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五話「森の守護神」.3

「ルガリ様、身体検査が終わり、牢に繋いで起きました」

「ありがとう。フェイジア。みんなもご苦労様」


 フェイジアと、数人の女性原住民(プリミティ)たちに協力してもらい、あのパイロットを牢に繋げた。いまだに起きてこず、静かなものだ。

 彼女に協力してくれた集落の少女たちは一礼して自分の仕事に戻っていく。フェイジアだけは、膝を付いた『グラディウス』の左肩に座る。すっかり彼女の特等席になったそこに、ルガリは黄色の相貌(デュアルアイ)を向けた。


「彼女は、人質として役に立つものなのでしょうか」

「わからない。単なる一パイロットに、さほどの価値はない。俺もそうだった」

「ルガリ様は、今ではその一パイロットとは比べ物にならない価値をお持ちですよ」


 元使い捨ての奴隷兵ゆえに、卑屈気味なルガリに対し、フェイジアは肯定的な意見をくれる。下手をすれば依存してしまいそうな多幸感に包まれる。


「ありがとう。しばらく、君たちで彼女の世話を頼めるか。いくら敵だとしても、動けない相手を痛めつけるような真似はさせたくない」

「任されました」


 それをしてしまえば、この地を支配し虐げてきた者たちと変わらない。同じになるなと、わずかな同情心が告げる。

 まして、この一人だけで晴らせるほど、浅い怒りではない。

 支配者を打倒し、自らを虐げる者たちを駆逐した時にこそ、平和を口にできる。


「それと、少し相談したいことがあるんだ」

「はい、何でしょう?」

「このまま、この集落だけで戦っていても、いつか奴らに磨り潰される。対抗するためにももっと多くの仲間が必要だ。戦うための武器もいる」


 ルガリの言葉に、フェイジアは首を傾げる。具体的にどうすればいいのだろうか、と。


「この森の外に目を向けなくちゃ」

「森の外……と言われても。私も、生まれてから十五年、森から一歩も外には出たことがないので」


 ルガリの言葉に、フェイジアは困った顔をする。

 彼女はもちろん、この集落に生まれ、森の外に出たことのある者など、ほぼいない。鳥の翼を持つと言っても、渡り鳥のように海を超える力を持つわけではない。

 四十年しかない人生。そのほとんどが森の内側で完結してしまう。そしてこの森が支配者による支配を受けてから、さらに交流は断たれた。

 つい先日までの原住民(プリミティ)たちに、森から出る暇も、外に目を向ける余裕もなかった。


「でも、長なら少しは交流があるかもしれません。来訪者(キヴェルニアン)が現れるより前に生まれていたのは、長だけですので」

「約半世紀の支配は、孤立するには十分か」


 元人間であるルガリからしてみても、半世紀は長すぎる。それこそ一年足らずで心が挫かれ、物事を諦めてしまうことさえある。

 それでも、まだ全てが途絶えたわけではない。


「ルガリ様がいれば、それもまた繋げられるはずです。希望のなかった私たち(プリミティ)に、あなたが来てくれたんです」


 彼女はルガリの頬に手を当て、輝く目を見つめる。


「私たちは膝を付いて屈していました。けれど、ルガリ様がいれば、我ら森女神の子らは、不死鳥となって羽ばたきましょう」


 鳥型原住民(プリミティ)特有の言い回しだろうか。下手をすれば、そのまま燃え尽きてしまわないかと心配になる。


「……君がそう望んでくれたんだ。使い捨ての道具でしかなった俺に、意味をくれた」


 ならば、彼女らが灰とならないように、盾となろう。

 ルガリは『グラディウス』を立ち上がらせ、森の向こうへ木々の上から視線を向ける。


「この森を、山を――大地を守るんだ」


 森の守護神。獣人たちの牧羊犬プリミティ・ルペレクス。支配を打ち砕く者。

 いつかそう呼ばれる、鋼の戦士が立ち上がった。





少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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