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第26話:転生王子、領地に入り込んだウンディーネを助け、深く感謝される

 ジャンヌたち地底エルフを領民に迎え入れ、あっという間に三日が過ぎた。

 飛び地にもすっかり馴染み、スパイたち元からいる領民とも仲良く打ち解けている。

 今もまた、仲間と一緒に土を耕しては喜んでいた。

 特にジャンヌは<至宝の鋤>を我が子のように愛でており、少し使ってはすぐに布で汚れを拭き取るほどだ。

 

『ネオンッ、この鋤は本当に素晴らしいの! 振るうたびに土がどんどん豊かになるのが伝わってくるわ! ずっと一緒にいたいくらいじゃ!』

「そんなに気に入っていただきありがとうございます。道具も喜んでいると思いますよ」

『そうかぁ、そうかぁ……お前も妾が好きかぁ。好きだけに鋤なんじゃなぁ』


 柄の部分にずりずりと頬をなすりつけるジャンヌを見て、ブリジットは冷めた顔で釘を刺す。


「道具はいくら愛でても構いませんが、ネオン様には必要以上に近寄らないように。そんな風にネオン様の可愛いお顔を触ったら六十枚に卸しますからね」

『またそんなことを言っておるのか。まったくもって、しつこい怖メイドじゃ。領主に近寄ってはいけない領地がどこにあるんじゃか』

「……ふむ。強く言い聞かせたと思っていましたが、伝わっていませんでしたね。あなたには今一度言っておきましょう。汚い目玉をほじくり出してこれをよく見なさい」

『そ、それは……!?』


 ブリジットはすっ……と左手を顔の横に上げる。

 微妙に揺らして、薬指の指輪をキラキラと煌めかせた。


「そう、ネオン様との結婚指輪でございます。ネオン様との愛の証! 愛の誓い! 愛の結晶!」

『ぐぎぎ……』


 ブリジットの愛ある連呼に、ジャンヌは激しく悔しがる。

 これもまた、新しい日常となりつつあった。

 ネオンは空気のピリつきを感じとり、すかさず二人の間に入る。


「そ、そろそろ、お水を汲みに行きましょう! 土も耕したことですし、お水を撒かないと!」

「……ネオン様が仰るのなら仕方ありませんね。一時休戦ですか」

『……水を汲み終わるまでだからな』

 

 ぶつぶつと文句を言う二人を連れ、ネオンは冷や汗をかきながら井戸に向かう。


 ――な、仲良し所望~、大所望~!


 井戸に着いた後、いつものようにバケツを放り込んだ。

 ここまでは……いつも通りだった。


『……いたっ!』

「えっ!?」


 思わず、ネオンは驚きの声を出す。

 井戸の底の方から、甲高い声が響いたのだ。

 何だろう……と思う間もなく、非常に危険な可能性に気づいた。

 

「もしかして、誰か溺れている!?」

「! 可能性はあります!」

『急いで引き揚げるんじゃ!』


 ネオンたちは慌てて井戸を覗き込む。

 ブリジットが光魔法で照らすが、人の姿は確認できない。

 

「……おかしいなぁ。確かに声が聞こえたと思ったんだけど」

「いえ、私も聞こえました」

『妾も耳にしたぞ。女子の声じゃった』


 ネオンが二人とそう話していたとき。

 それは起きた。

 井戸の中の水がボコボコと蠢き、どっぱぁ!と巨大な水の塊が溢れでたのだ。


「え、えええ~!」


 予期せぬ現象に、ネオンはとても驚いた。

 ブリジットは剣を引き抜き、険しい顔で一歩前に出る。

 

「ネオン様、魔物の可能性があります! 私の後ろにお下がりを!」

「い、いや、僕も戦うよ!」


 慌てて戦闘態勢を取るが、ジャンヌに至極冷静に制された。


『まぁ、落ち着くんじゃ、ネオンにブリジット。こいつは魔物ではない。ウンディーネじゃ』

「「……ウンディーネ?」」


 ジャンヌの言葉に、思わず動きを止める。


 ――ウンディーネって、あの水の妖精だよね? 人型でいることが多いと聞くけど……。


 やや薄れたものの警戒心を持ったまま注意深く見ていると、水の塊は井戸からずるりと這い出た。

 徐々に水が人の形らしき物に変わっていく。

 この頃になると騒ぎを聞きつけ、スパイ三人とその他の領民も周囲に集まっていた。

 

「おい、ネオン、無事か!? ……って、なんだこいつ!」

「途方もない水の魔力を感じるよ! ボクの防御魔法を展開するよ!」

「魔物の侵入でしょうか!? 警戒していたのに、いつの間に……!」


 ネオンは「大丈夫です。どうやら、ウンディーネらしいです」と伝え、驚くみんなと一緒に行方を見守る。

 数分も経たぬ内に、水は美しい女性の姿に変化した。

 途端に、ブリジットは顔をしかめ、一方の水人間は丁寧に頭を下げた。


『驚かせてしまい申し訳ありません。私はウンディーネのリロイと申します。この土地を放浪していたらあまりにも綺麗な水を見つけ、勝手に入ってしまいました。それもまた申し訳ありません。水を吸いすぎてしまったため、通常の形態から大きく逸脱してしまったのです』

「「なるほど……」」

『ですが、おかげさまで傷つき疲れ切った身体がバッチリ回復いたしました。本当にありがとうございました』


 やはり、本当にウンディーネだったらしい。

 ジャンヌは自分の予想が的中し、うんうんと満足げにうなずく。


 ――最初から正体がわかっていたのか。さすがは地底エルフのリーダーだね。


 概ね、その想像通りであり、ネオンはリロイに自己紹介する。

 

「初めまして、リロイさん。僕はネオンと言いまして、この土地の領主を務めさせてもらっています。よろしくお願いします」

『こちらこそよろしくお願いいたしします。……実は、あなたのことはもう知っているんです』

「えっ、そうなんですか!?」


 ブリジットの顔はさらに険しくなるが、リロイは気にも留めず話を続ける。


『井戸や水路の中を行ったり来たりしているうちに、領地のことを耳に挟んだのです。領主はネオン殿ちゃんさん君様で、瘴気に汚染された土地を懸命に開拓して、そのおかげでこんなに豊かになったことも知っております』

「そうでしたか~、ありがとうございます」


 ――すごい敬称の圧……。


 と思うネオンの手を握り、リロイはさらに興奮して捲し立てる。


『ネオン殿ちゃんさん君様は本当に素晴らしいです! これほどの瘴気 ぜひ近くで見学させてもらえませんか!?』

「ええ、それはもちろ……」


 そこまで話したところで、不意に何者かに回収された。

 ブリジットだ。

 水も凍りそうなほどの凍てついた瞳でリロイを見る。


「必要以上にネオン様に近寄らないように。よろしいですか? 私はネオン様の……」

『知ってますよ。奥様ですよね。いやはや、これは誠に失礼いたしました』

「……わかればよいです」


 ブリジットは満足げに言う。

 ネオンはホッとひと息ついた後、領地全体を案内することにした。

 畑や水路、輝く土壌を見るリロイは感嘆の声が止まらない。

 居住区外の領地は瘴気がまだまだ色濃く、放浪する彼女もダメージを受けてしまった。

 リロイは領地を見学しながら、心中で思う。


(外とは、まさしく……天と地ほどの差がありますね。ネオン殿ちゃんさん君様のスキルで浄化された水がなかったら、私も今頃どうなっていたかわかりません)


 ウンディーネの健康的な暮らしには、清純な水がたくさん必要だ。

 放浪の旅で消耗した身体に、"捨てられ飛び地"の清らかな水は、文字通り身体の隅々にまで染み入った。

 リロイはネオンから貰った追加の水を飲みながら、飛び地を訪れた理由を話す。


『実は、私は遠く離れたアルバティス王国で一族とともに暮らしておりまして、諸事情で引っ越し先を探していたのです』


 彼女の話を聞き、ネオンはひやりと心臓が冷たくなるのを感じた。


 ――諸事情って……まさか……。


 思い当たる可能性について、ネオンは尋ねる。

 どうか違っていてくれ、と祈りながら。


「ウンディーネさんたちにも、王国による圧政が始まったのでしょうか?」

『ええ、そうです。よくご存じですね。水の綺麗な場所を提供する代わりに、私たちが生み出す特別な聖水を献上しろとのご命令で……。前はこんなことなかったんですけどね。聖水を生み出すのは難しく、正直なところ負担になっているのです』


 リロイは疲れの滲む表情で詳細を話す。

 アルバティス王と双子兄は、ネオンを追放した後に圧政の対象亜人を急速に拡大し、ウンディーネもその中に組み込まれた。

 国内貴族や周辺国に高値で売って私服を肥やすために、一族の大切な儀式や祭典で用いる貴重な聖水の献上を求められていたのだ。

 ネオンはリロイの話を、拳を固く震わせながら聞いた。


「水の中から領地を見ていたなら、僕がアルバティス王国の王子ということも知っていますよね?」

『もちろんですよ。王子なんて偉い人なのに、威張らないのもまた素晴らしいです』

「……ごめんなさい」

『えっ!? ネオン殿ちゃんさん君様、どうされたのですか!?』


 リロイの話を聞き、ネオンは深く頭を下げた。

 申し訳ない気持ちで胸がいっぱいだった。


「僕の父と兄たちがひどいことをして……申し訳ありません。把握できなかった僕にも責任があります」


 ネオンの心にはリロイたちウンディーネや、王国の亜人に対する申し訳なさとふがいなさが沸く。

 隣のブリジットを見ると、静かにこくりとうなずいた。

 決心を固めたネオンは、深呼吸して気持ちを整えて告げる。


「もしよかったらですが……ここで僕たちと、一族の皆さんと一緒に住みませんか?」

『えっ!? この素晴らしい土地で……ですか?』


 ネオンの申し出に、リロイは思わず尋ね返す。

 まさか、そんな提案を受けるとは思わなかった。

 驚きで固まる彼女に、ネオンは真剣な眼差しで話す。


「僕はこの飛び地を世界中のどこよりも発展させたいと思っています。何より、亜人の皆さんが迫害されない、みんなが幸せに楽しく暮らせる領地にしたいんです」

『ネオン殿ちゃんさん君様……。あなたはなんて立派な考えの持ち主なんですか……』


 リロイは感動で涙ぐむ。

 緑も水も豊かなこの土地で暮らせるなど願っても叶ったりであり、心の中で思い描いてた理想郷そのものだ。

 ネオンは緊張しながら答えを尋ねる。


「ど、どうでしょうか……?」

『ぜひ、お願いします! 仲間もこんな豊かな土地で、ネオン殿ちゃんさん君様みたいな優しい方と暮らせると聞いたら、大喜びするはずです! 一族総出でお世話になりますね!』

「よかったです! こちらこそよろしくお願いします!」


 未来の再会を誓って、ネオンはリロイと硬く握手を交わした。

 歓迎の宴を開こうと提案したが、仲間にすぐ知らせたいとのことで、リロイはそのまま水路に向かう。

 川に入って、泳ぎながら帰るそうだ。


『ありがとうございました、ネオン殿ちゃんさん君様、そして飛び地のみなさま~。またお会いできる日を楽しみにしております~』

「「お元気で~」」


 リロイは手を振って、領地から流れ去って行く。

 ネオンも笑顔で見送りながら、傍らのジャンヌと話す。


「ウンディーネの皆さんもいらっしゃるなんて、これからもっと賑やかになりそうですね」

『ああ、水の精霊と暮らせるとは妾たちも誇らしいのぉ。これも全部ネオンの人望と力のおかげじゃな』


 スパイ三人も領民も温かい瞳で、水路を遡るリロイを見送る。

 彼女たちは心の中で、またもやネオンに対して感銘を受けていた。


(……やっぱり、ネオンはすげえヤツだ。ウンディーネと一緒に住むなんて、帝国でもあり得ないぞ)

(ネオン君は精霊さえ虜にしてしまうんだね。さすがだよ)

(わたくしも……見習わないといけません。もっと立派な人間になりたい)


 色々と思われているとも露知らず、ネオンは隣のブリジットを見る。

 領地の展望を喜んでくれているはずだと。


「ブリジットもそう思……うぐっ」


 彼女だけは鷹のように視線が厳しかった。

 さっと血の気が引くのを感じる。


 ――ブリジットのジト目……。これはもしかして……もしかしてだよね?


 ネオンはごくりと唾を飲み、緊張しながら尋ねる。

 

「あ、あの~、何かお気に召さないところが……」

「……また女性ばかり来るんですかね」

「い、いやっ、男性のウンディーネもいると思うよっ」

「なんでこう、ネオン様の周りにはいつも女性が集まるのでしょうか」

「ま、まだ、決まったわけじゃないからねっ。どうか機嫌を治してぇっ!」


 頬を膨らますブリジットを、ネオンはいつまでも懸命に宥めていた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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