第44話:国王と双子兄、度肝を抜かれる
今日もまた宮殿の外が騒がしくなってきた。
さすがにこうも毎日続くと、心身ともに疲弊する。
アルバティス王がそっと覗き見ると、王城の堀の外には、数え切れないほどの国民が集まっていた。
みな、鋤や鎌を振り上げては怒号を上げる。
「……おい、愚王と愚かな双子王子ども! 城から出てこい! 今すぐ馬鹿な税金を撤廃しろ!」
「関税300%なんて、何したら要求されんだ!」
「あんたたちのせいでみんなの生活は滅茶苦茶よ! 責任を取りなさい!」
国政に対する不満を訴える大規模なデモだ。
連日参加人数は増え、今や王城前の広場は足場もないほど埋め尽くされている。
何度解散しろと言っても、誰も聞かない。
もはや、内乱一歩手前だ。
三大超大国から300%もの関税をかけられた上に、諸々のあり得ない税金。
普段からの無能な政治も相まって、国民の我慢はもうとっくに破綻していた。
周囲の跳ね橋を上げっ放しにすることで、王城内に侵入することをどうにか防いでいる状況だ。
アルバティス王は窓から離れると、言うことを聞かない国民への怒りをぶちまける。
「愚か者はお前たちだ、大して生産性もない下劣な愚民が! お前たちは元から貧乏だから別にいいだろ。我が輩たちの資産は凍結されたのだぞ! こちらの方が由々しき事態だ。我が輩たちの富こそが、王国を象徴する財産なのだ」
「父上の仰る通りですよ。国民たちは元々貧乏なくせに、本当に偉そうで困ります。まるで、王族のような振る舞いだ」
「資産凍結の地獄のような苦しみがわからないなんて、想像力の足りない連中だぜ。まぁ、貧乏だからしょうがねえか」
アルバティス王の言葉に双子兄も同調する。
自分たちの責任を国民に転嫁することで、平静を保つしかできない。
今や、彼らはネオンの死だけが楽しみだった。
(デビルピアを飛び地に送り込んでからしばらく経つ。そろそろ、報告が届いてもいいはず……)
アルバティス王の思いを見計らったように、数名の使用人がノックもせず慌ただしく駆け込んできた。
雰囲気から、飛び地の報告だとわかる。
普段なら不敬に怒鳴り散らすところだが、ネオンの死を確信したことで気分がよく、アルバティス王は悠然と玉座に座った。
「ようやく報告が来たか。身体中の水分がなくなるほど待ちくたびれたぞ。まぁ、良い。我が輩の寛大な心で許してやらんこともない」
「「い、いえ、それが……」」
予想に反して、使用人は言い淀んだ。
誰もが額に汗をかき、顔は強張る。
ただならぬ雰囲気を感じ取り、心臓が不気味に鼓動し始めた。
先頭の使用人が硬い表情のまま、切り出す。
「す、"捨てられ飛び地"からこれが届きました」
その言葉と同時に、黒い布を被せられた巨大な台車が運び込まれる。
いったいなんだ、と尋ねる前に布が取られ正体が明らかとなった。
変質した"それ"を目の当たりにした瞬間、アルバティス王も双子兄も恐怖で凍り付いた。
「「ひっ……!」」
魔神デビルピアの…………頭部だった。
地獄の業火に晒されたのかと思うほど皮膚はひどく焼け爛れ、真っ二つに切り裂かれている。
何が起きたのかわからない。
だが、有無を言わさぬほどの膨大な力で、死に至らされたことだけは明白だった。
王国の創始者であり、当時の人類最強であった二人の勇者でさえ、封印するだけで精一杯だった破壊の魔神。
その死体が目の前にある。
返り討ちに遭って殺されたのだと、静かに物語っていた。
あまりの衝撃で、アルバティス王も双子兄も言葉が出ない。
誰も何も話さぬ中、使用人の一人が震える手で文書らしき物を運んできた。
「さ、三大超大国の国家元首の方々から……、お、王様と王子様方へのお手紙でございます」
エセハリウッドなセリフを吐く余裕などなく、アルバティス王は無言で受け取る。
双子兄と一緒に破くほどの勢いで読むと、徐々に血の気が失せていった。
「と、飛び地で開かれた三大超大国の会議中に……魔神デビルピアが襲来したぁ?」
目が滑り、胸はざわつき、文書の内容がまったく頭に入らない。
必死に読み進め、どうにか話を理解する。
理由は不明だが、"捨てられ飛び地"で三大超大国の国家元首が集まる極めて重要な会議が開かれた。
それだけでもあり得ないことなのに、魔神デビルピアはネオンによって倒され、四体の使い魔も倒された。
各国家元首とその娘たちは、自分の命以上にネオンが危険に晒されたことを怒っている……。
アルバティス王の心中には混乱の渦が巻く。
(ど、どういうことだ? 三大超大国が飛び地で会議? ネオンがデビルピアを倒した? 国家元首たちはネオンが危ない目に遭ったのを怒っている? ……なんでなんでなんで……?)
下手したら、戦争一歩手前の状況であった。
デビルピアという最終手段を失った王国に勝ち目はない。
三国が同盟を結び、王国に攻め入る可能性すら考えられた。
もし戦争が起きて捕まったら、戦争犯罪者として処刑されるのは間違いないだろう……。
緊張と焦りと不安と恐怖とで喉はカラカラに渇き、心臓は破裂しそうなほどに鼓動する。
(どうすればいい、どうすればいい、どうすればいい……)
ただ念じることしかできないでいると、アルバティス王は不意に解決策を思いついた。
「我が輩たちは今すぐ亡命する! 直ちに準備を開始しろ! 宝物庫の財宝を全て馬車に……!」
「「わ、私どもはこれにてお暇をいただきますっ」」
「な、なに? いきなり何を言い出すのだ! 一方的な退職など認めるわけないだろう!」
止める間もなく、使用人たちは転びそうな勢いで"王の間"から走り去った。
まるで、何かに怯えているかのように……。
使用人が消えた"王の間"は、やけに重い静寂に包まれる。
ここにいるのは、デビルピアの無残な死骸と自分たちだけ。
太陽の向きの関係か、"王の間"と外を繋ぐ扉の奥は漆黒の闇に包まれている。
怪物が潜んでいそうな雰囲気に身が竦んだとき、コツ……という硬い足音が響いて、三人は心臓が跳ね上がった。
たまらず、アルバティス王が叫ぶ。
「だ、誰だっ! 何者だっ! 出てこい!」
クスッという小さく控えめな笑い声が聞こえたと思ったとき。
漆黒の闇からは、金髪碧眼の中性的な顔をした男が現れた。
彼の姿を見て、アルバティス王も双子兄も絶句する。
使用人が怯えていたのは三大超大国からの手紙以上に、帰国したこの人物に対してだった。 男が"王の間に"入った瞬間、肌がひやりと冷たくなる。
室内の温度は下がっていないが、確かに全身がぞわりと寒くなったのだ。
玉座の前で震える三人に、男はにこやかな微笑みを向ける。
「お久しぶりです、父上、ミカエルにエドワード。少し見ない間に、この国はずいぶんと面白いことになっているようですね。ふふっ…………何をやっているのですか、あなたたちは」
アルバティス王国第一王子、ニコラスが帰国した。
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