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第27話:国王と双子兄、大事な特権を破壊される2

「……まったく、あいつは我が輩をいつまで待たせれば気が済むんだろうな。一秒一秒が千年の時に感じられるぞ。このままではアンデッドになりそうだ。何とかしてくれ、まだ墓地に入るには早すぎるだろう」

「父上が仰る通りです。これほどの待ち疲れは王国史上……いや、人類史上初めての苦難でしょう。俺っちがスケルトンやアンデッドになるなんて、国民の誰も望んでいないのに……なぁ、ミカエル」

「ああ、その意見には俺っちの魂が共鳴するほど全身全霊で賛成するぜ。俺っちだって、待ち疲れでゾンビになるのはお断り願いたいね。要するに、俺っちたちにそう思わせる時点で、あいつは取り返しもつかない過ちを犯しているってことさ。生涯消えない、何をしても許されない大誤算をな」

「「HAHAHA!」」


 "王の間"で、アルバティス王は双子兄と笑い合う。

 今日、王国に住むウンディーネの代表――リロイが訪れる予定だ。

 三人とも、今か今かと待ちわびている。

 ネオンを追放してから不平等な条約を結び、定期的に聖水を宮殿に納めるよう命じた。

 先日、試しに輸出したところ莫大な利益が手に入り、味を占めたアルバティス王は彼女たちの作る聖水を大量に要求した。

 普通に考えればとうてい用意できないほどの量だが、言い訳は許さない。

 早く虐めて、立場の違いを知らしめて、特権を堪能したい。

 笑い合う中、複数の使用人が"王の間"に訪れた。


「「失礼いたします……リロイ様がいらっしゃいました」」


 使用人の後ろにいる水でできた美しい女性――リロイは、しずしずと礼をする。


「こんにちは、アルバティス王。そして、エドワード王子とミカエル王子」

「ようやく来たか、ウンディーネの代表たるリロイよ。我が輩たちがどれだけ待ったか知っているか? 我が輩は貴様を待った時間で業務を一週間分進めることはおろか、三ヶ月分進めることさえ可能だ。これは損害賠償を請求せざるを得ないなぁ」


 リロイは待ち合わせ時間に一秒も遅れておらず、そもそも五分ほど早いのだが、アルバティス王及び双子兄は"時間の盗難"を主張する。

 無論、彼らにそこまでの事務処理能力はない。

 せいぜい、三日で終わる仕事を十日かけて終わらせられるほどの能力だ。

 理不尽な罵倒を受けても、リロイは笑顔を崩さずに返す。


『時間には間に合っているはずですわ。相変わらず、理不尽な要求がお好きですわね』


 毅然としたリロイの態度に、アルバティス王と双子兄は一瞬怖じ気づく。

 以前宮殿に来たときは、もっとビクビクしていたはずだ。

 居住区を提供してやっているという立場の差を考えると、王国内におけるウンディーネの地位は低い。

 清純な水源は人間にとっても貴重であり、敢えてウンディーネ側に提供することで、心理的な引け目も与えていたはずだ。

 王国内の水の綺麗な場所で暮らせることの見返り。

 それが駆け引きの切り札だったはずだ。

 アルバティス王は咳払いすると、いつもの他者を見下す顔に変わって話を続けた。


「ま、まぁ、良い。我が輩の大海のごとき広大な心は、貴様の愚かな過ちを許してやる。我が輩の広い心に比べれば小さなさざ波に過ぎんのだ。それよりも、聖水はきちんと用意してきたんだろうな? まさかとは思うが、用意してないとは言わせんぞ。もしそうなら、我が輩は大地が震え、火山が爆発し、空気が大きく振動するほど怒らなければならん」


 リロイが今回要求された聖水の量は、一般的なポーション瓶で100個。

 これは彼女たちが通常生成するのに、およそ5年はかかる量だ。

 さらに要求を受けたのは2週間ほど前。

 どこからどう見ても不可能であった。

 断固として拒否したかったが、仲間の待遇や居場所を考えると断れなかったのも事実。

 

(でも、ネオン殿ちゃんさん君様に出会えたおかげで……私たちは縛られることもなくなりました)


 リロイは爽やかな笑顔で、しかし、有無を言わさぬ力強い口調で告げた。


『聖水はありませんわ。これから先、あなたたちに納めるつもりもありません』

「「……は?」」


 彼女の言葉を聞いた瞬間、アルバティス王と双子兄は揃って間抜けな声を出した。

 まさか断られるとは思わず、一瞬呆然としてしまうが、すぐにアルバティス王は脅しをかける。


「ウンディーネの代表たるリロイよ、貴様は我が輩の要求を断るのか? だとするならば、愚か者と言わざるを得んな。貴様らがこの王国で健全な人生を送れる場所を、直ちに取り上げることもできるのだぞ? 清らかな水源地はそうそうないんだからなぁ。敢えて言うが、我が輩の要求を飲まなければ貴様らを待つ運命は苦しみと死しかない」


 凄みを利かせたつもりの目と声で話す。

 そんなアルバティス王に対し、リロイは変わらぬ笑顔で淡々と告げた。


『構いませんわ。これから、ウンディーネの一族はネオン殿ちゃんさん君様と一緒に、"捨てられ飛び地"で暮らしますから』

「「……は?」」


 本日、二度目の間抜けな声を発した。

 先ほどより衝撃が強く、しばし唖然としてしまう。

 リロイは懐から一枚の紙を出すと、使用人経由で国王と二人の王子に渡した。

 アルバティス王は奪い取り、即座に目を通す。

 徐々に、その目は怒りで充血し、紙を握る手とともにふるふると震え始めた。

 ネオンが書いた文書だ。

 ウンディーネ一族を飛び地に迎え入れることが明記されている。

 衝撃で声も出せないアルバティス王と双子兄に対して、リロイはどこか恍惚とした表情で話し始めた。


『飛び地の水は、今まで住んでいたどの土地よりも綺麗で爽やかで、ネオン殿ちゃんさん君様だって、あなた方とは比べものにならないほどの人格者です。私たちはあのような人の下で暮らしたい。それでは、さようなら。もう二度と会うこともないでしょう』


 そう言うと、リロイは"王の間"から退出する。

 取り残されたアルバティス王と双子兄は、十秒ほどしてからようやく事の顛末を理解した。 同時に、激しい怒りに身を焦がした。


「「許さんぞ、ネオン!」」


 "王の間"に、窓ガラスが割れるほどの怒号が響く。


((悔しい、悔しい、悔しい!))


 一度ならず二度も無能なはずの王子に特権を破壊され、しかも有能な亜人たちそのものを奪われた。

 物凄いストレスに頭が爆発しそうだ。 

 今すぐぶち殺してやりたいと思ったとき、アルバティス王はとあることに気づいた。

 思わず顔がにやける。


「まぁ、落ち着け、平静を取り戻せ、お前たち。もうじき、カシャムたちが飛び地に到着するはずだ。あいつらにかかればネオンなんぞ、一瞬で地獄に叩き落とされるだろう」


 父親に言われ、双子兄もハッと気づく。

 揃って締まりのない笑みを浮かべた。

 "夜鴉の翼"は、すでに総員で飛び地に向かっている。

 相手が盗賊ならば、交渉の余地はない。


「さあ、あいつが力尽き死に絶える瞬間を楽しみに待とうではないか! 我が輩たちの怒りの鉄槌が下され、ネオンの人生は終焉を迎えるのだ!」

「「HAHAHA!」」


 "王の間"に、ネオンの破滅を欲する下劣な笑い声が響く。

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