新たな依頼。
レオ、つまり〈勇者〉を保護した時点で神様達からの依頼は達成済みだ。
だが、妹を置いてはいけないだろう。
さて、どうするか。
ジルコニア王国に忍び込んでかっさらってくるのが、一番手っ取り早いのだが。
〈勇者〉を失った場合、ジルコニアがどうするか。
……おそらく、またしても〈召喚魔法〉で新たな力を手に入れようとするだろう。
だが、今回のようにうまくいくとは限らない。
いや、とんでもない化け物を呼び出す確率の方が高い。
まぁ、どんな化け物でもうちの猫達なら勝てるだろうが、その結果世界が滅びかねない。
「うーん……」
うなる私を、レオが黙って見ている。
……まだ子供だよなぁ。
レオを見て、私は心の中でため息をついた。
15才だと言ったが、多分この世界の平均よりは小柄だろう。
妹はさらに小さいだろう。
そんな小さな子を人質に取り、まだ子供と言ってもいいレオを魔王を倒す旅へと送り出す。
ろくでもない国だよな。
大体、本気で魔王を倒したいなら軍隊でも送ってよこせよ。
軍備が整っていないわけでもあるまいし。
ギルドの依頼で内情調査に行った時の事を思い出し、私は顔をしかめた。
おそらく、ジルコニアでは軍隊は王族や貴族達を守るためだけに存在している。
勇者であるレオは、偶然手に入れる事が出来た戦闘力なのだ。
……失ってもかまわないのだろう。
もしかしたら、レオに魔王の力を削がせたあと、自分達でとどめをさす気なのかもしれない。
この世界で、覇権を得るために。
「無理ならいいんです」
レオが立ち上がった。
「ただ、俺がマリアの所へ忍び込む手伝いだけしてもらえませんか。あとは自分達でなんとかします」
静かな目をしてレオが言った。
……ああ、この子はやっぱりあきらめてしまっているのか。
元の世界にいた時から、誰からも助けてもらえないとあきらめていたのか?
……あいにくだったな、少年。
「泣いている子供を見捨てられるほど、ドライな性格してません」
「……泣いてないです」
不貞腐れたように、レオは口を尖らせた。
ふうん?
さっきから、チャビが君から離れないんだけどね?
魔王姉弟の片割れではあるが、基本的にチャビは癒やし系の猫だ。
私が泣いたり落ち込んだりした時も、側から離れようとはしなかった。
「助けてほしい時は素直に言いなさい、さっきみたいに」
「でも……」
ちら、とレオがチャビを見た。
チャビが励ますように、ぐりぐりと頭をこすりつける。
「……俺は、妹を助けたい。手伝ってください」
「了解。その依頼、引き受けました」




