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四話「不死なる心臓」.3

 ルーサーたちによる攻撃が迫る中。ふいにその声は響いた。


「そうか。それは好都合だ」


 ブンッ! と空気を切り裂いて、何かが彼らの中央に落ちる。早贄になった機体は一機。倒されたアルマートゥスは三機。ならば、そのジェネレーター――。


『え、これ……』

「爆ぜろ」


 炎が兵士たちを包み込む。破壊されたアルマートゥスを降ろそうとしていた機体直下で爆ぜたアンブロス・ジェネレーターは、爆炎で兵士を黒焦げにし、装甲、機器を焼き尽くし機能を奪う。


『アンブロス・ジェネレーターの誘爆現象か!? なんだよ今の威力……』

『おいセカンドユニット、答えろ、おい!』

「やっぱり、お前たちのアンブロス・ジェネレーターは、自爆用には造られていないんだな。羨ましいよ」


 集落の奥から姿を見せた『グラディウス』は、コクピットとジェネレーターをくり抜いたアルマートゥスを引きずっていた。

 最初に戦った時、機体の動きが違う時点で、予想はできていた。このアルマートゥスたちは自爆用ではない。時に爆発することはあっても、敵を巻き込んで死ぬことを前提とした『グラディウス』ほどの威力ではないだろう。


「この、野蛮人めが!」

「その野蛮人たちが、反旗を翻したんだ」


 右手には鹵獲した剣を握り、空っぽのアルマートゥスを盾のように構える。蛮族どころか外道の所業を見せる敵に、支配する側(キヴェルニアン)たちはたじろいだ。

 士気を挫けないと豪語したルーサーですら、あまりのことに鳥肌を立てている。


「なんて、野蛮で下品な行いだ……」

『奴をコクピットから引きずり出せ!』


 残った二体のアルマートゥスが剣を構える。左手にはクロスボウを持ち、いつでも射撃ができるように用意されている。

 爆発に巻き込まれた機体は、内部機構は無事だが、外部センサーや関節に大きなダメージを負っている。修復しなければ動けはしない。

 二対一、それで十分だ。


『腕を狙え!』

『左から回り込む!』


 機動力は『アルコス』の倍近く。人間で言えば早足程度の婦人の部下に比べて、こちらは軍の最新鋭機。駆け足、それ以上の速さで左右から迫る。

 横薙ぎに振るわれる刃。それを右手に握った剣で受け止める間に、第二の刃が反対側から迫る。ルガリは冷静に左手のアルマートゥスを振るって牽制する。

 剣より長いアルマートゥスの胴と脚部、質量の乗った鈍器となる。


『こいつ、手慣れてる!』

「歩兵部隊は集落の占領を! 人質になりそうなやつを見つけて、連れてこい!」

「外道はどっちだ……」


 支配者はいつだって変わらない。奪うばかりで、簡単に仲間を傷つけていく。


「うんざりだ。誰かに支配されるのは……」


 だからこそ、枷がなくなった今、心置きなく戦える。フェイジアたちのために、自分の意志で武器を手にできる。

 魂だけになったこの鋼の体が、誰かを守れるこの瞬間に熱を上げていた。

 空気を裂いて飛んでくるクロスボウの鉄矢。左手のアルマートゥスを盾にして防ぎ、一回転する勢いで投げつけた。


『なっ!? こいつ、速っ――』

「ぶっ倒れろ」


 投げつけたアルマートゥスに向けて飛び上がり、そのまま正面に向けて喧嘩蹴りを繰り出す。そもそも旧式『アルコス』や新型『ブレット』より大型な『グラディウス』。質量が倍以上になる飛び蹴りに、『ブレット』は容赦なく地面に引き倒された。


『テメェッ!』


 放たれた鉄矢を、左腕のセスタスが弾く。

 嘘だろ――と呆けたその隙を、ルガリは見逃さない。貪欲に勝利を求める戦闘機械としての性質は、たとえマスターが変わろうと健在だ。

 倒れて折り重なったアルマートゥス二機を蹴りつけて、その勢いで飛び上がる。

 反撃の刃は間に合わない。剣を真っ直ぐに突き立て、相手の腹を貫く。


『この、バケモ――』

「あんたらほどじゃないさ」


 左手に逆手で持ったナイフを、コクピットに突き刺した。


「う、嘘だろ。新型のアルマートゥス三機が、こんな短時間で……」

「土に埋まってたって話だろ。なんであんなに動けるんだよ!」

「アンブロス・ジェネレーターは、使用者の精神波によって出力と耐久年数に差が出る。もしも半世紀以上も前から埋まっていた発掘兵器だとしたら、あいつの出力は……」


 集落の家屋に踏み込もうとしていた兵士たちに動揺と困惑が走る。

 一方でルガリは稼働限界時間を気にしている。いまだに最大戦闘稼働時間に変化はない。つまり、もうすでに三百秒近くを使ってしまっている。

 拾い上げた剣を折り重なったアルマートゥスの胸部へ突き立てる。

 踏みつけ、動けなくすると、切っ先を下に向けた『や、やめてくれッ!』――と機体を接触したことで相手の声はよく聞こえる。


「そう言って、止めたことないだろ」


 力の限り振り下ろし、視線を残る兵士たちへ向ける。

 司令官らしきものへ見た時、相手はすでに判断を下していた。


「撤退せよ!」


 集落に踏み込みかけていた兵士含め、全員がそれに従った。

 最初の爆発で失った兵力二割と一機の回収を考える間もなく、彼らは撤退した。



少しでも気に入っていただけたら幸いです。




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