古き祈り。
「私は相田つかさ。レオの知り合いで、マリアを捜しに来たんだよ」
「では、勇者様もご無事なのですね」
「うん、大丈夫」
少女は私の顔を見あげた。
「申し遅れました。私は修道女見習いのベルと申します」
細いしなやかな金の髪はよく手入れされ、着ているものは修道服だから簡素ではあるものの、上等な織物で作られているようだった。
話し方といい、それなりの家の出なのは確かだろう。
「時間がないから、率直に聞くね」
「なんでございましょう?」
「ベルは、この国の古い言葉を知っている?」
「古い、言葉……?」
ベルが首を傾げた。
「アレを止めるのに必要なんだ」
アレ、と言いながら私はちらりと化け物達の群れを振り返った。
りゅうたろう達が奮戦してくれているが、やはりキリがない。
取り逃がしたやつはサナ達やエルフ達が対応してくれているが、それも次第に疲弊していくはずだ。
今までの経験からいえば、終わりの見えない戦いは精神的なストレスから疲労度が高い。
逆に「ここさえ、しのげれば」という予測がつけば乗り切れる事も多い。
「……古い、祈りの歌なら存じています」
「祈りの歌?」
ベルは青褪めて白くなった顔で、こくりと頷いた。
「王族や貴い方が天に召される時に歌います」
天に……。鎮魂歌みたいなものか?
「悪いけど歌ってみてくれる?」
この惨状の中で歌え、というのも酷な話だろう。
だが、どうしても必要な事だ。
「ベルの事は、私達が守るから」
そう言いながら、私は大鎌を取り出して身構えた。
「は、はい。大丈夫です、歌えます」
ベルは周りを見回したが、すぐに目を逸らした。
体を強張らせるベルに、せりとよつばが体を擦り付けた。
「……皆様をお送りするのは、私の役目なのでございましょう」
ベルは立ち上がり、胸に手を当てた。
血の気の失せた唇から、か細い歌が紡がれ始めた。
やはり聞き覚えのない言葉だったが、なんとなく意味は理解できるような気がした。
歌声はやがて大きくなり、次第に場を覆い始めた。
……いや、待て。
大きすぎないか、これ?
人間が出す声にしては……。
どういう事だ、と見てみれば、相変わらずせりとよつばがベルに体を擦り付けている。
「…………」
もしかして。
さっきからのアレはベルを励ましていたわけじゃなくて、魔力をベルに注いでいたのか!?




