夜明け。
化け物達を斬り伏せ、蹴り倒し、数が減ってきたら場所を移動する。
ひたすらそれを繰り返しているうちに、夜の闇が深くなっていく。
猫達と違って夜目のきかない私には不利だったが、兵士達が松明を掲げてくれた。
無心で大鎌を振り続け、ようやく化け物達の姿が見えなくなってきた頃には、空が白み始めていた。
「…………疲れた」
念の為、大鎌は無限収納にはしまわず肩に担いだ。
じゃりっ、と足の下で崩れた瓦礫が音を立てる。
「…………」
王都はほぼ壊滅状態だ。
下町辺りは兵士達の頑張りもあり助かった人達も少なからずいるようだったが、中心部は悲惨な事になっていた。
王都を守るための内門は、皮肉な事に化け物達を外へ出さないための檻としての役割を果たしていた。
だから、王都以外の被害は少ないだろう。
国同士のしがらみのない冒険者やエルフ達が、内門の近くまで入ってきてくれた事も大きい。
だが、政治、商業、物流、その他もろもろに関する人材や施設はほぼ失われたはずだ。
復興するには、どれくらいの年月が必要になるのだろう。
……いや、それは私の考える事ではないな。
商業に関しては、ターコイズ辺りがどうにかするだろうし。
ジルコニアも地方都市は比較的無事だろうから、そこの首長達がなんとか頑張るだろう。
ふう、と私は息を吐いた。
さて、うちの猫さん達はどこまで行ったやら。
よけいな事はしてないだろうな……。
少しばかり不安に思っていると、ピィーっと高く鳴くコハクの声が聞こえてきた。
コハクと、その背中に乗ったりゅうたろうが上空を旋回している。
「りゅうたろう! コハク!」
手を振ると、こちらに気付いたコハクが降下してきた。
りゅうたろうは通常の猫サイズに戻り、私の肩に飛び移った。
コハクも柴犬サイズに大きさを変え、私の横に降り立った。
「お疲れ様。大丈夫だった?」
ぐりぐりと、りゅうたろうが私の顔に頭を擦り付けてくる。
コハクもぶんぶんとしっぽを振りながら、私を見上げている。
「つーかーさーぁ?」
ぞっとするような声で名前を呼ばれた。
振り向くと赤い髪の鬼が、いや違った、冒険者仲間のサナが頬を引くつかせながら、妙な笑顔を浮かべていた。
「途中からやけにこっちに来るのが増えたんだけど、どういう事だい?」
「あははは……」
実は、王城の中で取り逃がした化け物は、サナ達のいるはずの方へ向かうように調節していたのだ。
二人なら、まぁ何とかしてくれるだろう、と思って。
「……………………」
ナルシはいつも以上に無口だった。
どこかで合流したらしいおこんを抱き、虚ろな目でひたすら撫でている。
とはいえ、見たところかすり傷以外にこれといった外傷はなさそうなのはさすがだ。
〈火の神の娘〉の末裔であるサナ達は当然火の神様の加護を受けており、私同様、普通の人よりは頑丈に出来ている。
もちろん、二人の実力があってこそだが。
何もなかったように、いつもの朝と同じように、朝日が姿を現し始めた。
「…………」
私達は、無言でそれを眺めていた。
やっと、長い夜が明けた。




