マリア。
ふっ、と何の前触れもなくキングとせりが姿を現した。
キングの〈空間転移〉だ。
……レオはどうした?
「にゃあ! にゃあ!!」
せりが大きな声で鳴き続けている。
せりのスキルは〈気配察知〉。
レオに何かあったのか!?
「キング! レオのいる場所に……」
いや、待て。
マリアと、彼女と一緒にいた修道女見習いの少女をどうする?
ここに残していっても、身の安全は保証しかねる。
猫達の戦力も分散させたくはない。
連れていくのか……?
一緒にいれば猫達が守ってはくれるだろう。
だが。
城の中はどこも凄惨を極めている。
血溜まりに、何度も足を取られそうになった。
猫達も嫌がって避けて走っていた。
この中に、小さな女の子を連れていくのか?
……いや、悩んでいる暇はない。
私はマリア達を残してきた部屋に戻った。
「レオの所に行くよ! 危ないし、怖いかもしれないけど、猫達が守ってくれるから頑張って!」
私がそう言うと、マリアはこくんと頷いた。
「お兄ちゃん、がんばってるんでしょ。私もがんばる」
気を失ったままの修道女見習いの少女は、〈無限収納〉に入れた。
大きさを変えられるようになる前のコハクを入れていた時期もあるので、長期間でなければ生物を入れていても問題がない事は分かっている。
りゅうたろうがひらりとコハクの背中から飛び降りた。
すると、コハクはもう一回り小さくなり、マリアの元へと近付いた。
コハクはマリアに向かって背中を差し出すように伏せた。
マリアに乗るように言っているようだった。
まさか、マリアは〈ドラゴンライダー〉のスキルを持っているのか!?
本来、野生にしか存在しないはずのドラゴン。
鞍も鐙もつけず、騎乗訓練も受けていないドラゴンの背に乗るには、りゅうたろうのように〈ドラゴンライダー〉のスキルが必要になる。
「いいの?」
マリアがたずねると、コハクは彼女が背に乗りやすいように体を低くした。
よじ登ろうとするマリアを抱き上げて、コハクの背に乗せてやる。
いやいや、兄が〈勇者〉で、妹が〈ドラゴンライダー〉って、どんだけハイスペックな兄妹なんだよ!
もしかして、レオが本来〈勇者〉となる世界ではマリアも共に戦うはずだったのだろうか。
「コハク、マリアを頼むね」
「ピィー!!」
コハクが高い声で鳴いた。
よし、それじゃ行こうか。
「キング、レオの所へ〈空間転移〉!」




