俺は、まだ
「ドジ、踏んだな」
ここは、薄暗く人気のない細い路地裏。壁に手を当てている男は、愚痴と血を吐いた。その男の身なりは良いが、肺の辺りの服には穴が空いており、その穴を抑えている右手から血が滲んでいた。
「全く大袈裟な連中だ。ただ一人の盗人に対して百人規模の捜索隊とは。そんなに大事なもの......ではあるか」
男が、手に持っているものは、紅光りする宝玉を拵えた指輪であった。
レージュ王女の婚約指輪。カリンバル王国第三王女、レージュ・カリンバルが肌身離さず付けている指輪。レージュ王女の結婚式の時に結婚相手に渡すものらしい。これは、代々受け継がれてきた慣習らしい。
「ちっ、妨害するなら自分らでやれってんだ。こんな見窄らしい盗人に頼むんじゃなくてな」
レージュ王女とその結婚相手との結婚をよしとしない奴らが、指輪を盗めと男を雇ったようだ。
「いたかー!」
「いや、こっちにはいない!」
「あの傷だ、それほど動けないはずだ。徹底的に探せ!」
「くごほっ、ここで、年貢の納め時か。いろんなものを盗んできたツケが回ってきたか」
男が諦めようとした時、男の頭の中には、髭を生やしたおじさんの顔が浮かんでいた。
「......くそっ、あのジジイ。面倒な呪いを残しやがって」
諦めていた目にまた、命の火が灯る。そして、一歩ずつ歩き出す。
「いたぞー!」
背後から捜索隊が男を見つけた声を聞く。しかし、男は振り向かない。
男は追いつかれ、体を抑えられる。抑えている隊員は、男の体をくまなく漁る。すると、胸ポケットに紅光りしている指輪が出てくる。
「指輪も確認しました!」
「そうか、ではそいつは殺せ」
男は、地面に這いつくばってもがいている。
「全く。この期に及んでまだもがくか。意地汚い根性だ」
そういうと、捜索隊の隊員は銃の引き金を引く。弾丸は、男の心臓を貫く。
「ま......だ」
男はそう言い残すとこの世から旅立った。
男は、黒く塗りつぶされたような空間を意識なく漂流する。その空間に、一つの白く光る穴が現れる。白い光によって黒い靄のかかったものが、露わになる。男は、それを無意識に掴むと光の穴へと落ちていった。
これは、盗人として生き、盗人として死んだ男が、異世界で二度目の人生を歩む物語である。
ちなみに男が受けた致命傷だが、誰かが捨てたであろうバナナの皮に滑って銃弾を受けたのはここだけの秘密である。
下のほうにある星を押す、または感想を書いてくれると作者が狂喜乱舞します。