第2話:転生王子、メイドに結婚指輪をプレゼントしてしまう
翌日。
ブリジットのおいしい朝食を食べ終わったネオンは、彼女とともに家の前に出る。
「昨日はよく眠れた? ちょっと狭かったかもだけど……」
「ええ、ネオン様が隣にいらっしゃったおかげで、至極幸せな気持ちで眠ることができました。ネオン様を抱き枕にして眠る夢を見たほどでございます」
「そ、そう。それならよかった……。さてと、まずは"食"をどうにかしないとね。動物はまったくいないし、畑でも作った方が良さそうだ」
「仰るとおりでございます」
目の前には、荒廃した土地が広がる。
吹き抜ける風もどこか空虚な感じだ。
――ブリジットが持ってきてくれた食糧にも限りがあるし、早急に自給自足の環境を整えたいところだけど……。
ネオンは地面の土を触ってよく確かめる。
一応、土の体裁は保っており、握り締めると小さな土塊になった。
だが、触るだけで手がビリビリと痺れ、瘴気の汚染を色濃く感じる。
これでは作物などまるで育たないだろう。
――まずは状態をよく把握しないと。でも、僕に鑑定魔法は使えないし……そうだ!
考えると、一つのアイデアが思い浮かんだ。
「鑑定用の魔導具を作ろう! 土の状態をよく調べるんだ!」
「名案です、ネオン様!」
鑑定魔法は数ある魔法の中でも習得が困難であり、ブリジットにも扱えない。
でも、【神器生成】スキルならどうにかなるはずだ。
――眼鏡タイプだと魔物に襲われたとき壊れる可能性があるし、ペンダントだと重そうだ。だとしたら……指輪はどうかな。
軽いしいつも装備できるので、ピッタリだと思った。
手頃な小石を拾い、魔力を込める。
「それっ……【神器生成】!」
小石が粒子に変わり、手の平に二つの指輪が乗っかった。
<鑑定リング>
等級:神話級
能力:かざすだけで物の価値を見定めることができる指輪。
「やった、できたっ!」
「お見事です、ネオン様! ……でも、どうして二つ作られたのですか?」
そう尋ねる彼女に、ネオンはそのうちの一つをそっと笑顔で差し出した。
「はい、ブリジットの分だよ」
「わ、私の……指輪……ですか?」
「うん、ブリジットも持ってた方がいいと思うんだ」
共に飛び地の物を鑑定できれば効率が良いし、大事な情報は共有したい……と思ってのことだったが、彼が大好きなメイドは激しく勘違いした。
(これはもしや……結婚指輪では!? デザインも一緒だし!)
感動と喜びで胸が満たされるブリジットをよそに、ネオンは指輪をどこに着けようか考える。
――どの指に着けようかな。とりあえず、左手の薬指でいいか。
何の躊躇もなく嵌めたネオンを見て、ブリジットは感激する。
(やっぱり、結婚指輪だったんだあああああ!)
自分で着けてもいいが、できれば……というより絶対に着けてもらいたい。
「すみません、ネオン様。指輪を着けてくださいませんか? 急に腕が痛くなってしまいまして」
「えっ、大丈夫!? もちろんいいよ」
ネオンは彼女の左手を取り、そっと指輪を嵌める。
もはやブリジットは喜びで気絶しそうだ。
(きゃああああっ! もうダメもうダメ、嬉しすぎて気絶するぅぅう! 一緒に来てよかったぁぁあ!)
心の中で歓喜の声を叫ぶ。
ネオンは互いの左手薬指に同じ意匠の指輪が嵌められた光景を見て、ふと思った。
――……あれ? これはもしや……結婚指輪では!? デザインも一緒だし!
何も考えずに、互いの左手薬指に嵌めてしまった。
これでは無理やり妻にしたようなもの。
ブリジットが嫌なのでは……。
「これはその、えっと……!」
「ネオン様……このブリジット、人生で最上の喜びを感じております。これからも精一杯尽くしますからどうか……大事にしてくださいね?」
「う、うん……そうだね」
あふれる嬉し涙を拭きながら感動するブリジットに安心するものの、もう色々と戻れないことも実感した。
何はともあれ、気を取り直して土を鑑定する。
「……こほんっ、まずは土を鑑定してみよう」
「はい、さっそく使わせていただきます」
土に指輪を翳すと、二人の目の前にゲームのステータス画面のような映像が現れた。
<瘴気汚染土>
等級:ゴミ級
説明:地下500mまで瘴気に汚染された土。常に瘴気が蒸発して生物を苦しめる。神話級の魔法や魔導具でないと1mmも浄化できない。
――なんだかゲームみたい!
前世の経験があるネオンは驚くより感心したが、ブリジットは初めての経験に驚愕しきりだった。
「す、すごい……物の価値が詳細にわかります! これは素晴らしい魔導具ですよ、ネオン様! ここまで精度が高い魔導具も魔法も、超大国ですら未だ開発されていません! まさしく、国宝級の指輪です!」
「ありがとう、うまくいったみたいで良かったよ」
鑑定系統はその難易度の高さから、超大国でも扱える者はそもそも少ない。
同じ機能を持つ魔導具も同様だ。
――とはいえ、かなり土の状態は悪いな。地下500mまで汚染されているとは……。表層だけどかすだけじゃダメだね。
真剣に考えていると、ブリジットが一つの案を出した。
「効くかわかりませんが、私の魔法で回復してみましょうか? ネオン様だけに頼ってばかりではいけませんので」
「ありがとう。お願いするよ」
ブリジットは剣術だけでなく魔法も得意だ。
攻撃系統が専門だが、回復系統にも精通していた。
「《超絶回復》……!」
彼女の手から緑の光が放たれ、地面の一部を覆う。
伝説級の回復魔法だ。
光が消えた後、再度鑑定するが土の状態は変わらなかった。
「伝説級では無理ですか……。申し訳ありません、私の力不足ですね。旦那様がこんなに素晴らしい方なのに、妻として恥ずかしい限りです」
「い、いや、ブリジットのせいじゃないよ。ところで、ちょっと考えてみたんだけど、土を耕すと言えば……」
「鍬でございますね!」
「そう、僕のスキルなら作れるはず……!」
ネオンは木の枝と石を集め、魔力を込める。
「<神器生成>!」
白い光が舞った後、一対の鍬が完成した。
<至宝の鍬>
等級:神話級
能力:瘴気を打ち祓える神具。これで耕された土は、作物を何等級も進化させる。
手に持つ鍬は適度に重く、少年の身体でも難なく扱えそうだ。
――よし、いい感じ! これで土壌改良だ!
ブリジットは衝撃のあまり、鍬を持ちながらふるふると震える。
「こ、この鍬も神話級……って、昨日過ごした家も神話級だったのですか!?」
「うん、このスキルは本当に便利な力だね……って、ブリジット!?」
「神話級の新居を作ってくださるなんて、妻冥利に尽きます!」
「ちょ、ちょっと離して~……!」
彼女に力強く抱き締められ、ネオンは胸に沈んでしまう。
またもや窒息寸前のところでどうにか脱出した。
「一応、鍬はブリジットの分も作ったけど疲れているなら休んでていいからね?」
「いえ、やらせていただきます。夫婦で初めての共同作業ですから」
「そ、そうだったね……よーし、開拓を頑張るぞー!」
「はい、王都以上の領地にしましょう!」
ネオンはブリジットと一緒に、鍬を振るって土を耕す。
鍬の効能は著しく、瞬く間に瘴気を祓い土壌を改善する。
ひとまず5m四方を耕すと、そこだけ煌々と白い光を放つほどだった。
<神呼びの土>
等級:神話級
説明:栄養満点の土壌。どのような作物でも育つことができる。
一変した土壌を見て、ブリジットは歓喜の声を上げる。
「やりましたね、ネオン様! これ以上ないほどの肥沃な土地です!」
「さっそく、種を撒こう!」
ブリジットが宮殿から持ってきてくれた種を協力して撒くと、彼女が魔法で水を撒いてくれた。
「ひとまずは、これで大丈夫だと思います」
「ありがとう、ブリジットがいてくれてよかったよ」
「いえいえ、それはこちらのセリフでございます。ネオン様こそ我が人生ですので」
「そ、そうだね、ありがとう。じゃあ、少し休憩しようか……って、ええええ!」
「畑がすごいことになっています!」
撒いたばかりの種は芽吹き、茎を伸ばし、次から次へと成長する。
唖然とする二人を横目に、作物は瞬く間に実をつけてしまった。
<ソルトマト>
等級:神話級
説明:太陽のようにパワー漲る真っ赤なトマト。一口食べただけで身体の疲れはたちまち霧散してしまう。
<ムーンナス>
等級:神話級
説明:月のエネルギーを閉じ込めた紫色のナスで、食べると一晩中走っても疲れないほどになる。アク抜きも必要ないくらい瑞々しい。
<神々キュウリ>
等級:神話級
説明:豊富な魔力が詰まったおいしいキュウリ。超上級の回復ポーションより魔力の回復効果が高い。
光り輝く作物たちに、ネオンもブリジットも驚きを隠せない。
「し、神話級の野菜ばかり!? こんなの宮殿でも見たことないよ!」
「これほどの作物、豊かな超大国群でも収穫できません! どれも間違いなく国宝級です!」
いずれも国宝級どころか、アルバティス王国では栽培することさえできない作物ばかりだ。 ネオンはブリジットとハイタッチして喜びを分かち合う。
「さすがでございます! ネオン様に不可能はございませんね! この調子ならすぐに王都を越えてしまいます!」
「ブリジットの水魔法のおかげで……もががっ!」
毎度のように胸に埋もれてしまうのだが、今回はすぐに引き離された。
――ああ、よかった。あまり良くないとわかってくれ……うわっ!
「ネオン様、お下がりください! <水重弾>!」
突然、ブリジットが一歩前に飛び出し、10mほど先の岩に向かって水の弾丸を放った。
岩が砕れた瞬間、影に潜んでいた魔物が姿を現す。
「ま、魔物!?」
「どうやら囲まれてしまったようですね」
ネオンとブリジットは、猪型の魔物に囲まれていた。
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