エンカウント。
いや、まさか私の大鎌が火の宝剣とやらだったとは。
大鎌は火の神様からもらったし、まぁ、確かに特製ではあるんだろうけど。
私の武器の大鎌は、真紅の鋭い刃を降るたびに火の粉が舞い上がり、柄は何で出来ているのかは分からないが非常に頑丈で軽い。
魔法の方はからっきしの私には、炎属性が付属しているのがありがたい。
ジルコニアが欲しがっている火の宝剣は、現状3本ともこちら側にあると思っていい。
新しい物を造るとも思えないし、ましてや、それを勇者に与えるわけがない。
「んー?」
武器を手に入れられないとしたら、勇者サイドは次にどのような行動を取るのか。
って、すっかり思考が魔王サイドになっているな……。
「ピィー……」
「コハク?」
ドラゴンのコハクがキャットハウスから顔を出し、不満そうに鳴いた。
どうやら、りゅうたろう達のように外に出たいらしい。
ドラゴンとはいえ、柴犬サイズになっているので出すのはかまわないのだが。
「コハク、少し待ちなさい」
ここはマズい。
ガーネットはドワーフの職人が多く住んでいる。
ドラゴンであるコハクは、素材扱いされかねない。
ジルコニアの目的も確認出来たし、火の神様もしばらく目を覚まさないだろうし。
という事で、私達は火山都市ガーネットをあとにした。
人のあまり通らない荒野まで移動し、猫達とコハクをキャットハウスから出した。
「はい、遊びに行っていいよ。ごはんの時間までには帰ってきなさいよ」
私がそう言うと、猫達は好き勝手な方向へと走り出した。
コハクは通常サイズのドラゴンの姿に戻り、空へと羽ばたいていった。
さて、私はどうするかな。
ん、日が暮れてきたな。
茜色に染まった雲を見上げながら、私は欠伸をした。
猫達を待つ間、私は本を読んだり、うとうとしたりとのんびりした時間を過ごしていた。
ここのところ、ばたばたしていたしなぁ。
ばっさばっさという羽音が近づいてくる。
コハクが帰ってきたようだ。
それに比べて猫どもは……。
ごはんまでには帰ってくるように、って言いましたよね?
「ピィー!!」
コハクが高い鳴き声をあげる。
楽しかったみたいだな。
その時、突然一人の男性が現れた。
「危ない!!」
え?
男性は私を庇うように前に立ち剣をかまえた。
……コハクに向かって。
は?
「俺が抑えているうちに、逃げてください!」
……あー、なんか勘違いしているな、この子。
よく見てみれば、男性はずいぶんと若そうだった。
15、6才くらいか?
それにしては立派な装備だが。
どこか、いいところの子だろうか。
って、いや、そうじゃない!
はっ、と私は我に返った。
「大丈夫だから!」
慌てて、少年の手を抑えた。
「あれ、うちのドラゴンちゃんだから!!」
「……え?」
ぽかんとした様子で、少年が私を振り返った。
思っていたより落ち着いていたようだったので、私は彼から手を離した。
「コハク、小さくなって」
「ピィー!」
私の言葉に従い、コハクが柴犬サイズへと姿を変えた。
その様子を見て納得したのか、少年は剣を鞘に収めた。
「すみません。ドラゴンに襲われているのかと思って……」
「うん。そう思われると困るから、人のいない所で散歩させていたんだけどね」
「散歩? ドラゴンの?」
少年は我慢できなかったようで、笑い出してしまった。
「そんな人、初めて見ました」
……だろうな。
そこへ、猫達が帰ってきた。
見慣れない人物の姿に、遠巻きに私達の事を見ている。
いつも通り何も気にならない福助だけが、真っ直ぐに私の所へ駆け寄ってきた。
「お帰り」
「黒い猫……」
福助の姿を見て、少年が小さく呟いた。
その時だった。
せりが耳を伏せたイカミミ状態になり、「にゃあ!」と高い声で鳴いた。
〈気配察知〉か!
警戒していると、武装した複数の女性達が慌てた様子でこちらに向かって走ってきた。
あれか?
そして、彼女達は少年に向かって言った。
「勇者様! ご無事ですか!?」