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第20話:転生王子、スパイたちにエリクサーをあげる

 行商人のティアナと再会してから、ネオンは領民とともに土地の開拓を広げつつ、"兎人族"の家を作る場所を検討する毎日だ。

 今もブリジットとともに、領地の中を歩いていた。


「ティアナさんたちのお家はどこに作ろうかな~。結構人数が多いみたいだから、広いところがいいよね。一族みんなで一緒にいたいだろうし」

「端っこでよろしいかと。あの騒がしい商会長に、私たちの愛あふれる生活を邪魔させるわけにはいきません」

「何もしないと思うけど……」

「いいえ、気を抜くことはできません。商人相手に、油断も隙も禁物でございます。ただでさえ、隙あらばネオン様のお身体に触ろうとする不埒な者ですから」


 ネオンとブリジットの家と領民たちの家は、微妙に離れている。

 無論、領地が発展しても静かに愛を深めたいという彼女の希望であった。

 ブリジットはなおもティアナの住居について計画を話す。


「少なくとも、私たちの家からは離れた場所にしましょう。いっそのこと、地下でもいいですね」

「い、いや、それはちょっとさすがに……」


 可哀想だから、と言おうとしたとき、ルイザ、ベネロープ、そしてキアラがこちらに来た。

「ネオン、ちょっと頼みがあるんだが……」

「君にしか頼めないことがあってね……」

「お力を貸していただけないでしょうか……」


 三人とも、やけに神妙な面持ちで話す。


「はい、何でしょうか。僕にできることでしたら何でも協力します」

「私も全面的に協力いたしますよ。領主の妻として、ネオン様の隣で」


 そう答えると、ルイザ、ベネロープ、キアラは顔を見合わせる。

 一瞬の後告げたのは、「<神恵のエリクサー>を作ってほしい」という旨の言葉だった。

 緊張した様子のスパイ三人に対して、ネオンはサッと顔が青ざめる。


 ――エリクサーって、まさか……。


「どこか具合が悪いんですか!?」

「いや、違う!」

「違うんだ!」

「違います!」


 心配したら、会話を被せるようにして勢いよく否定された。

 じゃあ、どうして……と思ったとき、その疑問を感じ取ったようにスパイ三人は事情を話す。


「実は、帝国に残してきた大切な人がな、病気なんだ。ずっと肺が悪いらしい」

「実は、連邦にいる大切な人が具合悪くてね。ひどい目眩に襲われているんだ」

「実は、皇国の大切な人が体調を崩されておりまして。心臓が弱っているのです」

「「へぇ~、そんなことが……」」

 

 スパイ三人は本国から指令を受けた後、それぞれネオンの元に向かった。

 その過程でなぜか合流し、誰からともなく「本国にいる大切な人のために、エリクサーを作ってもらいたくて~」という話をし、「それなら一緒に頼みに行こう~」となり、今に至るのであった。

 ネオンは体調は問題ないと聞きホッとするが、同時に彼女たちの背景に思いを馳せる。


「自分たちも難民で大変なのに本国に残してきた人を心配されるなんて、皆さんは本当にお優しい方々ですね」


 笑顔で話すネオンに、スパイ三人は胸を打たれ、良心にダメージを受けた。


「「……くっ!」」

「えっ、大丈夫ですか!?」


 胸を押さえて呻く三人を見て、ネオンはまたもや心配になる。

 

「やっぱり、どこか具合が悪いんじゃ……。なんだか頬っぺたも赤いですし」 

「いいえ、問題ないと思います。ネオン様の勘違いでしょう」

「なんでブリジットが代わりに回答を……。何はともあれ、薬を作りましょう。いくらでも作れますからね……<神器生成>!」


 ネオンが魔力を集中すると、<神恵のエリクサー>が三つ生成された。

 指輪に貯め込んだ素材は大量にある上に、日頃から補給しているので、すぐにスキルを使えるのだ。

 渡そうとするが、ふととある問題に気づいた。


 ――この場合、制裁の解除はどうすればいいんだろう。三人の大切な人と僕は会ったこともないわけだから、そもそも一緒に過ごしたことすらない……。


 このままエリクサーを渡しても、あの制裁が発動してしまう。

 ネオンが困ったなと思ったとき、例の無機質なアナウンスが頭に響いた。


〔使用頻度による経験値が貯まったので、神器生成の能力が更新されました〕


 ――えっ、そうなの?


〔はい、そうです〕と響き、自然と脳裏に文字が浮かんだ。



【神器生成】

 ※制裁対象については、生成主が指定した人物を外すことができる。



 ――あらっ。


 グッドタイミングで制裁を外せる要件が緩くなっていた。

 これなら問題ないと、ネオンはエリクサーを持って宣言する。


「ルイザさん、ベネロープさん、キアラさんが国に残してきた大切な人は、制裁から解除!」


 エリクサーの上に文言を確認し、ネオンはスパイ三人に渡す。


「はい、どうぞ。これでもう制裁を受けることはありません。病気が治ってくれるよう、僕も祈らせてもらいます」

「すまないな。助かるよ」

「ありがとう、ネオン君」

「このご恩は忘れません」


 スパイ三人が意気揚々とエリクサーを受け取ろうとしたとき、ブリジットが彼女たちの腕を止めた。


「ちょっとお待ちなさい」

「「?」」

「ネオン様の薬を……どうやって国に届けるのですか?」


 ブリジットに聞かれ、スパイ三人は一瞬表情が硬くなったが、すぐに平常心を取り戻した。 すぐさま思考を巡らせ答える。


「それはまぁ、国境にいる古くからの友人を経由するって感じだな」

「忘れたのかい? ボクは魔法使いさ。転送させるんだよ。割れないように、まずは国境の仲間に飛ばす予定だけどね」

「国境付近にいる、皇国の仲間に渡すのです」


 流暢な説明を受けても、ブリジットの訝しげな視線は消えない。


「そもそも、国境付近には強い魔物がいるのでは? お仲間はずっとそこで待機しているのですか? 荒れた国内情勢で? ……怪しい」

「まぁまぁ、国境付近に支援者がいるってことだよ。……はい、どうぞ。<神恵>のエリクサーです」


 ギクリと微妙に動いたスパイ三人に気づかず、ネオンは今度こそエリクサーを渡す。


「ありがとな、ネオン」

「本当にありがとう」

「ありがとうございます」


 ルイザ、ベネロープ、キアラはお礼を述べた後、すぐに行動を開始した。

 

(とりあえず、目的の薬は手に入った……ありがとう、ネオン!)

(感謝してもしきれない、この恩は絶対に返すから……ありがと、ネオン君!)

(これがあれば皇帝陛下も健康になられるはず……ありがとうございます、ネオンさん!)


 スパイたちは、ネオンに貰ったエリクサーをそれぞれの方法で本国に届ける。

 超大国の元首たちは薬の質の高さに驚き、病が治り、感謝をし、ネオンは自分の知らないところでさらに有名になってしまうのは、確実のことであった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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