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第四話

「イヤホンは片耳だけ、スマホを見ながら歩くのは厳禁、ひったくりで済めば良い方でさっきみたいな事だって…」

 ファミレスを出た私と成宮さんは特に目的地を定めず街を歩いた。

 私が思いつくままに語る明星市の心得に成宮さんはその都度感心したように相槌を打つ。

「バスとタクシーでは現金は使えないので専用の電子マネーを用意して…」

 段々と間が持たなくなってきて、行先くらい決めてからファミレスを出れば良かったかなと後悔しだした頃、ちょうどよく『流れ星公園』に差し掛かった。

「あと、危険なのはこうゆう広い公園ね」

「えぇ、公園が危険なんですか!?平和そうですけど」

 『流れ星公園』は明星市の中でも屈指の敷地面積を誇る公園で、私達は公園の一角にある噴水広場に面した出入口の前に来ていた。

「安全なのは道路に面してる場所だけでひと目の届かない散策路は昼間でも危ないんですよ、今も散策路を一周したら何人の露出狂と薬物中毒者に会うかわかりません」

「へぇ~、怖いですねぇ」

 成宮さんは緊張感のない怖くなさそうな声音で呟く。

 その時、視界の隅に見覚えのある姿が映った。

「おじさん!チョコバナナクレープおかわり!」

「あざみちゃん食べ過ぎだよ、もう六個目だよ」

 噴水広場で営業しているキッチンカーの前にいるのは『クモ』の通称で知られる鋼線使いの殺し屋、癖のある長髪が綺麗な一縷あざみちゃんだ。

「食べずにはいられないっての!」

「そう…、これで最後ね」

 あざみちゃんが小銭を差し出すと強面のクレープ屋さんは慣れた手つきでクレープを作ってあざみちゃんに差し出した。

「あざみちゃん、どうしたの?やけ食いして」

「んむっ、んん~!」

 私達に気づいたあざみちゃんは急いでクレープをもぐもぐして向き直る。

「それがさ、聞いてよ」

 あざみちゃんが私の後ろに控える成宮さんに気づき警戒の視線を私に向ける、私はアイコンタクトで『この人は大丈夫』という意を伝えた。

 夢乃さんの知り合いなら、こちら側の人間という判断だった。

「ターゲットがドジして捕まっちゃってさ、今頃地獄行きのはずが留置所行きになっちゃって」

「あぁ、それはついてないね」

「女性への暴行を繰り返してた半グレグループなんだけど、目撃者の証言によると女性を車に連れ込んで間もなく事故起こして通報されて、で逮捕ってことみたい、もうマヌケ過ぎ」

 大きくため息をついて手の中のクレープに視線を落とすあざみちゃん。

 私は女性が被害に遭わずに済んで良かったと思うと同時に標的を狙うチャンスが遠のいたあざみちゃんの落胆にも共感できた。

 それにしても手練れの犯罪者が女性を捕まえた直後に事故なんて。

 そんな状況、見覚えがあるような。

 私が後ろの成宮さんをチラリと見ると。

「あっ!それってさっきのお兄さん達ですよね」

 納得顔で話す成宮さんを見てあざみちゃんの表情が一気に険しくなる。

「ちょっと、どうゆうこと!」

「そ、それは…」

「歩いてたら急に車に連れ込まれてびっくりしちゃいました、それでお兄さん達には眠ってもらって…」

 私が上手い誤魔化し文句を考えるより前に成宮さんは自分を攫おうとしたグループのことを滔々と語ってしまう、あざみちゃんは苛立ちと警戒心の混ざった眼差しを成宮さんに向けた。

「こいつ何?」

「私もさっき会ったばっかりで」

 苛立つあざみちゃんとは対照的に成宮さんはにこにこの笑顔であざみちゃんの頭の先から爪先までを品定めするように眺めている。

「もしかして、あなたも和子ちゃんみたいに街の悪者をやっつける掃除屋的なことしてるんですかぁ」

「だったら何」

「さすがは夢乃ちゃんが呼ばれる程の犯罪都市ですね、こんな小さい女の子まで…」

「ちょっと!こっちは仕事邪魔されてんだけど!」

 成宮さんの能天気な喋りをあざみちゃんの一喝が遮った。

「このイカレ女が、あんたにはここの流儀を教えなきゃいけないね」

 あざみちゃんの鋭い眼光が成宮理沙を射抜く。

 あざみちゃんの怒りをわかっているのかいないのか、成宮さんは私を一瞥してじっとりとした笑みを作る。

「いいんですかぁ、こんなかあいい子と遊んじゃって」

 成宮理沙の呟きは理性がこぼれ落ちてしまったような不気味さがあった。

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