依頼達成。
私は炊き出しの手伝いをしていたレオとマリア、それとベルを連れて女神様の神殿へと移動した。
本来、ジルコニア王国の修道女見習いだったベルは神様達からの依頼には無関係だ。
だが、マリアが懐いていたし、それと召還魔法としての古い歌を知っていたので念の為身柄を保護する事にしたのだ。
神殿には女神様のほかに、火の神様や海神様、農耕神様、それとターコイズを守護する商業の神様等、人と関わる事の多い神様達が集まっていた。
「つかさ、ご苦労さん」
そう声をかけてきたのは、しっぽが八本に分かれている猫神であるミーコさんだ。
なんだかんだあって、私はミーコさんの眷属という事になっている。
初めて神様と会うマリアやベルは驚いた様子で固まっていた。
レオも女神様以外の神様と会うのは初めてだったので、落ち着かない様子だった。
「そちらからの依頼〈勇者の保護〉、達成しました。ご確認を」
「ああ、いい、いい。確認するまでもねえだろ」
そう言ったのは海神様だ。
ほかの神様達もうん、うんと頷いている。
「つかさなら、間違いないからの」
火の神様もそう言って笑ってくれた。
多分、サナ達からの報告も上がっている。
私はため息をつくと、どっかりと座り込んだ。
「疲れたぁ。魔王まで出てくるしさ」
「難儀じゃったのう」
農耕神様が温かいお茶を出してくれた。
礼を言ってそれを受け取ると、口に含む。
爽やかな香りがして、疲れが抜けていく。
目を丸くしているレオ達にも飲むように促して、私はミーコさんに向き直った。
「レオ達が元いた世界は、どうなったの?」
不自然に関与されたせいで、世界そのものが不安定になっていたという話だったが。
「魔王もいなくなったし、まぁ時間はかかるだろうけど、これからは落ち着いていくだろうさ」
ふむ。なら、そこにはもう関わる必要はないのか。
「ジルコニア王国は?」
「あそこは色々あって、存在自体が不安定だから、しばらくはあたしが預かるよ」
猫神であるミーコさんは、色々な世界を気まぐれに渡り歩く神様だ。
万が一、ほかの世界と繋がってしまった保険としてらしい。
人間の世界からは、主に商業都市ターコイズと農業王国オパールが関わる事になったという事だ。
つまり、内政には口出しする気はないという事か。
「……レオ達は?」
私が一番聞きたかった事だ。
後ろで、レオ達がはっと息を飲む気配がした。
「元の世界に戻すのは難しいかねぇ」
存在自体がこちらに馴染んじまったようだし、とミーコさんが言う。
私はレオ達を振り返った。
「レオ達は、どうしたいの?」
ちら、と神様達の方を見てからレオはおずおずと口を開いた。
「俺はマリアさえいれば、どこでもいいです」
「わたしはベルといっしょがいい!」
「聖女様……」
「だから、聖女じゃなくてマリアだってば!」
微笑ましいやり取りに、つい笑みが浮かぶ。
「なら、うちで面倒をみようかの」
立候補したのは火の神様だ。
火の神様は人間との間に子をもうけたほどの人間贔屓だ。
……まぁ、愛情が深すぎてサナ達に対して若干ストーカー気味ではあるが。
「ナルシの所はもうすぐ子が産まれるゆえ、そちらの勇者はサナに鍛えてもらおうと思っているが、どうじゃ?」
火の神様にそう言われたレオは、戸惑ったように私の顔を見た。
「サナなら、間違いないよ」
そう言って笑ってみせると、レオはこっくりと頷いた。
火の神様の方を向き直ると、深く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
よし、これで全て収まったな。
「依頼料は、いつも通り金貨でよかったですか?」
金貨がぎっしりと詰まっているだろう大きな袋を女神様が差し出してきた。
「うん、大丈夫」
そうでなければ、神様達はうちの猫達にとんでもスキルを与えようとするからな。
これ以上、私の心労を増やさないでくれ……。
「それと、新しい依頼なのですが」
ん? ちょっと待て。
果てしなく嫌な予感しかしないのだが?
「ジルコニア王国の面倒をみてほしいのさ」
なんでだよ!
ミーコさんが預かるんだろ!
私が文句を言うと、ミーコさんはやれやれという風に首を振ってみせた。
「あたしは、いつもいるとは限らないだろ」
「つかさは猫神の眷属だしな」
「お主達なら、ほかの世界に飛ばされても対応できるじゃろ」
神様達に口々に言われ、私はううっと小さく唸った。
言っている事はもっともだが、厄介事を押し付けられそうになっている事に間違いはない。
だから、神様からの依頼は嫌だったんだよ!!




