修道女見習いの少女。
気絶しながらもマリアを守ろうと、抱きしめる手を離さなかった修道女見習いの女の子がいたじゃないか!
王城の中で生活し、なおかつ、実質レオに対する人質だったとはいえ〈聖女〉であるマリアの側に仕えていたという事は、おそらくそれなりに身分のある家の出身だろう。
まず、それだけでも識字率や教育の有無に関しての問題はクリアしていると思っていい。
そして、修道女見習いという立場だ。
もしかすれば、古い祈りの言葉等も学んでいるかもしれない。
問題は。
私は周囲を見回し、顔をしかめた。
無限に湧いて出てくる化け物達。
こうしている時も周囲に漂い続けている魔王達の威圧感。
そして、何より。
凄惨な城の中の状況だ。
私達はもはや麻痺してしまって臭いも分からないが、今まで気絶していた彼女にとっては初めて目にする状況だろう。
もしかすれば、知人や身内の者もいたかもしれない。
ちらと見た限りでは、レオと年はほとんど変わらないようだった。
そんな子が、この状況を見ても正気を保っていられるだろうか。
……いや、迷っている場合ではない。
出来るだけ凄惨な状況が目に入らない場所へと移動し、無限収納から修道女見習いの女の子を外へ出した。
「せり、よつば。この子の側にいて」
あまり戦闘向きではないせり達を呼び寄せる。
まぁ、ほかの魔王達に比べての話なので、化け物達の相手くらいはなんという事もないのだが、万が一に備えて彼女の護衛をしてもらおう。
「にゃあ!」
せりが駆け寄ってくる。
食べられない相手ばかりで嫌々参戦していたよつばも、いそいそと彼女の隣へやって来た。
「起きて」
軽く肩に触れながら声をかけた。
確か、気付け用の薬湯があったはずだ。
「ん……」
小さく声を上げながら、彼女はうっすらと目を開けた。
数秒ぼんやりとしていたが、すぐにひっ! と声を上げて目を見開いた。
凄惨な状況そのものは私の身体が盾になって見えないはずだが、壁や天井に飛び散った血や痕跡や周囲に漂う臭いが、嫌でもそれを彼女に分からせてしまう。
だが、顔を青褪めさせながらも彼女は震える手で私の腕を掴んだ。
「〈聖女〉様を! マリア様をお助けください! お願いです、どうかマリア様だけでも無事に外へ……!!」
……たいしたものだな、この子も。
こんな状況だというのに、マリアの無事を優先するのか。
使命が第一なのか、いや、マリアも彼女を守ろうとしたところを見ると、互いに信頼しあう関係にあるのだろう。
「大丈夫。マリアは無事だよ」
そう言うと、彼女はほっとしたようだった。
「……」
嘘は言っていない。
〈ドラゴンライダー〉のスキルが覚醒して、コハクと一緒に最前線にいるけどな。




