やる気を出しなさいよ!
ヤバい、抜けられる!
「おこん、止めて!」
私の言葉に反応して、おこんが抜け出したモルアを引っ掻いた。
おこんのスキル〈引っ掻き(麻痺100%)〉により、モルアの動きが止まる。
「行かせるか!」
大鎌を振るい、私がとどめを刺した。
「あんた達、もう少しやる気を出しなさいよ!」
商業都市ターコイズのギルドからの依頼により、荷物を届けに行った先での事だった。
困り果てた様子の男性が、ギルドの受付と何やら揉めているようだった。
「作物も家畜もやられた! いつ、村人に被害が出るか分からないんだぞ!?」
「分かっています。でも、モルアの群れとなると……」
モルアというのは、熊と猿が合わさったような魔物だ。
体が大きくて力も強く、群れで行動する上にずる賢い。
どうやら村が襲われているらしいが、このギルドには対応できる冒険者がいないらしい。
「あ!」
私と、私の肩に乗っている手のひらサイズのりゅうたろうを見て受付さんは顔を輝かせた。
「もしかして、ターコイズからの荷物の……!?」
「はい、依頼された荷物を届けに来ました。どこに置けば……」
私に依頼するくらいなので、相当デカくて重い荷物だ。
一応、中身は秘密らしいが〈無限収納〉に入れた時点で判明している。
多分、ギルドの方でも承知しているのだろうが、お互いに知らないフリで通している。
だが、受付さんは私の言葉を遮って叫んだ。
「っていうことは、〈竜殺し〉!!」
…………。
「え!?」
ギルドにいた全員が一斉にこちらを振り向いた。
小さなギルドなので、人数が少ないのがせめてもの救いだった。
「あの、この人の依頼を受けてもらえませんか? モルアの、それも相当大きな群れらしくて」
モルアの群れとなると、少なくとも中級以上の冒険者が複数人必要だ。
しかもずる賢いので、出し抜かれないようにそれなりの実践経験を積んだベテランが望ましい。
多分、このギルドには当てはまる冒険者が在籍していないか、または今は別の依頼で不在なのかもしれない。
「あ、あの……、助けてください! お願いします!!」
依頼をしに来ていた村人が、頭を下げた。
「……ギルドを通しての、正式な依頼なら受けますよ」
「報酬は通常で大丈夫ですか?」
受付さんが確認してくる。
「相場価格なら」
「は、払います! お願いします!!」
「分かりました。その依頼、受けます」
というわけで、モルア退治に村に来たのはいいのだが。
ドラゴンでもワイバーンでもない、ただの魔物であるモルア相手に猫達のやる気は今ひとつであった。
食べられないので、よつばはもちろんやる気ゼロ。
せりは元々戦闘向きではないので、私や自身に危険が及ばない限り、あまり積極的ではない。
ドラゴンではないからか、くぅやチャビ、キングは全く気が乗らないらしい。
わりと好戦的なおこんや福助、真面目なりゅうたろうとドラゴンであるコハクは参戦しているのだが。
ただの魔物なので、物理特化型の私でも倒せるがなにしろ数が多い。
またしても、隙をみてすり抜けようとするモルアを蹴り飛ばす。
吹っ飛んだ先にいたキングが、〈影魔法〉でモルアを拘束した。
多分、昼寝の邪魔だったのだろう。
「せめて、トドメくらい刺しなさいよ!」
一頭でも抜けられたらマズい。
ずる賢いモルアは、人間を人質に取る事もあるらしい。
面倒くさそうに、くぅが〈剣魔法〉でトドメを刺した。
「だから、やる気出しなさいよ!!」