五話「森の守護神」.2
残った歩兵たちを引き連れて、森を走り抜ける者がいる。
停車位置に戻ってきたルーサーは、息を切らせて走ってきた隊長の様子に慌てる。しかし、彼は強引に通信機を手に狂ったように叫んだ。
「ですから、増援を送ってください! 私の見積もりが甘かったことが、最大の敗因なのはわかっています! ですからこそ、次は確実に仕留めなくてはならないのです!」
『ルーサー。私は君を高く評価している』
通信の先にいるのはエドガーだ。わずかに通信機に届くカツ、カツ、という音は、隣で婦人がヒールで床を叩く音だろうか。
『そんな君が言うのだから、もちろん増援を送ろう。だが君の評価が下方修正されるのは、避けられない事実だ』
「承知、しております……」
『アルマートゥス兵団を動かす。指揮は我が息子、ダニエルに任せる』
「か、閣下? それは、本気で、でしょうか……?」
『……ルーサー。何か、不満があるのかね?』
エドガーの問いに、ルーサーは困惑する。当たり前だ、と。
この総督には、婦人との間に数人の子どもがいる。その中で最も父親の性格を受け継いでいるのが、長男のダニエルだ。
『あの子の操縦技術の高さは君もよく知っていることだろう。君の指揮とあの子が力を合わせれば、土着どものアルマートゥスなど塵芥よ』
「では、遠距離支援装備の支給をお願いいたします。ご子息の実力は申し分ありませんが、手を抜くと足元を掬われると言うことを経験したばかりで……」
『君がそこまで言うのならわかった。その場で待機し、援軍の到着を待て。今連絡すれば、五日ほどで到着するだろう。先に食料と野営道具だけ送っておく』
「はっ!」
ルーサーはほっとする。
「寄りにもよってダニエルのバカが来るのか……」
エドガーの長男ダニエルは、幼少期から父の英才教育のもとで育った生粋の戦士だ。自尊心の高さ、敵への容赦のなさ、もう一人のエドガーを見ているようだ。
確かに扱いにくいが、強力な増援が約束された。五機中三機も失うと言う大失態。これまでの功績がなければ、エドガーの怒りのままに通信機越しでも首をねじ切られていたかもしれない。
あとはとにかく、増援の到着を待つだけだ。ルーサーは野営の指示を出し、懐から酒の入ったボトルを取り出した。
飲まなければやっていられない。
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