第10話:転生王子、宣言する
難民をスパイと気づかず、領民として迎えた翌日。
ネオンがブリジットと外に出ると、昨日作った家々が目に入った。
家があると賑やかに見え、小さな街にも見える。
"捨てられ飛び地"を訪れた当初からは、想像もつかない光景だ。
まだまだ規模は小さいものの、領地がこつこつと発展している様子を見るのは嬉しく、やりがいを感じた。
ネオンは感慨深げに、隣のブリジットに話す。
「人が増えて、なんだか領地らしくなってきたね。この調子でどんどん発展させたいな」
「ええ、そうですね。まぁ、女性が多いのは気になりますが」
もちろん、ブリジットも領地の発展は嬉しいが、ネオンと二人っきりの環境ではなくなってしまい、残念と言えば残念でもあった。
彼女はもどかしい葛藤を感じ、思わず呟いてしまう。
「……くっ! 発展は喜ばしいですが、ネオン様との愛を紡ぐ時間が減るのは忍びないですね……! これが葛藤……っ!」
「ん? どうしたの?」
「何でもございません」
ネオンは「さっきの呟きは何だろう?」と思いつつ、家々の真ん中の広場に立つ。
彼を見て、周囲には領民がぞろぞろと集まってくる。
今朝、これからの方針を伝えることにしていたのだ。
全員集まると、ブリジットが家から持ってきてくれた椅子に登った。
目の前にいるのは、総勢30人の領民。
みな、真剣な眼差しでこちらを見る。
自分は領主なのだと、改めて実感した。
――僕は"捨てられ飛び地"の領主……。みんなが幸せに暮らせるように導かなければ……。
ネオンは心を落ち着かせ、緊張しながら呼びかけた。
「えー……皆さん、おはようございます。領主のネオンです。きょ、今日の天気は晴れですね」
硬い表情で切り出すと、ルイザ、ベネロープ、キアラは柔らかい笑い声を上げる。
「そんなこと知ってるぞー、ネオーン」
「肩の力を抜きたまえー」
「顔が硬いですよー。もっと笑ってくださいー」
他の領民もわいわいと同じような言葉を口にする。
からかいとも言える言葉が飛び交う軽い空気感に、ネオンは静かにホッとした。
元々、人の上に立つような性格の持ち主ではなかったから。
愛する主人への無遠慮な物言いにブリジットは顔がピキリと固くなっていたが、ネオンはこほんっと小さく咳払いして本題に入る。
「僕はこの"捨てられ飛び地"を、もっともっと発展させていきます。ゆくゆくは、僕の母国アルバティス王国よりも豊かにしたいと思っています。ですから……一緒に開拓してくださいませんか?」
「「もちろんですともー!」」
そう話すと、領民は笑顔で応える。
任務の件はあるが開拓は単純に楽しそうでもあり、厳しい飛び地での暮らしが快適になるのは願ってもないことであった。
ネオンは好感触を受けて、ホッとしながら礼を述べる。
「ありがとうございます、すごく嬉しいです。そこで領地の発展にあたり、皆さんに一つお願いしたいことがあります。極めて重要な……お願いです」
打って変わって緊張した硬い顔となったネオンを見て、領民はゴクリ……と唾を飲んだ。
いったいどんなお願いなのだろうか、と。
「皆さんも知っての通り、この飛び地は三つの超大国に囲まれています。なので、発展がバレると、超大国たちに目をつけられる可能性があります。場合によっては、領土にしようと攻め込まれてしまうかも……」
「「なるほど……」」
「僕のスキルは色んな神器を生み出せますが、目立たず開拓をしたいです。まぁ、絶対ないとは思いますが、最低限、超大国の国家元首の方々には知られないように頑張ります」
「「承知しました」」
"超大国に目をつけられたくないので、目立ちたくない"、"国家元首には力を知られたくない"という話を聞き、領民……特にスパイリーダーの三人は良心の呵責をチクリと感じた。
(……すまねえ、もう帝王陛下に報告しちまった)
(ごめん……君の話はすでに大総統も知っているんだ)
(申し訳ありません、皇帝陛下には伝えております……)
各国家元首の興味を津々に惹いてしまっていることなどつゆ知らず、ネオンは椅子から降りる。
――うまく演説できてよかった!
そのまま、両手を前に出した。
「この土地は瘴気に汚染されているので、まずは住める範囲を増やしましょう……それ、<神器生成>!」
指輪に収納された素材を消費して、瞬く間に30本もの神器――<至宝の鍬>がいとも簡単に生成された。
神々しい光を放つ農具を見て、領民及びスパイリーダー三人は渇いた喉で唾を飲み込む。
((こ、これが【神器生成】……))
心臓が震えた。
神器の鍬が纏う圧倒的なオーラと、あまりにも簡単に、それでいて大量に生み出されることに……。
((この力は確実に世界を変える……))
やけに呆然とする三人を見て、ネオンは明るく思う。
――喜んでくれてよかった!
ネオンは単純に嬉しがっていたが、ブリジットは彼女たちの様子が少し気になった。
「ずいぶんと恍惚とした表情をされてますね……どうしたんでしょうか」
「デザインが珍しいんじゃないの~?」
三人が微妙にギクリと動いたのに気づかず、ネオンは真面目な顔に戻って制裁の件を話す。
「……というように、神器については二つの注意点がありますので、大丈夫だとは思いますが十分気をつけてください」
「「制裁の内容はいったい……?」」
「ええ、まだ破られたことはないので具体的な内容は不明ですが、死ぬより苦しいみたいです」
ネオンが淡々と話すと、領民の間に緊張が走った。
詳細な内容は不明だが、ひとまずは様子見を決める。
彼女たちの心中を知ることなく、ネオンは拳を突き上げた。
「それでは、一生懸命頑張りましょー!」
「「おおおー!」」
さっそく開拓が始まるわけだが、ブリジットはさりげなく指示を出して、ネオンと二人っきりの時間を確保した。
「さあ、私たちの愛の力で耕しましょう。ネオン様との愛があれば、あっという間に王都以上の領地になるはずです」
「そ、そうね、目立たないようにしたいところだけど……」
少し離れた場所では、領民たちが鍬の効力に多分に驚く。
地面に振り下ろすだけで濃厚な瘴気が一瞬で浄化される。
本国の未開拓の領域も、これ一本で簡単に開拓できてしまうだろう。
その日から、"自分の力を知られたくない超大国のスパイが領民"という不思議な領地開拓が始まった。
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