フラグじゃないぞ!
うん、いったん落ち着こう。
物陰に隠れて、無限収納から以前作ったラカックの肉のサンドイッチと、甘酸っぱいルッコという木の実で作ったジュースを取り出す。
しんどい時は食べて寝るに限る。
今は寝てる場合ではないから、とりあえず食べてだけはおこう。
食べているうちに、少しだけ冷静になってきた。
やはり疲れていたらしい。
まぁ、一晩中戦っていたら疲れもするよな。
魔王とも戦ったわけだし。
…………そう、魔王だ。
チャビのバラバラ殺虫事件から考えるに。
猫って執念深いんだよな。
前の日に虫を見かけた所で、次の日も待っていたりするし。
だとすると。
「くぅは、あそこだろうなぁ……」
はぁ、とため息をつき、私は立ち上がった。
そのまま王城へと向かう。
「……吐きそう」
城の中は酷いものだった。
生存者の多い下町の方が優先されているため、こちらは放置されたままだ。
そんな中を進んで、私が辿り着いたのは城の大広間だった。
化け物達が湧いて出てきていた魔法陣。
それがあった辺りに、大きな黒猫がどっしりと座っていた。
「くぅさんや……」
やっぱり、ここだったか。
いや、待っていてももう魔王出てこないからな!?
猫は執念深いが、その中でも特にくぅはしつこいのだ。
この世界に来たばかりの頃に嫌な目にあったせいで、今でも鎖や檻を目にすると問答無用でブチギレるくらいに根に持っている。
魔王と勝負をつけたかったのか暴れたりなかったのか、くぅは魔法陣から魔王が出てくるかも、と、ここに戻ってきて待っていたのだ。
「いや、もう出てこないって……」
思わず呟くと、くぅは私の方へ耳だけを向けて座り直した。
無視か! 私が探しに来たのを分かっていて無視する気なんだな!?
「くぅ、帰るよ! 虫さん出ないから!」
あ? 虫さんじゃなくて魔王か?
まぁ、どっちでもいいか。
くぅはじっと魔法陣のあった辺りを見つめている。
……まさかとは思うが、呼び出そうとかしてないよな?
召喚魔法には尋常じゃない魔力が必要らしいが、うちの猫達なら余裕で賄える。
くぅは召喚魔法は使えないはずだが……。
うちの猫達、もはや自力でスキルをゲットしたりするからな。
そもそも猫がどうやって魔法を使っているのか、さっぱり分からないし。
「…………」
くぅ、やめろよ? やめて下さい、ホントに。
フラグじゃないからな!?




