表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

オリンピックへようこそ

作者: 零奈

 私が通う高校は少々特殊だ。

 まず、オンラインである。

 次に、学習指導要領外の選択教科がたくさんあること。OBの大学生や社会人の方々が先生だ。

 最後に。


 謎の部活動が多いこと。


題:オリンピックへようこそ


「皆さん、今クラスルームに送ったリンクを確認してください。これは後期の部活動の申込書です。時間があるなら、幾つでも兼部してもいいので、部活動を楽しみましょう!」

 ホームルームの時間。

 先生は明るく言った。

 部活なんてやってる時間は、私にはない。

「毎回参加しなきゃいけない訳ではないようなクラブもあるので、忙しい人でもやってみるべきですよ。青春は短いので。」

 そう言われると。

 一応、確認しようか。


 うちの学校は、部活が異様に多い。

 先生はどんな部活も同好会も許すし、そもそもうちはオンラインだから生徒も多いからだ。

 中には、変なのもある。

 雑草研究部。

 素粒子愛を語る会

 七不思議同好会

 オリンピック部


 なんだこいつら。

 雑草はまだ理解できる。雑草の観察でもするんだろう。

 七不思議って、何の七不思議なんだろう。学校?世界?

 素粒子は、きっと素粒子がどうにかした話をする場所だ。私には無理。

 オリンピック部。

 これには、なんだか、惹かれる。

 同類がいそうだから、かな。


 説明を読む。

『各種オリンピックに参加する皆さんへ。

 うちは対策講座ではありません。

 ただ、周りの人にはいえないような愚痴を語り合ったり、作業しながら雑談したり、と言ったゆるーい部です。

 毎回参加する必要はありません。気が向いた時だけで結構です。

 ここでしかできない、世界を目指す友達を作りませんか。』


 最後の一文。

 ”世界を目指す“

 その言葉を見て、私は決めた。


ーーー

 1日目。

 部長さんからリンクをもらったので、つなぐ。

 三人しかいない会議。女の子は一人。

「なんで今日お休みなのかなー、部長。」

「面接。」

「あっそう・・・」

 普通に雑談してた。

 だ、大丈夫かな、この部活。馴染めるかな。

「あっ、新入生の子?よろ。」

「あっはい。」

 これ、自己紹介したほうがいいのかな。

「ほらほらみんな、先輩しよ?僕は副部長の九条 三輪。やってるのはBMX。自転車のやつね。」

「俺は長谷川 玲央。物理。」

 ちょっと待って物理って何。

「うちの部はスポーツ以外のオリンピックの人もいるからさ。」

 そっか。

「私も物理。長谷川 玲奈。」

 今日いる部員は私以外にこの3人だけ。部長さんはいないらしい。

 私を入れてもたった五人。

 小さな部だ。

 さて、私も自己紹介しよ。

「片瀬 舞です。ブレイキンやってます。宜しくお願いします。」

 ちょっと驚かれた。

 ブレイキンは新しいからね。

「タメでいいよ。うちは全員、世界目指してるから。平等じゃなきゃ。」

 いいな、それ。

「じゃ、雑談しよ。初日だし、とりま皆の競技のこと話そ」

「なら俺から。物理はなーー」

 玲央君からは中々シビアな物理の話を聞いた。有名ではないというだけで、物理だって、競技だ。

 彼も、私と同じ、”選手”だ。


「ごめん、遅れた。」

 乱入してきた女の子。

「新入生か。よろ。」

 かるっ。とりあえず自己紹介。まったく同じことを言う。

「私は部長、阿部 雫。」

「五木って、柔道の?」

 親が有名な金メダルの。

「家はね。私は違う。数学と情報…プログラムって言うべきか。」

「部長に家の話はタブーだからね。部長、大喧嘩してるから。」

 色々ツッコミたい。

 2つも競技して、なおかつ親は有名人。

 きっと、この人は天才だ。

「そう、なんだ。」

 としか言えない。

「驚いたよね。まぁ、普通に接して。」

 まぁ。

 でも。

「尊敬します!」

 その才能を、努力を。


ーーー

 その”尊敬”は、軽々しくて。

 私はまだ、彼女を知らなかった。

 絶望を味わうまでは。

 それ(ぜつぼう)は、鉄の味がした。


ーーー

 彼女が今、唯一の頼れる人。

「部長。」

 入部して数か月。

 私のオリンピックは終わった。

 負けてない。

 ただ単に、終わったのだ。

「私、怪我しました。」

「どこ。治る?」

 大丈夫か、とは聞かないのは彼女の優しさ。

「肩、全治3か月です。」

 固定された左腕。大げさなほどまかれた包帯が、憎い。

 それは私の真っ暗な心と将来の象徴なのに、真っ白だ。

 その下にある傷。

 本選で負った怪我。そのせいで戦いすらできなかった。

 4年に一度なのに。

 頑張ってきたのに。

 全部、無くなった。

 なくなった。

 亡くなった。

「治るなら、よかった。」

 なにそれ。

「結果、見なかったんですか?これ、オリンピックですよ?」

「見た。でも次がある。取り返しはつく。」

「それに3か月のブランクなんて。取り返し、つく訳無いです。もう、無理です。」

 わかってよ。

 先輩。

 悲しいの。つらいの。

 ブランクは命取り、わかるよね、同業者。

 選手なんでしょ。仲間でしょ。

 ねぇ、同情してよ。

 慰めてよ。

 優しく、してよ。


「だったらどうするの。辞めるの?」

「………」

 それもやむを得ない、かもしれない。

「貴女はその程度なの?」

 やめて。

 知ってる、自分は天才じゃない。

 事実は痛い。

 傷つけないで。

「違う。貴女は世間一般、大衆とは違う。」

「そりゃ私は。」

 ”できる”ので。

「できる、じゃないでしょ。」

 じゃあなに。

「選んだんだよ。」


 えらんだ。

 なぜだか、目頭が熱くなる。

 きっと、それは先輩の言葉が、私の心にぴったりだから。

 ああ、彼女も。

 ”同じ側”の人間なんだ。

 液晶画面の文字がぼやけた。


「貴女は、諦めなかった!原点を、夢を、みんなみたいに、大人になったなんて言い訳せずに!現実見るって逃げずに!」

 そう、だ。

 小さいころの夢。

 金メダル。

「優劣を知って、限界に気付いて。」

 すごいひとを見て。

 やって、うまくいかなかったけど。

「その時、私は、貴女は、選んだの!夢を、茨を、努力を、そして、それ以外を捨てる覚悟を。」

 何が何でも、やってやる。

 あの日自分に言い聞かせた言葉。

「何と言われても、周りの一般的な幸福を見ても、」

 リア充を見た日。

 ブレイキンを遊びだと言われても。

「選んだんだ、競技を。選び続けてきたんだ、今日まで。」

 私は思うんだ。

 私は、私の舞台で幸せになるって。

 勝つんだって。


「何があっても、私は諦めない。他みたいになりたくない。普通を言い訳にしたくない。だって、私は、私たちは、」


 スマホから届く激情。

 その熱は、私の中にもあった。

 否、これからもあり続ける。


「これが、大好きだから。」


 惹かれ、焦がれ、挫け。

 選択し、鍛錬し、輝く。


 その過程さえも好きで。



 狂おしいほどに、その(黄金)を欲する。


 怪我も、他人も、私たちの邪魔はできない。


ーーー

「先輩、やっぱり大好きです。」

「よかった、思い出してくれて。」

 何が、とは言わない。

読んでいただきありがとうございます。

初投稿の、零奈です。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ