急転直下。
現在、苦戦中です。
いや、うん、手加減って難しいな……。
うちの猫達はもちろん、私も「フツーの人間」と戦った事はほとんどない。
例外は盗賊の討伐だが、奴らは少人数なのでおこんが麻痺させたり、キングが〈影魔法〉で拘束させればすむ話だったので苦戦した覚えはない。
今回は、統率の取れた団体行動をする軍隊が相手だった。
全滅させるなら簡単だったが、あくまで陽動のつもりなので手加減しなければなかったのだ。
適度に戦力を削ぐといってもなぁ……。
過剰戦力なんだよな、猫達。
おこんの〈引っ掻き〉によって麻痺させた連中はいいとして。
りゅうたろうやコハクが何かしようものなら、あっという間にコトが終わってしまうし、くぅ達の魔法を当てるわけにはいかないし。
……完全に手詰まりだ。
レオ達が早いところマリアを見つけて合流してくれる事を祈るしかない。
「よっ、と」
こちらに向かってきた兵士を蹴り飛ばす。
おー、よく飛ぶな。
ちなみに、私も大鎌を使うわけにもいかず肉弾戦の真っ最中である。
私も猫達も〈物理耐性〉のスキルを持っているので、フツーの人間が使うフツーの武器で傷付く事はまずない。
唯一厄介なのは、魔法を使う連中だが。
「よつば、〈解除〉!」
「にあん!」
おやつのためにせっせと人命救助に励んでいたよつばが、ちょいちょいと前足を動かす。
よつばのスキルにより、発動する前に潰せる。
んー、本当に無敵すぎるんだよな、うちの猫達。
レオ達、早く戻ってきてくれないかなぁ……。
そんな事を思っていると。
「ピィーっ!!」
コハクの甲高い鳴き声が戦場に響き渡った。
いつもの鳴き方ではない。
これは……、警戒音?
いや、コハクだけではない。
おこんやよつば、福助までもが何かを警戒するように毛を逆立てている。
「うなぁぁぁぁぁおぅぅぅぅぅぅ!!」
「うあぁぁぁぁぁおぅぅぅぅぅぅ!!」
くぅとチャビの唸り声が聞こえてきた。
〈威圧〉と〈殺意〉の同時発動に、兵士達がばたばたと倒れていく。
「チャビ、くぅ! 落ち着いて!!」
この状態では、民間人など死者が出かねない。
「うぅぅぅぅぅぅ!!」
空から聞こえてくるのは、まさか、りゅうたろうの唸り声か?
基本的に声を出して鳴かないりゅうたろうは、唸り声を出す事も滅多にない。
どうした? 何があった?
「!?」
突然、背中にぞわっと寒気が走った。
何だ、これは?
気持ち悪い、おぞましい。
そう感じるこれは……。
王城の回りに黒い霧のような物が現れたかと思う間もなく、ぱっくりと空が開いた。
「《世界の傷》……」
あれは、ほかの世界に通じる裂け目のはず。
何故、それを通ってこの世界に来たばかりのジルコニアに……。
「まさか!!」
やつら、レオ達を呼び出した時のように、また〈召喚〉しようとしているのか!?




