第21話:超大国たちの反応3
ルイザ、ベネロープ、キアラが入手した<神恵のエリクサー>は、無事にそれぞれの国に届き、国家元首の下へと運ばれた。
◆◆◆
~エルストメルガ帝国の場合~
宮殿にあるグリゴリーの寝室。
豪奢な輝く意匠の室内に反して、ベッドに横たわる主の顔色は非常に悪い。
顔は血の気が失せて青く、額には冷や汗が滲み、部屋にはぜいぜいとした苦しげな呼吸音が響くのみ。
周囲にいる医術師や薬師も暗い顔だ。
グリゴリーの容態は悪化の一途を辿っており、ネオンの薬に一縷の望みを懸けるしかない状況だった。
重い沈黙が支配する中、寝室の扉が勢いよく開かれシャルロットが転がり込んできた。
「……パパ! 薬が届いたわ! 瘴気病を治したあの薬よ!」
彼女の叫びにも近い喜びの声に、室内はどよめく。
みな、ネオンの薬の件はすでに承知しており、現状を考えると彼に懸けるしかないとも実感していた。
シャルロットは勢いそのまま、父のベッドに走り寄る。
「これを飲んで、パパ! きっと、この薬を飲めば絶対に治るわ!」
「あ、ああ……」
グリゴリーは渡されたエリクサーを飲む。
盃を呷るように飲み干した瞬間、彼の表情が一変した。
文字通り真っ青だった顔は血の気が戻り、物憂げな瞳には力強さがあふれ、体調不良を暗示する不気味な冷や汗も消え、代わりに大国を導く立派な帝王がそこにいた。
傍目からも身体が回復したことが、目に見えてわかるほどの変化だった。
グリゴリーは呆然としながら、自身の変化を自覚する。
「呼吸が……楽だ。喉に栓をされたように辛かった呼吸が、まったく辛くないぞ」
「薬が効いたのね! パパの病気は治ったのよ!」
父と娘は抱き締め合って喜ぶ中、すかさず、医術師たちが診察道具を持って駆け寄った。
「帝王様、念のため診察いたします!」
医術師がグリゴリーの胸を診察した結果、病は完全に完治したことが明らかになった。
どんな薬や回復魔法でも治らなかった病が……。
「治ってる……完治しております! これは奇跡……奇跡でございます!」
たちまち、室内には大歓声が沸き起こる。
響く喜びの声の中、グリゴリーとシャルロットは互いに強く抱き合った。
「ありがとう、シャルロット……いや、お礼を言うべきはネオン少年だな! 彼のおかげで、朕は愛する娘ともっと一緒にいれるのだ!」
「そうね! いつか、必ずお礼を言いに行きましょう! 私たちを救ってくれたネオン君に!」
喜びにあふれるシャルロットが思うのは、ただ一つのことだけ。
(ありがとう……ネオン君……本当にありがとう……!)
グリゴリーや医術師たちと同じように、シャルロットもまだ顔も知らぬネオンに深く深く感謝した。
~カカフ連邦の場合~
時をほぼ同じくして、カカフ連邦。
こちらでも国家元首たるガライアンが激しい眩暈のため、寝室のベッドから立てないでいた。
見る者を威圧するほどの澄んだ眼も今は苦しげに閉じられ、眉間に浮かぶ深い皺が体調の悪さを物語る。
彼の周囲に控えるは、国内有数の医術師や薬師。
みな、打つ手がないことに心が壊れそうであった。
息も吸えぬほどの重い重圧の中、不意にカッカッカッ!という靴音が廊下から響く。
扉の前で止まるや否や、アリエッタが勢いよく扉を開け放った。
「……お父様! 薬が届きましたわ! ネオンちゃんが作った、というあのエリクサーです!」
彼女の言葉が響いた瞬間、医術師や薬師はにわかに色めき立つ。
打つ手なしの現状において、唯一といってもいい希望だった。
アリエッタは父の下に駆けると、そっと身体を抱き起こす。
「お父様、お辛いでしょうけどこれを飲んでください。ネオンちゃんのお薬です。きっと……いえ、絶対に治るはずですわ」
「すまない……世話をかけるな……」
ガライアンは神々しい輝きを放つ薬を持ち、ゆっくりと、しかし一度も口を離さず飲み込んだ。
最後の一滴まで飲み干した瞬間、彼の表情は一変する。
力なき紫色の瞳には生命があふれ、アメジストの如き輝が舞い戻った。
そのまま、感激した様子でベッドから勢いよく降り立ち、感極まる声で叫ぶ。
「眩暈が消えた……! 視界が揺らぐことも、船酔いしたような気分もない! 治った……私の病気は治ったんだ!」
「お父様!」
すぐさま医術師たちが診察をし、ガライアンの言うように完治したことを確認する。
室内は割れんばかりの大歓声で包まれ、誰もが笑顔だった。
ガライアンは娘の頭を撫でながら、感慨深い気持ちで話す。
「ネオン少年には感謝してもしきれないな。彼のおかげで、私は再び健康を取り戻すことができたのだから」
「ええ、いつか必ず、お礼を言いに行きましょう! ネオンちゃんが統治する、"捨てられ飛び地"に!」
(ありがとう、ネオンちゃん! あなたのおかげでお父様が救われたわ!)
父に抱きつくアリエッタの心は、ネオンに対する喜びと感謝の思いでいっぱいになった。
~ユリダス皇国の場合~
これまた時を同じくして、ユリダス皇国。
皇帝のバルトラスは心臓の痛みに耐えかね、寝室で横になるばかりであった。
周りではたくさんの医術師や薬師が懸命に治療を進めるが、容態は悪化の一途を辿る。
時が経つにつれ彼らにできる行動は減り、祈るしかなかった。
ずしりとした暗くて重い空気が室内を支配する中、タタタッ……と廊下を走る音が聞こえる。
音が止まったとき、扉がカチャッと開き少女が顔を出した。
「薬……届いた!」
「「ラヴィニア様!」」
ベッドに走る彼女を、医術師も薬師も祈るように見る。
バルトラスの病気はキアラの調合した薬でも治せず、もう手の打ちようがない。
飛び地で領主を務めるというネオンが、文字通り最後の希望であった。
顔のすぐ横に来た孫娘を見て、バルトラスは消え入るように呟く。
「……ワシはもうダメかもしれんの……」
「やだ! お爺様は絶対に生きるの! 急いでこれ飲んで! 絶対、絶対病気治るから!」
「むごっ……」
ラヴィニアは半ば無理やりエリクサーを飲ませる。
自分のペースなどおかまいなしに注がれることの方が苦しかったが、全部飲み終わった瞬間、バルトラスは確かな異変を感じ取った。
「胸が……心臓が……楽じゃ! 心臓の鼓動も落ち着いておるし、何より苦しゅうないぞ!」
「「! それは真ですか、皇帝陛下! 直ちに診察を……!」」
医術師や薬師が心臓の状態を確認するが、至って健康そのものだ。
バルトラスの命を蝕んでいた病は、もうどこにもない。
完治が確認され、室内は大歓声が沸く。
「「治った……皇帝陛下の病気が治ったぞー!」」
バンザーイ!と各々が叫ぶ中、バルトラスとラヴィニアは強く抱き合う。
「薬を貰おうと言ってくれてありがとうの、ラヴィニア」
「お爺様……元気になってよかった……!」
「ネオン少年にも感謝の気持ちを伝えに行こうの」
「私も……絶対に行く……!」
(ありがとう、ネオン……。ネオンのおかげで……お爺様元気になった……)
ラヴィニアの頬を、熱い涙が伝う。
◆◆◆
国家元首たちとその娘は、みなネオンに感謝し、それぞれのスパイにも感謝と労いの言葉をかける。
ネオンは最早、一介の領主から"命を救ってくれた恩人"に何段階もランクアップした。
また、国家元首たちは病気が完治したことで、「ライバル国より一歩リードした!」とも喜んだ。
実際のところはみんな一緒に治っているのでリードも何もないのだが、彼らは知る由もない。
結局、ネオンは自分の知らないところで三大超大国の国家元首たちの命を救い、結果として多大な恩を売ってしまうのであった。
各国家元首たちは感謝の意を示すため、命を救ってくれたお礼の品の手配を始め、”捨てられ飛び地”に向かう準備も進める。
深い感謝を伝え、自国への勧誘をするために……。
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