしたのか、フィーアはよいしょ、と立ち上がった。どうやら悲鳴は、しりもちをついたせいだったようだ。

「声が聞こえたので」

「あ、これがね。見てて」

 そう言ってフィーアはそのまま走り出した。棒の先から海藻がずるずるずるっと続き、さらにその先に、無数の何かごつごつしたものがついてきていた。すべてを砂浜に引っ張り上げて、フィーアは満足そうに手を腰に当てた。

「これ、癖になるわ。この隙間に棒を入れて掻き出すと、すっぽーん、って感じで。さっきはちょっと、気持ち悪い目玉に見えて驚いちゃったんだけど。——ああでも、よく見ても不気味ね」

 フィーアはそう言って棒をラセルに渡した。

 岩の向こうはちょっとした潮だまりになっているようだった。取り残された生き物たちがいそうな空間で、フィーアはそこで遊んでいたらしい。

「その海藻食べられない?それによく似た海藻のサラダを見たことがあるんだけど」

 フィーアはつついてみたが、普段口にするものと目の前の巨大なそれが同じものなのか自信が持てなかった。

「食べられると思います」

「ほんと?やった!」

 食べられなくても、ロープ代わりになる程の丈夫さだ。それより、海藻にくっついているこの貝の方が、ラセルには見覚えがあった。

「この貝も」

「えっ、そんな目玉みたいなの、貝なの?」

 言われてみれば確かに、白に黒い点がある模様が。目玉と思って見ると、目玉だらけの海藻に見えなくもない。なるほど、それでフィーアは悲鳴を上げたのか。

「美味しいです」

 ラセルが各地を回っていた時に見たことがある。

 そう言うと、フィーアは嬉しそうに笑った。

「やった!ねえ、他にもいろいろ見つけたの。見て見て!」

 フィーアが軽い足取りで元の場所に戻っていった。

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