勇者。
いったん引くしかないか。
あーもー、女達が来る前に少年が勇者だと分かっていれば話がスムーズだった、の…に……。
あれ?
勇者が一人だった時は、猫達が反応していない。
遠巻きにはしていたが、それは猫特有の警戒心からだ。
なにより、せりの〈気配察知〉が発動していない!
どうなっている?
「うなぁぁぁぁぁおぅぅぅぅぅぅ!!」
くぅがうなり声をあげる。
空気がびりびりと震え、妙に息苦しい。
〈威圧〉のスキルが発動したのだ。
女達が顔を歪める中、勇者の少年だけは何も影響を受けていないようだった。
なるほど。
本当に勇者なんだな、この子。
「勇者様! やつらを倒さなくては!」
「世界をお守りください!!」
いや、確かにその通りではあるけどな。
そもそもの原因を作ったやつらが何ほざいてんだよ!
「…………」
勇者が剣をかまえた。
だが、まだどこかためらっているようにも見えた。
まぁ、無理もない。
私を魔王だと思っているとしたら、その相手がただの人間にしか見えていないだろうからな。
実際、ちょっと頑丈なだけが取り柄の普通の人間だし。
化け物みたいな相手なら、ためらったりはしなかっただろうが。
「聖女様のためにも!!」
女の一人がそう叫ぶと、勇者の顔色が変わった。
剣を握りしめ、私を睨みつける。
だが。
ああ、その目は見覚えがある。
辛くて、苦しくて、悲しくて。
けれど、助けをあきらめている目だ。
誰も手を差し伸べてくれないと絶望している目だ。
うちの猫達が私に拾われる時に、そんな目で私を見ていた。
雪の降る中、姉弟で身を寄せ合って。
おなかをすかせて動けなくなって。
うまく動かない足をひきずりながら逃げようとして。
それでも生きようとしていた、小さな生き物達がしていた目だ。
…………。
ちっ、と私は小さく舌打ちをした。
「キング、〈影魔法〉で勇者を拘束!」
キングの影が長く伸び、勇者の身体に巻き付いた。
「勇者様!?」
「おこん、そいつらに〈引っかき〉! 邪魔させるな!」
私やくぅに気を取られ、小さなおこんの存在に気がついていなかったのだろう。
女達は、あっさりと麻痺して動けなくなっていた。
「みんな、戻って!!」
私の気迫に押されたのか、猫達は素直に私の側に来た。
全員いるのを確認し、私は勇者を肩に担ぎ上げた。
もちろん、〈身体能力強化〉レベル8のおかげだ。
「キング、〈空間転移〉!」
目的地は魔王城!!




