第11話:転生王子、風土病から領民を助ける
土地を耕し始めて、およそ一週間後。
神器の効力か、領民たちのやる気か、はたまたブリジットの愛の賜物か、領地の開拓はずいぶんと進んだ。
今やネオンの家の周囲、直径500mほどの範囲が浄化されていた。
収穫した野菜の種を撒き、さらに収穫して種を撒き……と、畑もかなり拡張されている。
ネオンは隣のブリジットに汗を拭かれながら、すっかり様変わりした領地を見渡した。
「だいぶ領地っぽくなってきたね。努力が形になっていくようで、なんだか嬉しいな」
「この調子でもっともっと発展させましょう。いずれは、私たちの子どもも過ごすわけですしね」
「ちょ、ちょっと気が早すぎるような……」
そんな会話をしているときだった。
突然、畑を耕していたベネロープがパタリと倒れた。
ネオンとブリジットは大慌てで駆け寄る。
「どうしました、大丈夫ですか!?」
「何があったのです!」
彼女を起こすと、汗だくの顔にドキリと心臓が脈打った。
ベネロープの苦しげな声が小さく響く。
「……うっ、わからない……んだ。いきなり……身体が苦しくなって……」
「「しっかり……!」」
二人が必死に介抱していると、ルイザとキアラを含めた他の領民もみな集まってきた。
「いったいどうしたので……ごほっ……」
キアラは何か言う前に、他の領民とともにパタリと倒れてしまう。
全員、顔は青ざめているのに、身体は熱湯を触っているかのように熱い。
さらに、身体の表面には黒い斑点模様が薄らと現れていた。
領民が襲われている状況に、ネオンもブリジットもハッと息を呑む。
「ネオン様、これはもしや……!?」
「たぶん……瘴気病だ……!」
瘴気病。
その名の通り、瘴気が原因の病のことだ。
ネオンたちは飛び地に来てからすぐに鍬で浄化したり、家を建てたりと汚染から身を守ることができた。
一方、領民は三週間近く放浪していたため、蒸発した瘴気に身体を蝕まれていたのだ。
事前に耐性訓練は受けていたものの飛び地の瘴気は想定以上に質が悪く、領民たちは発症してしまった。
唯一、ルイザだけは倒れておらず、ネオンは慌てて彼女も慮った。
「ルイザさんは大丈夫ですかっ?」
「ああ、あたしは平気さ。こう見えても、毒の類には強いんだ」
彼女は力強い口調で話すが、その全身には薄い斑点模様が浮かび、額には汗が滲む。
時間が経てば、みなと同じ状況に陥ってしまうだろう。
すかさず、ブリジットが魔力を集める。
「私が回復魔法で対処します! まずは、ベネロープさんを……《超絶回復》!」
強い緑の光がベネロープの全身を包み込んだ。
彼女の顔から苦しみの表情が少し消え、汗も若干弱くなる。
だが、決定的な治癒に至っていないのは明らかだった。
「くっ……効果は薄いということですか……!」
「それなら、僕がスキルで薬を作るよ!」
ネオンはさっそく【神器生成】を発動しようとしたが、傍らで横たわるキアラが硬い表情で腕を掴んだ。
「この……瘴気の質は……相当に悪いで、す。おそらく、わたくしの薬でも治らないかと……。ですから……感染する前に、逃げて……ください」
キアラは難民になる前は有名な薬師で、皇帝陛下にも薬が献上されたことがあると言っていた。
その彼女が言うのなら、確かにかなりまずい状況なんだろう。
でも、逃げるなどあり得なかった。
「領民を置いて逃げる領主がどこにいるんですかっ。回復魔法がダメでも薬がダメでも、やるしかありません!」
そう言った瞬間、ネオンの頭に知識や閃きが流れ込んできた。
収納した素材を消費し、一気に生成する。
「<神器生成>!」
ネオンが魔力を込め終わると、何本もの光り輝くポーション瓶が生み出された。
<神恵のエリクサー>
等級:神話級
能力:あらゆる病や怪我を治す治療薬。どのような秘薬もこの薬の前では霞む。
「さあ、これを飲んでください! ブリジットも手伝いをお願いっ」
「承知しましたっ」
「あたしも手伝うよ!」
ブリジットやルイザと手分けして、ネオンは薬を飲ませていく。
エリクサーを一口飲ませるだけで、身体から黒い斑点模様が消失していった。
――すごい……こんなに効力があるんだ……。
ネオンもそうだが、それ以上に周囲の人間が驚いた。
領民は呟くように驚きを口にする。
「あっという間に……治っちまった……。あんなに辛かった瘴気病が……」
「ま、まるで信じられません……。これほど強力な薬がこの世にあるなんて……」
懸命に介抱すると、みな瘴気病から回復した。
ネオンは明るさと元気の戻った領民にホッとする。
「よかった……みんな治ったんだね……」
「お見事です、ネオン様! ネオン様のおかげで、領地が救われました!」
「うん、本当によかった……って、うわっ!」
喜ぶブリジットに両手を掴まれ、ぐるぐると振り回されてしまう。
そんな二人に助けられた領民がどんどん集まってくる。
「ありがとうございました、ネオン様! 俺、もう死んじまうのかと思いましたよ!」
「これほど辛い思いをしたのは人生で初めてでした! でも、ネオン様のお薬を飲んだら一瞬で楽になりました!」
「なんてお礼を申し上げたらいいのでしょう! あなたは命の恩人です!」
任務のことは忘れて、涙ながらにお礼を述べる領民に、ネオンは笑顔で応える。
「どんなに強いスキルでも、一番は人のためになってこそ……ですから」
その言葉は、領民たちの心にすとんと落ちた。
(この少年は……人のために強いスキルを使える人なんだ)
(領地に来てからも……ずっと、私たちのために働いてくれている……)
本国のためとは言え、心優しいネオンに真実を言えない状況が心苦しい。
領民とにこやかに笑顔を交わすネオンを見て、ルイザ、ベネロープ、キアラはとある特別な感情の種が芽生えたのを感じた。
(ネオンはいつだって……あたしらのために一生懸命だな……)
(まだボクよりずっと小さいのに、君はどうしてそんなに立派なんだ……)
(わたくしの薬より何段階も強力な回復を……惜しげもなく使ってくれた……)
目立ちたくないと言いつつ、どのようなときも"大事な領民"のために行動する。
そんなネオンが"好き"という感情の種が……。
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