はて、何か忘れているような……?
「福助、吹き飛ばせ!」
「にゃ!」
張り切って鳴く福助の周りを、風の精霊達がきらきらと踊るように跳ね回っている。
ごうっ、という音と共に激しい風が吹き荒れ、魔物達の体が浮き上がる。
吹き飛ばした先には、コハクの背に乗ったりゅうたろうが待ち構えていた。
福助の〈風魔法〉から逃れた魔物は、おこん達が狩っている。
今日は、珍しくみんなやる気だ。
だが、食べられないタイプの魔物だったので、よつばだけは欠片もやる気を見せず私の横に座り込んでいるが、まぁ、いいだろう。
「にゃあ!」
不意に、せりが私を振り返って大きな声で鳴いた。
これは〈気配察知〉か?
ジルコニア王国に何かあったのだろうか。
結局、神様達からの依頼を断りきれず、私はミーコさんが不在時のジルコニア王国の世話役になってしまった。
仕方がないので、せりの〈気配察知〉にリンクしてもらっているのだ。
せりは、じっと私を見た。
ん? 違うのか?
せりの様子からすると、あまり切羽詰まった案件ではなさそうだ。
とりあえず、この依頼を優先するか。
「せり、なんかあったらまた教えてね」
せりの丸い頭を撫でながらそう言うと、せりはにゃあと一声鳴くとあっさりと魔物退治に戻った。
いやぁ、みんな元気だなぁ。
暴れ回る猫達を眺めながら、こういうのはなんて言うんだっけ、と私は呑気に考えていた。
魍魎跋扈じゃなくて、残虐非道、いや、えーと。
いかん、物騒な言葉しか出てこない……。
…………ああ! 物騒で思い出した!
魔王城、そのまんまだった!!
〈勇者〉を誘き出すために設置した殺意マシマシの魔王城。
色々あって綺麗さっぱり忘れていたが、放置したままだった……。
そういや、せりの〈気配察知〉にリンクさせてたな。
ん? つまり、魔王城に侵入者が?
「…………」
絶対に面倒くさい事になっている。
好奇心旺盛な子供達が入り込まないように、魔王城の周囲には女神様に結界を張ってもらっているのだ。
つまり、侵入者はなんらかの方法で結界を通り抜けるだけの力があるという事だ。
とはいえ、せりの反応からして大した相手でもなさそうだ。
「……気が付かなかった事にしちゃダメかなぁ」
私の隣りに座り込んでいるよつばのふさふさのしっぽを弄びながら呟く。
「にあん……」
それはどっちの意味なのかね、よつばさんや。
しかし、放っておいたら、うちの魔王城で人死にが出るのは確定だ。
私はため息をついて立ち上がった。
「みんなー、移動するよぉ」
声をかけると、くぅ達が駆け寄ってきた。
仕方がない。
とりあえず魔物はあらかた片付いた事だし、もう一働きしますか。
「キング、魔王城へ〈空間転移〉!」
完。




