ただの盗人には重すぎる......
「うぉ」
ノアが、目を覚ますと目の前に両手に手錠を付けた豪華な服を着た金髪のイケメンが立っていた。
〔ん、よく見ると鏡に映った俺か。慣れんな。じゃなくて、いつの間にこんな豪華な服に着替えたんだ〕
ノアは鏡に映った自分の姿に違和感を覚えつつ、自分の置かれた状況に頭をフル回転させる。
〔指輪も付けたままだな。なんなんだこれは〕
「お気づきになられましたか?」
すると横からメイドに話しかけられる。
「俺をどうするつもりだ」
いまだに自分の立場が理解できていないノアは、怪訝な顔色で問いかける。
「あなたは、今から我が国の王と謁見していただきます」
「この国の王だと!」
ノアは驚きで目を見張る。
〔まさか、本当に王城に連れてこられたということか!このメイドをどうにかして逃げ出そうと考えていたが、王城であるなら下手なことをしたら即首が飛んでもおかしくない〕
「目もおさめになったようですし、自分の足で王の謁見の間へと行きましょう」
「えっ、いきなり。ちょっと待、力つよ!」
メイドに腕をつかまれたノアは、振りほどこうとするが強くつかまれてできなかった。そのままずるずると部屋の外に出る。
「目覚めましたか」
「はい、今から謁見の間へ連れていきます」
「了解しました」
部屋の前に立っていた二人の兵士も一緒についていく。
〔くそっ、もっと逃げづらくなってしまった。これは、腹を括るしかないな。作法など知らないが、どうにかして乗り切らなければ〕
廊下を歩いているときに、メイドや執事、騎士などこの城に仕えている人たちからの視線を感じながら、謁見の間の扉にたどり着く。
「この先が謁見の間です」
その扉は、ここまで見てきた扉と段違いに豪華に彩られていた。
「あ、盗人さん。さっきぶり」
声のした方向を向くと赤い宝石をこしらえた翡翠色のドレスをしたルーがいた。
「きれいだ」
ノアはその幻想的な姿に見惚れていた。
「ありがとう」
「あ、いや」
〔声に出ていたか。ちゃんとしろ。これから、この先のすべてを決める大事な場面だろ。集中しろ〕
ノアは心の中で気付けをする。
「ほう?この国の王女にナンパとは、度し難いにもほどがあるとは思わないか?」
ルーの近くに控えていたルミが騎士の鎧をまとい前に出る。
「王女だと?」
「そうだ。このお方は、クランベル王国第三王女「ルージュちゃーん」
扉から出てきた紅髪でひげを生やして、マントをまとったおっさんが、ルミの話を遮り、ルージュに抱き着いた。
〔なんだ、このおっさん〕
「お父さん、やめて」
「変な男に触れられたって聞いて、お父さん心配で心配で」
「王よ。謁見の間の前でそのようなことはお控えに」
ルミが諫める。
「ルージュちゃんがかわいいんだからしょうがないよ。」
ルミを含め、周りの人たちが頭を抱える。
〔これが一国の王か?とてもフランクな人だな〕
王が、ノアの方に目を向ける。
「お前か、うちのかわいいかわいいルージュちゃんに手を出したのは」
王はまるで、ノアを射殺すような目で見る。
〔その程度の殺気じゃ、俺はビビらんよ〕
二人は、睨み合っていると扉から怒鳴り声が聞こえた。
「あなたっ、こっちに戻ってきなさい!」
「は、はぃぃ」
それを聞いた王は、恐怖で体を振るわれながら扉の中に入って扉が閉まる。
「ごめんね。恥ずかしい所見せちゃった」
「あ、あぁ」
ノアは、茫然としながら返事をする。
「改めて自己紹介するね。クランベル王国第三王女ルージュ・フォン・クランベルです。よろしくね」
ルージュは、自己紹介をすると見事なカーテンシーをする。
「俺は、ノアだ。ノアだけだ」
ノアも自己紹介をするとこちらも見事なカーテンシーを見せる。
「とてもきれいなカーテンシーだね。どこで教わったの?実は、貴族だったり」
ノアのきれいなカーテンシーを見たルージュは、目を輝かせて詰め寄る。ノアは、少し体を仰け反らせる。
「ルージュ様、はしたないですし危ないですよ」
「あ、ごめん」
ルミに諫められシュンとして、元の位置に下がる。
「旅の途中にあったおじいさんに教わっただけだ。」
ノアの嘘は、絶好調である。
「へぇーどこかの貴族に仕えていた方だったのかな」
「さぁな」
そこで、扉が開かれる。そこから、男が出てくる。
「準備が整いました。どうぞ、お入りください」
「それじゃあ、いこうか」
「あぁ」
〔ん?なぜ王女と一緒に?まぁいい、ここからが正念場だ。気張れよ、俺〕
覚悟を決め、一歩目を踏み出す。
〔!!〕
ノアは、一歩目を踏み込んだ瞬間、目を見開いた。
〔この威圧感。為政者の威圧感だ。これだけでわかる。この国の強さを。さっきのふざけた雰囲気からここまで変えれるものなのか?〕
ノアは、自分を監視する騎士とともにルージュについていって、玉座へと至る階段の前で膝をつける。階段の上には、玉座に座っている王、その隣に座っている王妃と思われる女性、王を守る騎士がいる。それ以外には、ノアたちを含め数人しかこの部屋にいない。
「第三王女ルージュ参上しました」
ルージュが、名乗ると後ろの騎士からケツをどつかれる。
〔いってーな。わかってるよ。名乗ればいいんだろ名乗れば〕
「た、旅人のノアと申します」
「ふん」
〔誰だ。今、鼻で笑ったやつ。あとで覚えとけよ。〕
「顔を上げよ」
そういわれ、ルージュとノアは顔を上げる。
「まずは、ノア。碧の指輪を盗んだ件だが、不問に処す」
ノアは、不問という言葉に顔には出さなかったが心中では驚く。
〔不問だと。どういうことだ。何を考えている〕
「その代わり、その指輪に選ばれたのであれば、とある使命が与えられる」
〔使命だと?……嫌な予感がするな〕
「その使命とは、終末について調べそれと戦うことだ」
〔……終末〕
「ほう、結構なことを言っているのだが顔色一つ変えないとはな。一応説明するが、終末とは、この世界すべてを破壊できるほどの力を持った化け物だ」
〔面倒どころか、世界の運命の片棒を担がされたな。普通に嫌だな。絶対に嫌だな〕
ノアが、言葉を発しようとすると王が語りだす。
「ちなみに、断るとここで首を落とす。途中で逃げ出しても大陸全体でお前を賞金首として、指名手配する」
ノアは、首を縦に振ることしかできなかった。
「詳しくは、ルージュに聞け。・・・・・・それで、ルージュよ。あの件は本当にいいのか?」
「はい、構いません」
〔あの件?〕
「父親としては是が非でも止めたいんだが。というか、もう一度案が得てみない。今からでも、いたぁ!」
王は、隣に座っている王妃に足を思いっきり踏まれる。
「むぅ、わかった。それでは、第三王女ルージュに命じる」
「はいっ」
王の言葉にルージュは力強く返事をする。
「そこにいるノアと共に終末について調査し、戦え。そして、必ず生きて帰ってくること」
〔荷物が増えたぁぁぁぁぁ〕
ノアは心の中で絶望する。
「……はいっ」
「そこの男は、別に死んでも構わん。というか死ね」
〔私怨入りすぎだろ〕
「このことに関しては、公表もしないし、支援もしない。……本当にこれでいいんだな?」
「はいっ。ありがとうございます」
〔支援なしだと!俺たちだけでどうにかしろってことか!ルージュ様がどれほどな人物かは知らんが、不安しかないんだけど〕
「王よ、私もついていきます故、命に代えてもルージュ様をお守りいたします」
「頼むぞ。ルミエール。そこのコソ泥。ルージュに何かあったら……わかるよな」
「私も命に代えてもお守りいたす所存です」
王の有無を言わさぬ威圧に屈したノアは、誓いを立てる。
「……わかった。支援はしないといったが、ほんの気持ち程度ではあるがもってけ」
そうして、袋が渡される。中をのぞくと金貨が五枚入っていた。
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
「では、行ってこい!」
王は、酸いも甘いもかみ分けたような表情の後、堂々とした顔つきで見送る。
それを背にルージュたちは、晴れ渡った表情で謁見の間を去ったのであった。
ただ、その中の一人だけ、あきらめの表情が染みついていた。
旅立ちの日です。祝福しましょう。
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