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第7話:転生王子、難民団を領民に迎える

「「な、難民……!?」」


 彼女たちの話を聞き、ネオンとブリジットは同時に驚きの声を上げる。


 ――……この人たちは難民だったんだ。だから、服の意匠が綺麗に三つに分かれていたのか。


 超大国からの難民ならば、彼女たちが"捨てられ飛び地"にいたのも頷けた。

 飛び地は三国に囲まれているので、国境を超えればすぐ来れる。

 女性リーダーたちはひとしきり礼を述べた後、より詳しい自己紹介をする。


「初めましてだな、ネオン。あたしはルイザ。エルストメルガ帝国の出身だ。母国では拳闘士として戦っていた。自分で言うのも何だが、ほどほどに有名だったんだよ」

「ボクはカカフ連峰のベネロープ。見ての通り、魔法使いさ。こう見えても宮殿に仕えていたことがあるんだ。よろしく、ネオン君」

「わたくしはキアラと申します。ユリダス皇国から参りまして、国では薬師を営んでおりました。わたくしの薬は皇帝陛下に献上されたこともあるんですの。どうぞよろしくお願いいたします、ネオンさん」


 ――拳闘士に魔法使いに薬師……。一気にすごい人たちが来たね。


 ネオンはのんびりとそんなことを考えていたが、ブリジットはピキリとした顔を三人に向けた。


「よろしいですか? いくらネオン様がお優しくても、きちんとネオン様と呼びなさい」

「まぁまぁ、親しみがあっていいじゃない」

「まったく、ネオン様は優しすぎます。ただでさえ、二人っきりで過ごす環境が……」


 ぶつぶつと文句を言うブリジットを宥めながら、ネオンは飛び地に訪れた経緯を三人に尋ねる。

ルイザ、ベネロープ、キアラは詳細に教えてくれた。


「最近、帝国の治安が悪くなってきてな。盗賊が出るわ、内乱が起こるわ……嫌になって、仲間たちと国を飛び出してきたのさ」

「連邦も同じような状況だよ。国境付近に押しやったはずの強力な魔物が内地に来るようになってね。いっそのこと、難民として新天地を求め飛び地に来たんだ」

「皇国もそうです。とても国内に住んでなどいられません。飛び地を放浪していたら、偶然同じ背景を持った皆さんと合流したのです」

「「へぇ~、そんなことが……」」


 実のところ、それらは全て作り話だったが、ネオンとブリジットは真剣に聞く。

 

 ――超大国は豊かな国だと思っていたけど、実情は厳しいのか……。アルバティス王国なんて弱小国には詳しい情報は入ってこないから知らなかった。


 というのが概ねの感想であった。

 ネオンが「大変でしたね」と労わると、ルイザ、ベネロープ、キアラの良心はわずかに痛む。

 命の恩人に嘘をつくのは忍びなかったが、己の任務を思うと真実を告げるわけにはいかなった。

 なぜなら、彼女たちの真の目的は……。


 "飛び地にライバル国を探る拠点を作ること"なのだから。


 エルストメルガ帝国、カカフ連邦、ユリダス皇国は大陸全土……いや、世界の支配を目指していた。

 だが、三国は力関係が拮抗しており、戦争が始まればかつてない争いとなる。

 各国家元首はどうにかして秘密裏に優位に立ちたいと考えた結果、まったく同じ案を考え出した。


 三国の真ん中にある"捨てられ飛び地"に、ライバル国の情報を探る拠点を作ればいい……と。


 そう考えると飛び地はちょうどいい場所にあり、またアルバティス王国が統治を諦めていたことも知っていたので、かなり良い案だと各国家元首は自画自賛した。

 結果、三国は偶然にも同じタイミングで、難民に化けたスパイ集団を"捨てられ飛び地"に送り込み、拠点をこっそり作ることを命じたのだ。

 そのスパイ集団が、ルイザ、ベネロープ、キアラたち一行だ。

 彼女たちは瘴気が薄い場所を探して飛び地を放浪する中、自然と合流し、行動を共にするようになった。

 もちろん、互いがスパイ同士だとは少しも気づいておらず、本当に難民だと思っている。

 そのような背景がある偽りの難民に、ネオンはブリジットと相談して決めた話を緊張しながら提案する。


「もし皆さんがよかったらですが……この飛び地の領民になってくれませんか?」

「「!?」」


 思ってもない提案を受け、スパイ集団は固まった。

 

 ――固まっちゃったけど……嫌、だったのかな……。


 ネオンが心配する中、ルイザ、ベネロープ、キアラは高速で思考を巡らせていた。


(なるほど、領民か……いいんじゃないか? 飛び地の開拓もあるだろうし、拠点作りが捗るかもしれない)

(少なくとも、今ここで彼を敵に回してメリットはないだろうね。それならば、仲間として懐に入り込んだ方がいい)

(剣や指輪を入手した経緯も気になりますし、まずは情報収集をしましょう。領民になれば自然と近くにいられますしね)


 何やら真剣な顔で考え込む彼女たちに、ネオンは断りの雰囲気を感じ取る。


「ど、どうでしょうか……もし嫌なら断っていただいて……」

 

 拒否される覚悟を持って告げたら、最後まで言い終わる前に三人は笑顔で言った。


「そりゃいいな! よかったらどころじゃねえ! ぜひ、領民にさせてくれ!」

「願ったり叶ったりだよ! むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ!」

「素晴らしいご提案でございますわ! 謹んでお受けいたします!」


 領民になりたいと言われ、ネオンはブリジットと両手を挙げて喜ぶ。


「本当ですか!?やったー!」

「よかったですね、ネオン様!」

 

 ――飛び地に来て初めての領民だ!


 仲間が増えてとにかく嬉しかった。


「では、さっそく僕たちの家にご案内します。ここから歩いて15分くらいですよ。……あっ、その前に狂乱狼の死体を回収しておこうかな。何かに使えるかもしれないし」

「そうですね、肉は食糧にもなりますので。私もお手伝いいたします」


 何事もなく指輪に狂乱狼の死体を回収すると、スパイたち三人は驚愕した。


「「そ、その指輪には収納機能が……?」」

「ええ、そうですよ。ふっふっふ~、便利でしょう。実は僕が作ったんです」

「ネオン様がお作りになる魔導具は極めて高性能なのです。私とネオン様の結婚指輪でもございます」


 ネオンとブリジットの話を聞き、スパイたち三人はかつてないほどの衝撃を受ける。

 

「「作っ……た?」」

「ええ、領民の皆さんにはお伝えしますが、僕のスキルは【神器生成】と言いまして、どんな素材からでも神話級の魔導具が作れるんです」


 <神裂きの剣>もネオン作で、しかも神話級だと聞き、さらなる衝撃に襲われる。


(……驚いた。そんなスキルがこの世に存在するのかよ……)

(こんな魔導具、間違いなく連邦の宮廷錬金術師でも作れないね……)

(皇国の親衛隊でも、このレベルのスキル持ちはいません……)


 彼女たちの部下も強い衝撃を受け、何も話せないほどであった。

 ネオンは特に気にもせず、みんなを連れて家に向かう。

しばらく歩くとあの水路が現れた。

 スパイ三人はさりげなく、しかしよく観察する。

 地上を走る水路はシンプルながら堅牢な造りで、水の上はバリアのよう魔力で守られている。

 それが延々と続いているのだから、驚きは言葉では言い表せない。

 極めて高度な技術を目の当たりにして、恐る恐るネオンに尋ねた。


「「も、もしかして、この水路も……」」

「はい、僕が作りました。バリアで覆われているので、いつも綺麗なお水が飲めますよ」

「ネオン様は本当に素晴らしいスキルをお持ちなのです」


((本国の土木技術をはるかに超えている……))


 もはや、そう思うばかりだった。

 ネオンが彼女たちを連れて歩くこと、およそ15分。

 ブリジットと一緒に住んでいる家に着いた。

 この辺りだけ明らかに土壌の質が違うことに、スパイ三人は目を見開く。

 地面は仄かに光り輝いており、豊かな作物が実る畑まで作られていた。


「「も、もしかして、この土地の浄化も畑も家も……」」

「はい、どれも僕が作りました。このスキルのおかげですね」

「ネオン様にかかれば、どんな地獄も天国に変わってしまいます」

 

 ネオンはさらりと言ったが、スパイ三人の衝撃は言うまでもない。


(……マジか。この少年は瘴気まで浄化しちまうのかよ)

(これはちょっと信じられないな……あり得ない……)

(わたくしのポーションでも浄化できなかった瘴気を、こんな綺麗さっぱり……)


 彼女たちも超大国も"捨てられ飛び地"が瘴気に汚染されていることは知っていたが、予想以上だった。

 瘴気の影響が少ない拠点の設置場所を探したものの見つからず、自分たちの力では浄化することさえできなかったのだ。

 心の中で呆然とする彼女たちを置いて、ネオンは地面に手を当てる。


「今、みなさんの家も作りますからね……<神器生成>!」


 魔力を込めたら、それだけで土や石、木々が白い粒子に変わり、大きな家が何棟も生成された。

 いずれもネオン宅と同じく瘴気を遮断し、神話級以下の攻撃ではまったく壊れない頑丈さを誇る。

 超大国国の宮殿と同じか、それ以上の圧を感じるほどだ。

 諸々の衝撃冷めやらぬ彼女たちに、ネオンは笑顔を向ける。


「こんな感じでいかがでしょうか」

「「す、すごい……」」


 ネオンが持つ想像以上の力を目の当たりにして、ルイザ、ベネロープ、キアラは方針を転換した。


((拠点の製作は中断し……この少年を我が国に引き入れる!))


 ネオンの力は超大国が拮抗する、世界のパワーバランスを確実に変える。

 彼を引き入れた国が勝つ……三人はその強い確信を持った。

 その夜はみんなで狂乱狼と突撃猪の肉、畑で取れた野菜を料理し、ネオンとブリジットは歓迎の宴を開いた。

 ルイザ、ベネロープ、キアラは作ってもらった自宅で本国への報告書を書き、それぞれの方法でネオンの情報を届けた。

 情報を受けた本国の国家元首は、大変な衝撃に襲われる。

 やがて、スパイの領民はネオンに絆され、彼を騙していることや自分の正体を明かせないことに曇っていくわけだが、それはまたこの先のお話。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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