真の戦い。
ベルの歌う声が長く延び、次第に小さくなっていく。
歌が、終わった!
その瞬間、空気が逆巻くように渦を起こし、這いずり出てきていた化け物達を魔法陣の中へと引きずり込んでいく。
ひときわ明るく輝いたかと思うと、魔法陣は唐突に姿を消した。
「終わった……?」
剣を握りしめたまま、呆然とした様子でレオが呟く。
「せり! 〈気配察知〉!」
「にゃあ!」
ぴくぴくと髭を動かしていていたせりが、城の外の方を向いて鳴いた。
慌てて窓からのぞくと、まだ化け物達がうぞうぞと蠢いているのが見えた。
そうか。魔法陣からあまり遠いと召還されないのか。
「行こ……」
街へ向かおうとした瞬間、背中に寒気が走った。
空気が張り詰めている。息苦しい。
こ、これはまさか……。
「ベル! 大丈夫!?」
マリアが気を失ったベルの元へと駆け寄った。
歌い終えて気が抜けたのか、それともこの気配に当てられたのか。
よつばがふさふさのしっぽを揺らしながらベルの隣で眠ろうとしているところをみれば、彼女は多分大丈夫だろう。
っていうか、眠っている場合じゃないだろう!
「みんな、行くよ!!」
「…………」
声をかけると、猫達は不自然に目を逸らし毛繕いを始めた。
いや、気持ちは分かるけど!
行かないと、うっかり世界が滅びるでしょうが!!
渋る猫達とコハクを連れ、魔王という名のでっかい虫さんと戯れていたであろうチャビ達の元へと向かった。
気配から予想はしていたが、案の定チャビとくぅがしっぽを膨らませて睨み合っていた。
「うなあおぅー!!」
「うああおぅー!!」
やめろ、やめろ。〈威圧〉と〈殺気〉をぶつけ合うんじゃない。
それだけで死人が出る!
姉弟喧嘩の隣には、不自然に真っ黒く焼け焦げた跡があった。
察するにチャビがいたぶっていた虫さんに、飽きたくぅがとどめを刺したのだろう。
そして、それに怒ったチャビがくぅに喧嘩を売ったのだ。
やばい、まずい。
魔王召喚どころではない。本格的に世界の危機だ。
と、止めないと……。
でも、どうやって?
ちらりと猫達の方を振り向くと、不自然にそっぽを向き、耳だけをこちらに向けて様子をうかがっている。
ひどい! 私を見捨てるんだな!?




