第39話:転生王子、国家元首からの手紙と高評価に驚く
『ネオン、また撫でてほしいウニ~』
「オモチたちは可愛いね~」
自分にくっついてくるウニ猫妖精を撫でては愛でる。
実力を知られたくない三大超大国の国家元首たちが近づいているとも知らず、ネオンは今日も飛び地でスローライフを送っていた。
オモチを頭に乗せていたら、近寄る人影が一人。
ブリジットだ。
遠目からではよく見えないが、彼女たちはたくさんの荷物を抱えている。
「ネオン様~、こちらをご覧くださいませ~」
「なんだかすごい大荷物だね…………っ!?」
彼女が持つ荷物の正体が明らかになったとき、ネオンは思わず絶句した。
「こ、これはまさか……!?」
「仰るとおり、ネオン様のぬいぐるみでございます」
『よく似てるウニね~!』
思わず、オモチは歓喜の声を上げた。
ブリジットの腕に抱かれているのは、自分そっくりの小さな人形だ。
髪型から表情まで再現度は極めて高く、まるでネオンがその場にいるようだ。
「ど、どうして、こんなものを……」
「世界中の人々に、ネオン様の素晴らしさを布教するためでございます」
「できれば、あまり目立ちたくないんだけど……。超大国に目をつけられたらどうなるか……」
「いえいえ、ネオン様の素晴らしさを知れば、むしろもっと関わりたいと思うはずでございます」
ブリジットは、愛するネオンの宣伝で頭がいっぱいだった。
改良に改良を重ねた自慢の一品だ。
ネオンは軽く咳払いすると、さらに尋ねる。
「背中に背負っているのはいったい……」
「もちろんのこと、ネオン様のグッズでございます」
『ウニニ~!』
たどたどしい質問に当の製作者は自信満々な様子で答え、オモチはとても喜ぶ。
ぬいぐるみの他に、塗り絵、さらにはジズソーパズルまで用意されていた。
軽い眩暈を覚えるネオンに対し、ブリジットはとうとうと説明を続ける。
「塗り絵は日頃から描き溜めているネオン様のスケッチから厳選しました。お子様でも色を塗りやすいよう、イラストの描き方にこだわりました。これらのグッズの中で、私が特にお気に入りなのはこのパズルでございます」
塗り絵は別として、この世界にまだジグゾーパズルのような娯楽はない。
ネオンの素晴らしさを世の中に伝えるにはどうすればいいのかを懸命に考え、発明したのであった。
細かいパーツにネオンの大きな笑顔が描かれており、パーツを組み合わせることで初めて会えるというのが楽しい……ということを説明される。
――自分で発明するなんてブリジットはすごい。……すごいけど、このやるせなさはなんだろう……。
ブリジットがご満悦な様子で手首をパンッ!と叩くと、ジグソーパズルが崩れた。
オモチは初めて見る光景が楽しい。
『ネオンがバラバラになっちゃったウニ~!』
「こうして分解してから組むことで、ネオン様の絵が浮かびあがるというパズルでございます。私は分解パズルと名付けました」
「へ、へぇ~、それはすごい」
――なんだか、僕自身が粉々になった気分……。
ブリジットはまったく気にもせず、ジグソーパズルの説明を続ける。
オモチと一緒に聞いていたら、スパイ三人が連れ立ってこちらに来た。
「おいおいおい、良い物持ってんじゃねえか! あたしにも見せてくれ!」
「ネオン君がいっぱいだ! 欲しい!」
「わたくしにも一つくださいませ! サンプルでよいので!」
みな、ネオングッズを見ると顔が綻び、我先にと手を伸ばす。
だが、険しい表情のブリジットが届かない場所に上げてしまった。
「……それ以上近寄らないように。壊されてはたまりませんので」
「「またそんなこと言う! もっと見せて!」」
「乱暴にすると壊れてしまいますっ。作るの大変だったんですよっ」
文句を言うスパイ三人に、ブリジットは抵抗する。
小さな小競り合いが始まり、ネオンもオモチもおろおろとしてしまう。
「な、仲良くしてよ~」
『喧嘩はよくないウニ~』
ネオンとオモチがしていると、大きな影がサッと地面を横切った。
上を見ると、鳥が三羽飛んでいた。
結構高いのにはっきりと見えるので、かなりの大きさと考えられる。
ブリジットやスパイ三人も気づき、一緒に空を見た。
空を舞う鳥の様子を窺いながら、ネオンは呟く。
「あの大きさだと魔物だろうね。こっちに来ないといいな」
「ええ、家族かもしれません。何もしなければこのまま…………いえ、来ます!」
『こっちに来るウニ~!』
突然、大型の鳥三匹は急降下を始めた。
ほぼ垂直に近い角度での猛スピードだ。
退避するネオンたちを囲むように、瞬く間に三匹は地面に降り立つ。
全長は4mほどもあり、翼を閉じた状態でもかなりの威圧感だ。
プリズムのように反射するその翼を見て、ネオンもブリジットも息を呑んだ。
――む、夢幻鳥だ……。
夢に棲むと言われるほど美しく、気高く強い伝説級の魔物である。
ネオンは本で見たことしかなく、ブリジットでさえ出会うのはこれで二度目だった。
ブリジットは腰の剣に手を当てたまま、険しい顔で様子を窺う。
「攻撃の意思は……ないようですね。油断はなりませんが」
「う、うん、どうしてこんなところに来たんだろう」
ネオンもまたオモチを胸ポケットにしまい、腰の剣に手を当てる。
空気が緊迫したところで、スパイ三人が「大丈夫だ」と夢幻鳥たちの前に出た。
そのまま、取って知ったる様子で優しく撫でながら話す。
「こいつは帝国が誇る、帝王直属の従魔だな」
「彼は連邦に棲む、大総統直属の従魔だよ」
「この子は皇国が育てている、皇帝直属の従魔ですね」
「「えっ!」」
三人の話に、ネオンもブリジットも驚きの声を上げた。
たしかによくみると、いずれの夢幻鳥の首元にも魔法陣の刻まれた首輪がつけられている。 人間が使役する特殊な魔物――従魔の証だった。
ネオンも撫でさせてもらい、その柔らかくもコシのある翼の触り心地を楽しむ。
「これほど高位の魔物を使役できるなんて、やっぱり三大超大国はすごいなぁ……」
「同感でございます」
『敵じゃなくて安心したウニ~』
なんだか自分が褒められたような気分となり、スパイ三人は人知れず得意げな顔となるのであった。
ひとしきりネオンに撫でられた夢幻鳥は、それぞれの足首に着けられたリングを指し出す。
「ん? なんだろう、これ」
「おそらく、ネオン様宛のお手紙ではないでしょうか」
「僕宛……」
ブリジットの言葉通りに文書を預かると、三匹の夢幻鳥は優雅に飛び去った。
さっそく中身を読んでいくわけだが、読む進めるにつれネオンは手が震え出してしまった。
「う、嘘……こ、国家元首たちが…………"捨てられ飛び地"に来るぅ!?」
いずれの手紙にも、飛び地に訪問する旨が記されている。
自分に会いたいと、しかも神器の数々や領地の発展は詳細に知られており、見違えるほど豊かになっていることも伝わっていた。
しかもしかも、ネオンが作った<神恵のエリクサー>により命が救われたそうで、そのお礼がしたいとも記されている。
ちょうど一週間後に、三国とも飛び地に到着する予定らしい。
手紙を読み終わった瞬間、ネオンは思わず叫ばざるを得なかった。
「うん…………なんで!?」
三大超大国には、自分の実力はかたくなに隠してきたはずだ。
それなのに、なぜここまで詳細に伝わっているのか不明だった。
一方で、ブリジットの胸は喜びにあふれる。
「やはり、ネオン様の素晴らしさと魅力は隠そうとしても隠しきれない、ということですね!」
「でも、エリクサーはどうやって飲んだのかな。病気が治ったのは嬉しいけど」
「ふむ、それはそうですね。いったいどうして……あっ! もしかして、皆さんの大切な人は国家元首だったのでは……?」
ブリジットの言葉に、スパイ三人はギクシャクと弁明をする。
「さ、さあ、わからんなぁ~。恩師が体調不良だと聞いたのだが~。たぶん、恩師は少し飲んだだけで治ったんだ~。あまりを帝王様に渡したとか~?」
「ボ、ボクもその辺りはちょっと詳しくないな~。世話になった執事の具合悪いが悪いと聞いていたんだけど~。きっと、ちょっと飲んだだけで治ったんだよ~。残りを大総統に渡したに違いない~」
「わ、わたくしも把握しておりません~。具合が悪かったのは叔母のはずですが、おそらく少量で治ったのです~。残った分を皇帝陛下に届けたのでしょう~」
スパイ三人の弁明に、ネオンは「なるほど」と思う。
同時に、彼女たちもまた疑問に思っていた。
((なんで他国の国家元首が……?))
未だに相手を難民だと思っているため、なぜライバル国の国家元首が来るのか不明だった。
思案するもわからず、各リーダーが言うように”単なる偶然”なのだと結論づけた。
ブリジットだけはしばらく怪しんでいたが、スパイ三人に「何はともあれ、早く準備をしないと」と言われ、国家元首の訪問に頭を切り替えた。
「それでは、今からさっそく諸々の準備を進めましょう。お料理や装飾など用意する物はたくさんあります。どうぞお力をお貸しくださいませ」
「「みんなで頑張ろー!」」
『ぼくたちも手伝うウニよ!』
三大超大国の国家元首など、アルバティス王国にも来たことはない。
自然と緊張するネオンに、ブリジットは優しく語りかけた。
「ネオン様はゆっくりしていてくださいね。のんびりしていてくださいませ」
「いやいや、僕も手伝うよ。……それにしても不思議だな~。まるで、誰かが逐一報告していたみたいだ」
ギクリと動いたスパイ三人に気づかず、ネオンは家に向かう。
その日から、飛び地では国家元首訪問の準備が始まった。
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