六話「獣たちの結束」.1
ルガリとフェイジアの姿は、長の家の前にあった。
むろんルガリが中に入れず、会話するにも首を上に上げる必要がある。そこでルガリは長を屋根に座らせ、肩にはフェイジアを座らせた状態で話を進めていた。
「ふむ、集落の外に援軍を」
「ああ。この集落で戦えるのは、少数の力自慢くらいしかいない。少なくとも、防衛線を構築するだけの戦力にはなれない」
ルガリとて、何も学んでいないわけではない。
むしろより高レベルの戦闘兵器とするために、短期間でのVR訓練と集中学習により、戦略、戦術、戦闘技能を蓄積してきた。
単独部隊での孤立無援の戦いなど、するべきではない。
「集落だけじゃない。この森や、山全体を天然の要塞として活用するんだ。そのためには各地の原住民たちの協力が必要になる」
「我ら鳥の民以外の協力……犬の民や、猫の民たちとですか……」
獣人たちにも、様々な形態がある。この場にいるのが鳥の特徴を持つ者たちなら、他の地域には、他の種族がいる。ある程度同じ特徴を持つ者たちは寄り集まり、群れを形成する。
その群れを、より多くの者に広げることができたら。
「しかし、羊の群れと狼の群れは、ともに暮らすことはできぬでしょう」
「だが君たちは、ヒトの心を持つ者だ。外見的な違いがあるだけで、同じ大地に住み、支配された側というのは、同じだ」
同じ志と、同じ目的があるのなら、ともに戦うことができる。
「力を貸してほしい、長」
「……わかりました。幼き頃の縁がお役に立てばよろしいのですが」
「まずは、他の部族がどこにいるか、そこから教えてもらえるか」
「喜んで」
深く頭を下げた長を掌に乗せると、彼はある方向を指差した。
「森を抜けた先の谷、その向こうの山岳地帯に犬の民たちの集落があります。山から離れ、川を下った先。砂漠に続くあの辺りが、猫の民の集落になっています。ただ、あれはなかなか気まぐれな者たちでして、今頃別の所に集落を移しておるかもしれませんな」
さらに北に行けば寒冷地体があり、熊の民、鹿の民が住むと言う。
「しかし、猫の民と熊の民以外の者たちは、そのほとんどが人間たちの支配下にあります。前者は気まぐれ故定住地がなく、人間ですらその行方を掴み切れていないため。後者は寒冷地という支配する必要性がないためです」
「けれど、犬の民の状況はもっと厄介です。支配地域の山岳地帯は人間の開発に晒され、部族がバラバラになってしまったと、聞いています」
「今あそこに住むのはほとんどが人間で、一部の犬の民が奴隷のように扱われているらしいです」
それは、この地を支配していた婦人たちや部下が言っていたことだ。
「フランクリンたちの支配地域とはまた別の者たちによって支配されていて、搾取は我々の土地よりなおひどいようで。奴らは自分たちの支配に感謝しろなどと……」
「よくある支配者の理論だ。気にしないほうがいい」
あの傲慢そうな婦人の顔を思い出したルガリは、長の言葉にそう言って首を横に振る。
「最近婦人の機嫌が悪く、やたら原石の採掘量に拘っていたのは、その土地の人間と争っていたからではないかと」
「現地人には迷惑な話だ。でも、その犬の民たちに接触しよう。まず反抗する意志がある者たちの協力を得たい」
複数の群れを結ぶ連絡網――戦線を作り出し、人間に対抗する。
原住民たちが、自らの土地で、自らの意志で生きるために。
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