24 快適☆無人島生活
無人島生活にも、リズムが出来上がりつつあった。
朝目覚めると、フィーアが拠点周辺を整理しつつ、身支度を整えて朝のおつとめ——水の「何か」を作成する。これまでに精製したのは、水、なんか美味しい水、炭酸水、様々な紅茶、白湯。この辺りはランダムで飲み物として普通にあるものなので、美味しくいただいた。それに加えて調味料も、オリーブオイルが出てきて、何らかのお酢も出てきた。料理に幅が出た。赤ワインが出てきた時はラセルが珍しく手を叩いて喜んだ。調味料に使うと思ったら、その日の夜には無くなっていた。フィーアが寝てる間に飲んだらしい。
ただ、ポーションづくりはなかなか進まず、傷薬を1本作っただけだった。
「応急魔道具は使えないから、助かる」
とラセルは言ってくれたが、1本ではかすり傷しか治せない。いざとなったら、フィーアから離れて応急魔道具を使ってもらうしかないだろう。
やはりポーションというのはレアで、特別な物なんだなと思った。
朝食を作ったら、フィーアは潮だまりで食料を採集したり、魚釣りをしたり、拠点を往復して食べ物を探す。
ラセルは一緒に海に潜ったり、食べ物を探しながらいかだを作る材料を集めて、朝から晩までずっといかだづくりをしていた。フィーアが食糧を良く集めるので、ラセルの仕事も捗った。フィーアも帆の部分ということで、騎士服とフィーアのドレスを縫うのを手伝った。
帆ができても、それを固定するのも、いかだの土台も、頑丈に作るにはまだまだ時間がかかりそうだ。
あれからトカゲもぱったりと姿を見せなかった。
そうして無人島生活は7日目を迎えた。
7日目、と分かるのはラセルが岩に傷をつけていくからだった。夜が来るたびに、食事が終わると、線を一つ足していく。それからナイフを研ぐ作業を始める。これも、ルーティンとなっていた。
拠点の焚火の周りも玄関も、フィーアによってどんどんデコレーションがされ、今では遠目にもはっとするほどちょっと派手な外観になっている。
特に、目玉の貝殻をずらりと並べた食糧庫の床は、いつ見てもギョッとする。これは2晩かけた、しかも夜更かししてまで作業し続けた力作だ。大きさや模様の向きも綿密に計算して、芸術的な幾何学模様を作ったらしい。
無人島生活も7日もすれば辟易して、嫌気がさしてくるものだが——フィーアは拠点を飾り付けたり、生活をより良い物にするのに余念がなかった。ちょっと斜め上の方向に忙しくしていて、暇がないようだった。
寝床には、改良に改良を重ねたカーテンが枯葉と海藻で作られ、フィーアのベッドはプライバシーが守られている。
一番驚いたのは、ある夜、ぬっと振り向いたフィーアの顔が真緑になっていたことだった。
「なっ……」
ラセルは言葉を失って固まった。一瞬、つい、剣に手をやってしまったくらいだ。
「15分経ったかなー」
フィーアはそう言ってウキウキと水場に降りて、顔を洗っていた。
「いい感じ!」
そう言いながら戻って来たフィーアの顔は、確かにつるつるに輝いていた。
「何を……してるんだ」
夜の自由時間は、各々作業に没頭していることが多い。側にいるから、何をしているかも気にせずラセルは作業していた。何やら貝の容器でゴリゴリとすり潰しているなとは思っていたのだが。
「海藻でパックを作ったの。このヌルヌルがいい気がして。ほら、日焼けがひどかったでしょ?皮がめくれてきたから。そしたらすごくいい感じ!ちょっと匂うのが問題だけど……今度果汁でも入れてみようかしら。あ、ラセルもする?」
「いや、いい」
きっぱりと断っておかないと。
ほのかに海藻の香りのするフィーアを放って、ラセルは興味なさそうに手元の作業を再開した。竹を割いて、籠を作っている。
ラセルは日焼けしてもフィーアのように真っ赤になったり、肌が荒れたりしない。もともと日差しの強い地域で生まれたし、野宿することも多くて肌が分厚くなっているのだと思う。
「ポーションとまではいかないけれど、化粧水が生成出来たらいいのになー」
フィーアはそう言いながら水筒をつついていた。
今日出来上がったのは、白湯だ。ほんのり蜂蜜の風味のする白湯だった。
どうせなら蜂蜜が出ればお菓子が作れるのに、と残念がっている。
相変わらず謎な体質だが、この日替わりの水も、この無人島生活を飽きさせないアイテムとなっていた。
「そろそろ寝たらどうだ」
「——あ、そうね。じゃあ……」
寝る前にトイレでも——そう思った時だ。
シュッ——空を切る、聞きなれない音がした。
ぼとり、と地面に何かが落ちる音がする。
「え……」
あまりに突然の事にフィーアは固まった。目の前には、ラセルの背中。ラセルの手には抜き身の剣が握られていた。
「洞窟の奥に!」
ラセルが叫んだ。フィーアは訳もわからないまま、側に合ったナイフを掴んで、洞窟の中に駆けこんだ。




