一騎討ち。
魔王は剣を振りかざして、私に襲いかかってきた。
おっと、よけいな事を考えている場合じゃなかった。
大鎌を構え直す。
魔王が使う剣は、ジルコニア王国の王が持っていたものだ。
装飾は見事だったが、冒険者稼業をやっている私から見れば著しく実用性に乏しい。
だが、魔王の瘴気を帯び、その刃は闇のように黒い炎をまとっている。
あれで切られたら、おそらく私の体も火の宝剣で切られた魔王のように焼け爛れ、痛みにもがき苦しむのだろう。
だが、しかし!
頑丈さだけは自信があるんだよ。
うちの猫達に蹴られ噛まれ引っ掻かれ、それでも無傷だからな、私は!
魔法やスキルは、せりとよつばが無効化してくれる。
ならば、あとは体力腕力勝負。
やってやらぁ!!
魔王と一騎討ちを始めた私に、レオやマリアは呆気に取られているようだった。
ただ、魔王との戦いで全力を出せず、挙げ句に私に横取りされた形になったせいなのか、くぅが睨んでいるような気がする。
あとが怖い……。
いや、でも、あんた達の為にやってるんですけど!?
くぅ達は、魔王にトドメさせないでしょうが!
……うん、知っている。
猫に正論は通じない。
「くっ……!」
左腕を切られた。
頑丈さゆえに傷こそたいした事はなかったが、切られた所が熱を帯び、疼くような痛みと、掻きむしりたいような不快感がある。
負けるもんか!
猫達を守るんだ!!
大鎌を振りかざし、魔王に斬りかかる。
魔王もまた、私の大鎌により赤く焼けただれた傷が増えていく。
私が魔王と一騎討ち出来るのは、私が冒険者として鍛えていたからだ。
対して、魔王の容れ物であるジルコニア王国の王は非力な老人の身体だ。
「◆○△◁■▼!!」
魔王が何やら聞き慣れぬ言葉で叫んだ。
何だ? 何を言っている?
魔王の身体についた赤く焼けただれた傷がめりめりと裂け、まるで昆虫の羽化のように中から別の体が現れた。
真っ黒く湿ったような羽毛に覆われた巨大な体。
昆虫の複眼のような黒い巨大な目が、頭らしき箇所に幾つもついている。
「ううぅぅぅ!!」
せりが魔王に向かって唸っている。
……もしかして、これ。
魔王の最終形態とかのアレか、アレだな。
瘴気の濃さが段違いに酷くなった。
「コハク、下がって!!」
マリアを背中に乗せたコハクに指示を出す。
「あっちに参加してくる!」
高く飛んだコハクの背から、マリアが叫んだ。
いまだ魔法陣からは有象無象の化け物どもが湧いて出てきて、りゅうたろうやおこん達が奮闘してくれている。
コハク達は、そちらに向かって飛んでいった。
さて、問題はこちらだが。
私は慌てて後ろへと下がった。
もはや、私の出る幕ではない。
ゆらりと炎を立ち昇らせながら、くぅがゆっくりと前に出た。
チャビもそれに続く。
……馬鹿だな、魔王。
人間の姿のままでいればよかったものを。




