聖女。
「俺はレオといいます。多分、ここでもジルコニアでもない所で暮らしていました」
そして、レオは自分の身に起きた事を話し出した。
早くに両親を亡くし、年の離れた妹と一緒に祖父母の元で暮らしていた。
生活は楽ではなく、レオも幼いうちから働いていた。
やがて、祖父母が亡くなり、レオ一人で妹を育てなくてはいけなくなった。
そんなある日。
「突然まわりが光って、気がついたら妹と一緒にお城の中にいました」
見たこともないような立派な服を着た人達が、レオ達を見て大喜びをしていた。
「勇者様だ!」と。
「最初は、ちやほやしてもらえて嬉しかったんです。今までよりずっと強くなれたし、俺が勇者なんだって、ちょっと偉くなった気がして」
まぁ、〈勇者〉スキルなんてチート中のチートだからなぁ。
「魔王を倒して世界を救ってほしい」と言われた時も、自分の使命なのだと納得していたらしい。
だが。
「その頃から、マリア……、妹に会わせてもらえなくなったんです」
聖女だから教会で保護している、とレオはそう聞かされた。
どうしても妹に会いたかったレオは、こっそりとマリアのいる教会に忍び込んだ。
「だけど、マリアの側にはたくさん見張りがいて、まるで、まるで……」
「……捕まっているみたいだった?」
私がそう言うと、レオはこくりと頷いた。
そして、魔王を倒す旅に出る時に言われたのだ。
「レオ様の身に何かあれば、聖女であるマリア様にも危険が及ぶかもしれません」と。
そこで、レオの中に疑惑が生まれた。
マリアは自分に対する人質なのではないか、と。
「でも、こっちには知り合いもいないし、どうしていいか分からなくて……」
涙ぐむレオに、チャビがごつんと頭をぶつけた。
多分、慰めているのだろう。
私が落ち込んでいた時も、よくしてくれた仕草だ。
……おそらく、レオの思っている通り、マリアは人質なのだろう。
召喚というのは、術者と召喚対象者の間にある種の契約関係が結ばれる。
せりが〈召喚魔法〉で呼び出すクラーケンは、海神様を通して誓約が結ばれている。
だから、クラーケンはせりには逆らえない。
だが。
人でも物でもなんでも迷い込んでくるこの世界に、ジルコニア王国が違う世界から偶然にも呼び出せてしまったのは〈勇者〉だった。
自分達より力を持つ勇者であるレオと、誓約が結べなかったのではないだろうか。
だから、レオの弱点である妹を聖女という名のもとに監禁した。
レオが、自分達に逆らわないように。
多分、こんなところだろう。
……ムカつく。すっげームカつく。
「あ、あの……?」
レオが怯えたような様子で私を見ていた。
こういう時、私はどうも相当凶悪な表情をしているらしい。
今までにも、何度か怯えられた事がある。
……え、あれ?
魔王と呼ばれるのは猫達が傍若無人に暴れまわるからだと思っていたけど。
まさか、私の表情が凶悪すぎたせい!?




