【1分小説】虹色のパン屋さん
子供だけにパンを売る、世界で一番人気のパン屋さん。
売っているパンは1種類だけ。
虹色の、柔らかくてモチモチしていて、噛みごたえのある香ばしいパン。
子供達は虹色のパンを食べると、みんな口を揃えてこう言う。
「このパンね、いつも違う味がするの!!」
同じ日、同じ時間に買ったパンでも、2つ買えば2つの味。3つ買えば3つの味。
いつもその味は変わるが、いつも変わらない事がある。
それは、いつでもそのパンはとびきり美味しいという事!!
想像すれば味が変わり、願えば匂いも変わる。そんな不思議なパンを売る、不思議なパン屋さん。
店主がパンをいつものように売っていると、1人の青年が店主に近寄る。
「店主さん店主さん。僕の舌、変になっちゃったのかも」
少年は悲しそうに呟く。
「どういうことだい?おじさんに教えてくれるかな」
店主は優しく微笑む。
「パンがね、ずっと同じ味なの。ずっと同じ匂いなの」
少年はまた悲しそうに呟く。
店主は、少年の頭を撫でる。
「このパンはね、色んな味が少しずつ付いてるんだ。その日の気分や体調で味が変わるくらい少しだけね。もし、このパンが同じ味になった時は、色んな味と色んな匂い、そして色んな事を知って、君の体が大人になったのさ」
店主は優しく、少年に真実を伝える。
少年は最初、複雑な表情をしていたが「大人になった」と聞くと、嬉しそうに店を飛び出して、同じく嬉しそうに待っていた両親に抱きついた。
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