四話「不死なる心臓」.2
鳥の民の集落へ続く道を、人間の部隊が進んでいく。
整備された集落への道を歩くのは、五機の新型アルマートゥス『ブレット』。その後ろには軍用四輪駆動車が四台。荷台には十人分隊をそれぞれ乗せ、さらに中央には指揮車両に乗ったルーサーと小隊幹部を乗せた車両が走る。
合計五十名からなる人機混成小隊。通常の歩兵一個大隊、六百人部隊に相当する戦力だ。アルマートゥスと人間の兵力差は一対百。それでもかなり低く見積もった範囲だ。
鋼の巨人は、人間百人が束になっても勝てる相手ではない。
「全体停止! 野人どもめ……道をこんなボコボコにして、我々を足止めするつもりか」
ルーサーの眼前には、深くえぐられた道が森の方まで続いていた。敵方にアルマートゥスがいるとは聞いている。そして原住民たちの身体能力は人間をはるかに凌駕する。
突貫工事でもできるレベルが違う。特に石畳やコンクリートで舗装しているわけではなく、森を切り開き、平らにならしただけの地面だ。掘り返すだけでも車は動きづらい。
「車両での移動は困難です。アルマートゥスで途中まで運ぶ手もありますが」
「それで移動中の対応能力が削がれては意味がない。進軍速度は落ちるだろうが、車両はここで待機する。第三、四分隊はこの場で待機し、退路を確保。第一、二分隊は私とともに直進だ。三機もいれば十分だろう」
分隊二つとアルマートゥス二機を残しルーサーはそのまま街道を進む。
これらの車両にもアンブロス・ジェネレーターは搭載されている。小型で低出力だが、失うのは痛手なのは間違いない。
土着どものアルマートゥス、たとえ発掘兵器だろうと最新型のアルマートゥス三機と、歩兵部隊の攻撃に耐えられずはずはない。
『た、隊長! あれを……』
視界の高いアルマートゥスからは、遠くがよく見える。先頭を行く一機目が気づいたものに、ルーサーも望遠鏡を覗きこんで理解した。
自らの剣に胸を貫かれたアルマートゥスが一機、集落の入り口に突き立てられていた。
『ひでぇ、早贄ってやつに似てる』
『ここに住むのは鳥人型だろう。野人どもめ、狩人にでもなった気分か!』
『それより早く降ろそう。コクピットが潰れているけれど、せめて横にしてあげないと』
これが罠であろうことは誰の目にも明らかだ。戦争において、もっとも有意義な敵への攻撃は、死にはしないが他人の助け失くしては動けない状態にすることとされる。
救出に来た敵を待ち構えて攻撃することはもちろん、敵の物資、医療を圧迫させ、自分たちの有利な状況を作り出す。
そして敵の亡骸を見える位地に晒すのは、精神攻撃はもちろん、味方を葬ってやろうと言う精神性を利用した罠。
歩兵たちは周囲を警戒し、アルマートゥスの一機が磔になった機体を持ちあげる。
『私が降ろす。周囲の警戒を』
『くそ、許さねぇぞ。見つけたら踏み潰してやる!』
「これは抵抗の証だ。捕虜をとろうなんて考えるな。全員殺す気でかかれ!」
ルーサーともども、士気がめきめき上がっていく。相手からしたら、これでルーサーたちの士気をくじき、襲撃を成功させるつもりだったのだろうが、そううまくはいかない。
「土着ども! 今すぐ降伏すれば奴隷として生かしてやる。我らは偉大なるエドガー総督の忠実なる部下。この程度で挫ける軟弱者はいない! 潔く諦めるがいい!」
「そうか。それは好都合だ」
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