願い。
エレベーターに乗った時のような微妙な浮遊感と共に、私達は魔王城へと移動した。
ここは魔王城の中での唯一の安全地帯、つまり罠のない大広間だ。
私がやっていたゲームでは、ラスボス戦の舞台になった場所だ。
「逃げてもいいけど、死なないでよ。罠だらけだから」
そう言いながら、私は肩に担いでいた勇者を床におろした。
ぽかんとしている勇者に、私はこちらの事情を話した。
元々、勇者を必要としていたのは別の世界だった事。
ジルコニア王国の行った召喚が危険なものだった事。
神様達の連名で、私に勇者の保護を依頼してきた事。
ついでに、魔王は私ではなく猫達だという事も話した。
勇者は呆然とした様子で、口を挟むこともなく私の話を最後まで聞いていた。
「…………」
まぁ、信じられなくても無理はないだろうが。
とりあえず、逃げたり攻撃してきたりするのはやめといてほしいところだな。
身の安全の保証が出来かねる。
うつむいたまま動かない勇者の側に、チャビが近づいた。
ごろごろ喉を鳴らしながら、その腕に体をこすりつけた。
やはり、猫達が勇者を警戒している様子がない。
くぅなどは欠伸をして体を丸め、眠る態勢を取り始めた。
あの女達への対応と、はっきりと差がある。
おそらく、あの女達はジルコニア王国の人間だろう。
今までの事や猫達の反応から考えると、あの国は敵だと考えてよさそうだ。
まぁ、それがこの世界にとってなのか、私達にとってなのかは分からないが……。
「じゃあ、俺は、俺達はあいつらに……?」
そう呟いて、勇者は顔をおおってうずくまった。
……俺達、か。
女達とのやり取りから考えると、聖女の事を言っているのだろうとは思うが。
女神様から、聖女の話は聞かされていない。
どういう事だ?
勇者が顔を上げ、私の顔を見た。
「お願いがあります」
「……何?」
「俺はどうなってもかまいません。だから、聖女を、妹を助けてください」
お願いします! と勇者は頭を下げた。
勇者の側にいたチャビが私を見上げている。
はい、はい。分かっていますよ。
「事情を説明してもらえる?」




