第31話:超大国たちの反応4
ネオンが"夜鴉の翼"を壊滅させ、盗賊団はそれぞれの母国に連行され、然るべき場所に収監された。
彼らに盗まれた武器類も元いた場所に戻り、三国は大いに喜んだ。
同時に、"捨てられ飛び地"に向かう準備を進める各国家元首の下にも、詳細な報告が届いたのだった。
◆◆◆
~エルストメルガ帝国の場合~
"帝王の間"では、すでにシャルロットがグリゴリーに報告書を渡していた。
父が読み終わったタイミングで、シャルロットはどこか自慢げに話す。
「どうやら、ネオン君が"夜鴉の翼"を壊滅させたらしいわね」
「ふむ……素晴らしい活躍ぶりだ。彼は本当に12歳か? 帝国騎士団でも難義する相手だというのに」
「たくさんの領民に的確な指示を出して、最後まで統率したのも見事だわ」
"夜鴉の翼"は帝国内でも悪名轟いており、早急な捕獲・討伐が求められていた。
捕らえようとすると他国に逃げることもそうだが、何より国宝級の武器の数々に対処が難義したのだ。
構成員に帝国出身者がいる以上、常に国際問題の火種にもなり得る。
そんな面倒な盗賊団を、ネオンは捕まえてくれた。
しかも、ただ捕まえただけではなかった。
グリゴリーとシャルロットは部屋の片隅に視線を向ける。
威風堂々とした巨大な斧が、いるべき場所に戻ってきたことを喜ぶように、日差しを明るく反射していた。
「あの斧を無傷で取り戻してくれるとは、何度感謝してもしきれんな」
「ええ、私もこの目でまた見ることができて本当に嬉しい。いつか、ネオン君に直接感謝を伝えないといけないわね」
二人の視線の先にあるのは、国宝<星屑の戦斧>。
まだ国という概念ができる前、大陸に蔓延る魔物を駆逐するために天が授けたとされる斧だ。
長い年月が経っても、天より招来したと伝わる場所は聖地と崇められている。
数年前の大規模な災害に乗じて、"夜鴉の翼"に盗まれたという経緯があった。
細かい装飾の一つも破損することなく戻ってきたのは奇跡に近い。
これも全てネオンのおかげだと話したところで、シャルロットはグリゴリーに言った。
「ところでパパ、あのことだけど」
「ああ、まさか盗賊どもがネオン少年を殺すために派遣されたとは思わなかったな。それも実の父と兄たちの命令で……」
"夜鴉の翼"に対するきつい尋問の末、アルバティス王が"捨てられ飛び地"の襲撃を命じたことが判明した。
その話を聞いた瞬間、グリゴリーもシャルロットもかつてない怒りを覚えたのだった。
((命の恩人を殺されそうになった))
二人が怒りのあまり激しく練り上げた魔力により、宮殿は震え、"帝王の間"のガラスや調度品には大きなヒビが入る。
「朕の命の恩人にこの仕打ちとは……」
「とうてい、許されはしませんわね……」
命の恩人かつ国際情勢を握るキーパーソンに対する怒りで、二人は腸が煮えくり返りそうだった。
グリゴリーは怒気はらむ声音でシャルロットに命じる。
「貿易担当大臣に伝えろ。アルバティス王国に極めて重い制裁を発動するとな」
~カカフ連邦の場合~
時を同じくして、カカフ連邦。
国家元首たるガライアンとその娘アリエッタが、大総統室で"捨てられ飛び地"の一件を話し合っていた。
「……ねえ、お父様。ネオンちゃんはすっごく強いみたいですわよ~」
「神器を生み出すだけでなく戦闘能力も高いとは恐れ入った。いやはや、見事な少年だ」
連邦における"夜鴉の翼"の壊滅は、国内治安の最重要課題だった。
貴重な宝物や美術品の下に忍び寄っては、悉く盗み去って行く。
他国に渡られたら追跡が困難となり、非常に困っていた。
構成員には我が国の出身者もいるという話だから、下手をしたら国際問題にもなりかねない厄介な盗賊団だった。
ガライアンは遠い地で生きるネオンに、深い感謝の念を思いながら呟く。
「盗賊団と言えど、そう簡単に倒せる相手ではないだろうに。領民の統率力も優れているということだ。いつか、直接感謝の気持ちを伝えたい」
「感謝するのは他にもございますわね、お父様~。ネオンちゃんの功績は、連邦の正史に刻まれるべき偉業ですわ~」
「ああ、そうだな。この槍が戻ってきて本当によかった」
ガライアンとアリエッタは視線を机の上に向ける。
一番大きな執務机の上に、それは置かれていた。
国宝、<接死の必槍>。
2m近い巨大な槍は存在するだけで空気が重くなり、見るだけで貫かれる威圧感が周囲に迸る。
大陸を襲った巨大な魔龍の身体から作られたとされる槍。
これを手にした戦士は、一夜にして千体の魔物を屠ったという伝説があった。
大病が国内に蔓延し、混乱する最中に盗まれた至極の一品だ。
二人の心は喜びとネオンに対する感謝の意でいっぱいだったが、一通り喜ぶと強い怒りが沸々と沸いてきた。
我が国に連行された"夜鴉の翼"を厳しく尋問したところ、大変憤慨する事実が確認されたのだ。
「アルバティス王と王子たちが、ネオン少年を襲わせたらしいな……」
「ええ、あんな素晴らしい息子を殺そうとするなんて、何を考えているのでしょう~……」
ガライアンとアリエッタもまた、ネオンの命が脅かされたことに強い憤りを感じた。
((命の恩人になんてことをする))
二人の放った怒りは魔力の波動となり、堅牢な官邸をも揺らす。
建物全体はピシピシと揺れ、大総統室の窓ガラスは弾け飛ぶ。
宮殿内の人間は状況を理解し恐怖に震え、怒りの対象を憐れんだ。
ガライアンは憤怒を隠さぬ表情と声音で告げる。
「アリエッタ、外交官庁に伝えなさい。アルバティス王国に極めて重い制裁を下すと」
~ユリダス皇国の場合~
時をほぼ同じくしてユリダス皇国、"皇帝の間"。
バルトラスとラヴィニア及び大臣たちが"捨てられ飛び地"の報告を受けて、ネオンに至極感謝し、その実力及び統率力にも驚いた。
「ネオン少年は常にワシらの予想の遥か上を行くのぅ。なんともすごい少年じゃ」
「私もそれくらい強くなりたいな……」
"夜鴉の翼"と言えば、皇国内でも非常に悪名高い盗賊団であった。
国宝たる<夢幻の鎧>は厳重に警備、保管していたが、大地震で宝物庫が壊れ、国内情勢が不安定に陥ったとき盗まれてしまった。
それも、ネオンが取り戻してくれた。
「また見ることができて、ネオン殿には感謝感謝じゃ」
「私……この鎧好き……」
そう話す二人の前には、破損した<夢幻の鎧>が鎮座する。
皇国の古代遺跡から出土された貴重な防具。
刻まれた魔法陣を解読することで、皇国の魔法技術は飛躍的に発展した歴史があった。
その貴重な魔法陣も弾け飛び、今では単なる壊れた鎧だ。
だが、バルトラスもラヴィニアも、気落ちするどころか笑顔だった。
「これはつまり、ネオン少年の攻撃が当たったということじゃ!」
「こっちの方がいい!」
周りの大臣たちも、一緒に喜び拍手する。
ネオンが壊してくれたことがむしろ嬉しく、その場で従来の一階級上である特例国宝に認定した。
バルトラスは真剣な顔に戻り、目つき鋭く話す。
「さて、あの事実を知った以上、喜んでばかりではいられんの」
「うん……許せない……」
"夜鴉の翼"を厳格に尋問した結果、重要な事実が明らかとなった。
彼らは突発的にネオンを襲ったわけではない。
アルバティス王と双子兄に、殺害を命じられたのだ。
((命の恩人を殺そうとした))
その事実は、二人に強い強い憤りを与えた。
バルトラスは龍をも怯むほどの、老人とは思えない鬼気迫る表情で語る。
「今すぐ緊急会議を開くぞよ。アルバティス王国には、極めて重い制裁を与えねばならん」
◆◆◆
三大超大国にとっても、厄介な盗賊団を倒したネオン。
またもや自分の知らないところで、各国家元首とその娘たちからの評価が爆上がりしてしまう。
それだけでなく各国家元首は、命の恩人かつ何が何でも自国に引き入れたい超重要人物のネオンを苦しめたアルバティス王と双子兄に、途方もなく強い怒りを覚えた。
王国で呑気に豪遊する父親と双子兄が凄まじい制裁を喰らうのは、それからすぐのことであった。
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