新しい国。
結局、新作インスタントラーメンに負けて、女神様の話を聞く事にした。
この世界は食べる事には不自由なく、米も味噌や醤油に似た調味料も存在するが、インスタントラーメンやレトルトカレーはさすがに手に入らない。
神様達は特殊なルートで私が元いた世界からも仕入れる事が可能なため、だいたい依頼料は食べ物関係になる事が多い。
……そうでなければ、すぐに神様達は猫達にスキルを与えようとするのだ。
神様のくせに、世界を滅亡と隣り合わせにしようとするんじゃない!
まぁ、それはそれとして置いておくとして。
「で、今回はどの神様から?」
ため息混じりに私が尋ねると、女神様は目を泳がせた。
……おい、こら、とっとと吐いちまいな。
「……全員です」
「は?」
「この世界に存在する全ての神からの依頼です」
「…………」
私は立ち上がり、猫達に声をかけた。
「みんな、帰るよー」
「つかささん! 待って下さい!!」
「旅に出ます。捜さないでください」
縋りつく女神様をずるずると引きずりなから、私は神殿を出ようとした。
心身共に、私もずいぶんと逞しくなったものだ。
だてに修羅場を何回もくぐり抜けて来たわけじゃないしな。
過去のなんやかんやに思いをはせていると、女神様が叫んだ。
「ジルコニア王国の件なんです!」
「ジルコニア……」
思わず足を止めた。
ジルコニア王国は、ごく最近この世界へとやって来た国だ。
この世界は、何故か違う世界から人や物が迷い込む。
私のような転生者も多いし、ある日突然迷い込む者もいる。
個人やグループ単位がほとんどだが、真珠国の祖に当たる人達など集落単位でやって来る者も多い。
その多くが、自らの意思とは関係なくこの世界へ来てしまう。
過去にはそれが原因で世界を滅ぼしかけるほどの揉め事もあったが、うちの猫達がほぼ力尽くで解決した。
……うちの猫が、世界の半分を焼き払おうとしていたのは秘密だが。
そして、ジルコニア王国は文字通り、この世界へとやって来た新しい国だ。
国単位というのはこの世界でも稀な事らしく、私も各国の冒険者ギルドからの合同依頼という形を受け、この間様子を見てきたばかりだ。
ジルコニア王国は固く門を閉ざし、石で出来た壁で国全体をぐるりと囲んでいた。
その事自体は魔物に襲われる事もあるこの世界では珍しくもない。
さすがに国単位となると真珠国くらいのものだが、あまり大きくない街などは石壁で外界から身を守っている事もある。
だが、ジルコニア王国は城壁の上に兵を立たせ、近づく者には兵も民間人も問わず容赦なく矢を射掛けてきた。
警戒する気持ちは分からなくもないが、私が見た限り、警告ではなく明らかな殺意があった。
城壁に残る古い矢傷や燃えた跡から考えると、争いの絶えない世界から来たのだろう。