依頼。
「つかささん、顔が怖いです……!」
女神様の言葉で、はっと我に返る。
どうも、隠しスキルである〈猫バカ〉は猫がらみになると暴走するようだ。
以前も、私より数倍力があるはずの知り合いが止めようとしたのを投げ飛ばし、蹴り倒し、「うふふふ……」と笑いながら相手に向かっていったらしい。
「暴走するスキルって怖い」と言ったら、何故か全員に目を逸らされたのだが……?
まぁ、私の事はどうでもいい。
女神様が、真面目な表情を浮かべてこちらを見た。
「それで、ここからが本題なのですが」
本題?
ああ、そういや、神様達からの依頼云々って話だったな。
「つかささん達への依頼は『勇者の保護』です」
…………はぁ⁉
勇者の保護!? なんでだよ!
「え? 自分達を狙っている相手の保護?」
「はい」
女神様がきっぱりと言い切った。
「……」
女神様は基本的にぽんこつだが、アホな訳ではない。
おまけに、今回は神様達から連名に近い形での依頼だ。
「理由は?」
「彼が、本物の〈勇者〉だからです」
本物?
だが、この世界に魔王はいない。
いや、いるにはいるが、勇者が必要な状況ではない。
つまり。
「ほかの世界に必要だった勇者を、ジルコニア王国が召喚してしまった……?」
「はい、そうです」
女神様がため息をつく。
「今、猫神が本来〈勇者〉を必要としていた世界を保護してくれているのですが、必要以上には干渉できないので膠着状態になっているらしいです」
んー、つまり、猫達を魔王だと思って襲ってくる勇者をうっかりヤったりしないで、保護して本来の世界へ送らないといけないということか。
「できれば、無傷でお願いします」
あー、チャビがいるから息さえしてればなんとかなるけどな……。
私の考えが顔に出ていたのか、女神様にじろりと睨まれた。
「魔王と戦う前に、勇者にトラウマを植え付けないでください」
「すいません……」
「いえ、個人的にはくぅさんやチャビさんの容赦ない戦いぶりは、ぜひ拝見したいのですが……!!」
「……」
そういや、こういうヤツだった。
しかし、ジルコニア王国も厄介事を持ち込んできたものだな。
……なんか、イラッとしてきた。
ホントにアホな事してくださりやがって。
依頼されたのは、勇者の保護だからジルコニア王国の事は関係ないよな。
今なら、国を守護する神様もいないし……。
少しくらい暴れてもいいよな。
いや、うん、ホントに少しだけ、うふふふ……。
「つかささん。だから、顔が怖いんですってば!」