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六話「獣たちの結束」.3

 同時刻、鳥の民(ハルピウス)の集落近くの森に潜む影が一つ。装甲を犠牲にして軽量化と静穏性を高め、強行偵察型に改良された『ブレット』だ。

 背部には緊急時のための爆発性加速装置を搭載しており、場合によっては任務一つで関節とアンブロス・ジェネレーターを使い潰す危険性さえあった。

 しかし、それによって得られた速度は、『グラディウス』の全力疾走すら凌駕する。


『長、集落のみんなも、敵には十分気を付けてくれ』

鳥の民(ハルピウス)を代表して、行ってまいります!』

『フェイジアちゃーん、気をつけてな!』

『ルガリ様、また遊んでね!』


 この場所に潜伏してすでに一日半。すでに保存食と硬いベッドには飽きてきた。

 頭部の赤目の単眼(モノアイ)に搭載された望遠装置と、集音装置が捉えたのはそんな会話だった。


『ルガリ様たちは、予定なら三日後にはお戻りになる手はずだ。皆の衆、それまで我らの里、必ずや守り抜くぞ!』

『おおーっ!!』


 歩き出す敵方のアルマートゥス。その肩に乗った若い獣人。ただ問題は、彼らの行き先が自分たちの拠点のある方角ではなく、より木々の生い茂る山のほうだということだ。

 そちらの支配地域は、主であるフランクリンとは別の貴族が収める領地だ。まさか自分たちの居場所がわからないほど愚かだとは、この偵察兵は思わない。まして街道が伸びているのだ、道に迷う方がどうかしている。


「偵察兵の極意。決して敵を侮らないこと。油断した姿はこちらを欺く芝居と思え」


 先輩偵察兵からの教えを口にして、決して油断しない。いくら敵が発掘兵器を手に入れて奢り高ぶっていると言っても、奴らは獣。

 獣は油断しないものだ。

 何より、奴らがどこに行くのか。わざわざ防衛の要であるアルマートゥスを離してまでどこへ行こうと言うのか。


「えっと、今の言葉は……ハル、ハルピ……ハルピウス、奴らの部族名か。どこどこ人って意味だよな。その、えっと、代表……だから言語教育は先に徹底しろっていうだろうがよ!」


 支配者が恐れるのは、被支配民の団結と反逆だ。そのきっかけとなるのは、言語だ。彼らは自分たち支配者の知らない言語で話し合い、知らぬ間に結束を固める。

 だから言語を自分たちに合わさせる。現地の言葉を消滅させてでも。

 原住民(プリミティ)たちの文化を、自己認識を打ち砕くことで反抗する意志を挫く。それが徹底できないから反逆しようと言う心が生まれるのだ。


「あの長が教えて回ってやがったんだな……国の言語学者どもが資料だけは残しておけっつうから統一が進まなかったんだよ。ちくしょう!」


 現場の怒りをここにはいない学者にぶつける偵察兵。興奮した表情でも、頭は冷静だ。今優先すべきは、アルマートゥスがどこに行くかではない。アルマートゥスがいなくなる期間が三日間もあると言う情報だ。

 味方が攻撃するには、うってつけの時間だ。

 それもあの発掘兵器が取って返しても間に合わない距離にある時に攻撃するのが、一番いい。


「一日半、いや、二日後がいい。こちらが攻撃して、屈服させるのに半日。掃討と捕縛して連れていくことを考えたら、それくらいあったら。いやだが、滞在期間が長いだけで、距離が短かったら? ……それを考えるのは俺じゃねえ」


 自分の考えに区切りをつけた偵察兵は、望遠鏡を覗いていた目を離す。

 ただ何より、今ここでばれるわけにはいかない。


「明日の朝だ。日が昇ると同時に、脱出だ」


 それぐらいならば、あのアルマートゥスは相当な距離離れているはず。

 その時にこそ、自分はこの獣のたまり場から――。


『うわ、本当にいた。こんな遠くにいるのに、なんでルガリ様にわかったんだ?』

『なんでも、ネツモンセンサァがどうこうって言ってたで。それでわかったんだと』

『はぁ、ルガリ様にはありがてぇ第三の目がおありなんだな』

「――ッ!?」


 集音センサーの音ではない。機体のすぐ近くからする。というより、すでに上に乗られている。


『背中側のハッチを引っぺがすぞ……なんかちげくねーか?』

『バリエーション違いってやつだ。背中にデカいもんしょってるせいで、どこ壊しゃいいんだ?』


 時間はない。すぐにでも脱出しなければ。

 機体の状態を潜伏から機動状態へ変更。外の景色は望遠から通常視界へと変わり、アンブロス・ジェネレーターに火が入る。


「最速離脱だ。確実に、この情報を持って帰るんだ!」


 なぜばれた!? ここに潜伏してから一度も原住民(プリミティ)たちが通っていない。距離も集音センサーに繋がるコードの限界距離まで離れている。いくら鳥の民(ハルピウス)が鳥の如く目がいいとしても見つからないはずだ。

 その期待が、一瞬で崩れた。


『動きだした! 離れろ!』


 強行偵察型『ブレット』が走り出す。地面を軽やかに蹴る姿は草原を走るガゼルの如く。ボコボコの街道をもろともしないその姿に、乗っていた三人は追いかけもしない。


「はははっ! 蛮人どもが! アルマートゥスの壊し方も知らねぇで、粋がりやがッ!?」


 その時、地面が急に近づく。足に何がひっかけられたのだろう。だがどうして? 原住民(プリミティ)たちが見つけたのはつい今しがたで、罠なんて張る暇はないはず。


「ばれ、てた?」


 地面に激突して、軽量化されたアルマートゥスの体が跳ねる。体はシートに固定されているとはいえ、襲い掛かる衝撃から逃げられるわけではない。

 二度三度と跳ね、たまたま発した緊急加速が機体を浮かせて、四度目の跳躍を行い、道の横に落ちた。


『はぁ……さすがルガリ様、お見通しだったなぁ』

『アルマートゥスをばらして作ったこの縄、頑丈だったな。あいつ、ひっかけたのにちぎれてねぇ』

『無駄話してねぇで、さっさとばらしてとっつかまえるぞ。ただ、殺しちゃなんねぇ、俺たちは、あいつらと違って野蛮じゃあねーんだからな!』

『おう!』


 偵察兵の耳に、外部の音声が届く。尤も、それを聞いて、記憶する気力もなかったが。


少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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