終わりの歌。
ああ、うん。
おかしいとは思ったんだよな。
足が悪かったせいで警戒心の強いせりと、捨てられたせいで人間が好きではなく、なおかつ自分の可愛さを利用出来る時しか愛想を振り撒かないよつばだし。
初対面の人間に自ら体を擦り付けるとか、まぁ、しないよな。
非常時だからかな、とか思った私はまだまだ猫飼いとして未熟だった。
だって、猫だもの!
非常時だろうがなんだろうが、マイルールで生きてる連中だぞ!!
私は思わずため息をついた。
とりあえず、ベルの様子に異常は見られない。
一心に古い祈りの歌を歌っている。
その声は、よつばとせりの魔力を受け、高らかに響き渡っている。
おそらくは、この国中に。
さて、これはどういう事だ。
せりとよつばの特性を考えるならば。
こちらに来た時に猫達の身体能力が異常に上がっているので、魔物達等に遅れは取らないが、くぅ達と比べれば戦闘向きのスキルではない。
戦闘を回避、または無かった状態にする事に特化している。
ならば、これは。
ベルの歌うこの声は。
終わりを告げる歌だ。
「コハク! マリアとレオをこっちに連れて来て!!」
「ピィー!!」
私の声に応えて、コハクが高く鳴いた。
マリアを背に乗せたコハクを追って、レオも駆けてきた。
「つかさ、魔法陣が変だ!」
レオが叫んだ。
「だろうね」
王族や貴き方を天に還す時に歌う葬送歌。
おそらく、元は召喚魔法と対になっていたはずだ。
呼び出したものを元の世界へと還すためのもの。
いつの間にか廃れていき、それでも形を変えて残されていた歌。
普通の人間ではただの葬送歌のままだっただろうが、せりとよつばの魔力で増幅された今なら。
「歌が終われば、多分だけど魔法陣が閉じる」
私の言葉に、レオ達がはっとした表情に変わった。
「それまで、彼女を守れ!」
そう言いながら、私も大鎌を構え直した。
レオも剣を両手で握り直す。
「こんどは、私がベルをまもる。ドラゴンさん、たすけてくれる?」
コハクの背をさすりながら、マリアが問いかける。
私が頷いてみせると、コハクはピィー! と長く鳴きながら空へと舞い上がった。
もう少しだ。
もう少しで、この惨劇は終わる。
「さぁ、来い!」




