虫タイプ。
魔王同士の戦いがまがりなりにも拮抗していたのは、中身はどうあれ人間の姿をしていた相手にくぅ達がトドメを刺せなかったからだ。
それが、よりにもよって虫タイプに変形しおってからに。
猫にとって、虫はいたぶるオモチャみたいなもんなんだぞ!?
元の世界では、小さくて古いが庭付きの一戸建てに住んでいた。
まぁ、古いという事はあちらこちらに隙間があるという事で。
夏になると、どこからか虫が入り込んできていた。
そして、うちの猫達である。
無茶苦茶に強くなったのはこちらの世界に来てからとはいえ、基本的に性格は変わっていない。
つまり、毎年夏の風物詩として、ばらばら殺虫事件が起きていたのだ!
犯猫は、虫に興味のないりゅうたろう、野良時代に虫は美味しくないと知っているよつば、そしてくぅ以外である。
ちなみに、くぅは一撃必殺タイプなのでばらばら事件の犯猫ではないが、フツーに殺虫事件の犯猫ではある。
しっぽを振りながら、チャビがくぅより一歩前に出た。
姿勢を低くし、目を大きく見開いていた。
……完全に獲物を狙う態勢だな、これは。
私は思わずため息をついた。
魔王同士の戦いのはずが、いつの間にやら虫をいたぶる会に変更になったようだ。
やめろー、そんなでっかい虫さんのばらばら殺虫事件なんか見たくないぞ。
片付けるのは、どうせ私なんだからさ……。
「私達は、あっちに戻ってるからね」
とぼとぼと、りゅうたろう達の元へと向かう。
素直についてくるよつばに対して、今回はせりの方が納得していないようだった。
ちらちらと大きな虫さんを振り返っている。
お前もか!
だが、やめとけ。
虫さん、じゃなかった。魔王はともかく、狩りモードで興奮しているチャビに巻き込まれるぞ。
それはともかく。
こうなった以上、厄介なのはキリのない化け物達の方だ。
魔法陣がある限り、無限に湧いて出てくる。
ジルコニア王国の古い言葉を使用している魔法陣らしく、よつばにも〈解除〉できない。
古い言葉、か。
おそらく、それを知っている連中は私達がここに辿り着く前に命を落としている。
識字率が低いであろうこの国で、平民に当たる街の人々がそれを知っているとは思えない。
いや、待て。
一人だけ、生き延びた子がいるじゃないか!




