第3話:転生王子、神器で強力な魔物を倒す
「ス、突撃猪が四体……!? 中級の魔物がこんなにいるなんて……!」
「ええ、通常ならば中級ダンジョンのボス最深部レベルですね」
猪型の魔物は突撃猪。
"捨てられ飛び地”は荒れ地と言えど枯れ木や岩など障害物は多く、その死角を利用して近づいたのだ。
筋肉質な身体は全長2mもあり、分厚い皮は頑丈な防具に使われるほど。
口から生える牙は鋭くて頑丈で、金属の鎧でも低級程度ならば簡単に貫いてしまう。
突撃猪がじりじりと自分たちに迫る中、ネオンには彼らの襲撃した理由がわかった。
「畑というよりは、僕たちの家が引き寄せちゃったのか。元々、人なんていなかった場所だしね」
「概ね、ネオン様の予想通りでしょう。突撃猪は凶暴で好戦的な性格ですから、より拍車をかけたと思われます」
突撃猪は畑には目もくれず距離を縮める中、ブリジットが剣を抜いて叫ぶ。
「ここは私が対処いたします! ネオン様は家に避難を!」
彼女は元とはいえ、伝説級冒険者だ。
四体の突撃猪が相手でも、勝利することは容易いだろう。
ブリジットの背中を見て、ネオンは思った。
――でも、それでいいの……?
飛び地に動物はあまりいないが、魔物はいる。
この土地を囲む超大国群は、自然の防衛も兼ねて国境付近に魔物を押しやる国策を取っている。
だから、各国境を超えてくる強力な魔物が多いのだ。
今回退けても、また新たな敵が襲来する可能性は十分にある。
ネオンは気持ちを固めると、ブリジットの前に歩み出た。
「……いや、僕も戦う!」
「ネオン様!? 危ないですので避難を……!」
「いつまでも守られる立場じゃダメなんだ! 僕は領地を……ブリジットを守りたい!」
力の限り叫ぶ。
宮殿では彼女に守られてばかりだった。
今度は自分が守る番だと強く決心する。
ネオンが真剣な表情で宣言すると、ブリジットは心の中で身悶えした。
(ネオン様ぁぁぁあ、かっこよすぎです! 一生ついてまいります!)
大好きな主に守ると力強く言われ、彼女の胸は激しくときめきまくった。
メイドがすぐ隣で身悶えしているとも知らず、ネオンは岩の破片を拾う。
どんな武器を作ればいいのか、もう頭の中にイメージはできていた。
「<神器生成>!」
石が白い粒子に分解され、すぐさま剣の形を成す。
ネオンの手には輝く銀色のロングソードが握られた。
女神のような神々しさと邪神のような威圧感が入り交じる神器に、突撃猪は一歩引く。
<神裂きの剣>
等級:神話級
能力:神話級以下の全てを切り裂く。術者の魔力を衝撃波に変換する。
――これで突撃猪を倒す! 領地もブリジットも守る!
剣を構えたネオンは、ブリジットと背中合わせとなる。
「一人二体だね。前の敵は僕が倒すよ! だから、背中をお願い!」
「はい、喜んで!」
ネオンが勢いよく駆け出すと、先頭の突撃猪も咆哮を上げて突進してきた。
『ガアアアアッ!』
真正面から斬りかかる……。
フリをして、即座に横に移動して突撃を交わす。
今までブリジットに受けた訓練を思い出しながら、大地を踏み締め剣を振るった。
「一閃!」
『ゴァッ……!』
突撃猪の首を撥ねた瞬間、鮮血が荒れ地に飛んだ。
<神裂きの剣>はいとも簡単に皮を切り裂いてしまった。
――す、すごい……! まったく抵抗を感じなかった!
子どもの予期せぬ反撃に、もう一体の突撃猪は怯む。
ネオンの身体は小さいが、それは裏を返せば小回りが利く俊敏な身体ということ。
選択したカウンター主体の戦い方は効果てきめんであった。
――残すは一体!
ネオンは剣を構えて睨む。
突撃猪は後ろ足で地面をかくと、猛スピードで突進した。
――反撃も与えられないくらいの速さを出したのか……でも!
ネオンの頭には、すでに<神裂きの剣>の使い方が思い浮かんでいた。
今度は避けることなく正面に立つ。
ちょうど戦闘が終わったブリジットがその光景に気づくと、悲鳴に近い声を上げた。
「ネ、ネオン様、お逃げを……!」
「大丈夫……<冥撃>!」
全力で魔力を込め、振り下ろす。
天をも貫くほどの長大な衝撃波が生み出され、突撃猪を襲う。
『……ガッ?』
突撃猪は何が起きたのかわからず、通り抜けた瞬間真っ二つに切り裂かれた。
――これで全滅だ。
ネオンはホッとひと息つき、剣を腰にかける。
いずれは鞘も作ろうと思いながらブリジットに駆け寄った。
「こっちは全部倒したよ、怪我はない? ……って、もががっ!」
「問題ありません! お見事でした、ネオン様! いつの間にこんなに強くなられて……!」
胸に埋もれる中、ネオンはどうにか顔を出す。
「僕が勝てたのも、ブリジットの厳しい訓練のおかげだよ。ありがとね」
「いえいえ、私もご指導できて幸せでございました」
彼女の笑顔を見て、ネオンは静かにあの日々を思い返した。
――地獄の毎日だったけども!
ネオンは日頃から、彼女の愛あるスパルタ指導を受けていた。
元伝説級冒険者の指導は厳しく、厳しさの間に厳しさがあり、厳しさからふと覗かせる厳しさが厳しく、厳しさのありがたみを知った。
ブリジットは愛があふれるあまり、ネオンに己の全てを注ぎ込んだのだ。
何はともあれ、とネオンは言う。
「突撃猪は解体しようか。貴重な食糧だし」
「そうしましょう」
ブリジットと一緒に解体し、たくさんの上質な肉が入手できた。
大型の魔物だったためか、皮も牙も結構な量がある。
捨ててしまうのはもったいないから、保管するのは絶対だ。
だとすると、保管場所の確保も新たな問題となる。
大型の倉庫を作るかもしくは……。
「収納といえばアイテムボックスだけど、箱や鞄だと持ち運べないからよくないよね。今回みたいに突然魔物に襲われる可能性もあるわけだし……」
「私が持ち運びいたしますが」
「いやいや、そういうわけにはいかないよ!」
できれば、常に持てるタイプにしたい。
この先遠出したときもすぐに収納できるから。
でも、小さすぎると無くしそうで不安だし……などと考えていたら、良いアイデアを思いついた。
――指輪に収納機能をつけよう!
そう思ったら、すぐに頭の中にやり方が思い浮かんだ。
どうやら、ただ石を追加で生成すればいいらしい。
「<神器生成>!」
白い粒子になった石が指輪に吸い込まれ、意匠がさらに豪華になった。
<鑑定リングver2>
等級:神話級
能力:鑑定機能の他、収納機能も追加された。翳すだけで何でも収納できる。念じると収納物を一覧表として表示してくれる。収納した素材を使って神器を生成することも可能。
「やった、うまくいった!」
「さすがです、ネオン様!」
この指輪があればどこにいても収納できるし、神器も生成できる。
ベストな選択だと思った。
その日の夕食メニューは、突撃猪のステーキと畑で取れた野菜のサラダだった。
ネオンは舌鼓を打ちながら堪能する。
「あの怖い魔物がこんなにおいしくなるなんて~。ブリジットは本当に料理が上手だなぁ~」
「ありがとうございます。素材ももちろんですが、愛が一番の調味料ですね」
「僕ももっと頑張るよ」
二人で仲良く食事をし、新天地での生活を楽しむ。
畑を耕し、飛び地で初めてとなる魔物との戦いを終え、今日も密度の濃い一日だった。
というわけで、心地よい疲労感を抱きながら横になるわけだが……。
「……きょ、今日も一緒に寝るの?」
ブリジットが密着している。
「当たり前でございます。夫婦たるもの、常にともに過ごすべきですから。それでは、お休みなさいませ」
「お、お休み」
反論する余地もなく、彼女はすぅすぅと寝息を立てた。
いつもの良い匂いと柔らかな肌触りに恥ずかしくなりつつ、ネオンも目をつぶる。
――明日は水問題をどうにかしたいな。いつまでもブリジットに頼っているわけにはいかないし。
起きたら水を確保しようと思いながら眠りに就いた。
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