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殺された女伯爵が再び全てを取り戻すまでの話。  作者: 吉井あん
第3章 復讐への第一歩。
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37話 消したい過去とはお別れしましょ。

 ほどなくしてお父様の音頭により宴が始まった。


 音楽が奏でられ、使用人たちによってマンティーノスで採れる食材を贅沢に使った数々の料理が所狭しと卓に並べられる。


 湯気が上がる大皿から溢れる食欲をそそる香りが鼻腔をくすぐった。



「セラノ様。どのくらいお召し上がりになられますか?」と執事が肉料理の入った皿を向ける。


 一人分ずつ提供される王都式の料理とは違い、大皿でたっぷり出し食卓で各自で食べる分だけ取るというのがマンティーノスの伝統形式だ。


 私はいつも通りに「一人前よりも気持ち少なめ」に注文する。


 肉を一切れ口に含むだけで、懐かしさで胸が熱くなる。

 スパイスが強めでオリーブオイルをふんだんに使った味付けは、とても馴染みしっくりした。



(美味しい。覚えがある料理人の味だわ。クビにはなっていないようね)



 ルーゴでの食事も悪くなかったが、やはりこちらの方が美味しいと感じてしまう。


 エリアナは生まれた時からこの味で育った。

 今の私は器はフェリシアだが、中身はエリアナだ。


 求めるものはやはりマンティーノスなのだ。



(マンティーノス、絶対に取り戻さなくては……。考えれば考えるほど、この領は他人には渡せない)



 一皿めを終えると使用人がマグロのオーブン焼きを取り分け皿に盛り、空いた皿と差し替えた。



「セラノ様」



 ホアキンが真っ赤な顔を向ける。



「白マグロは今が旬でしてね、脂が乗ってうまいんです。海のないエレーラ育ちのあなたは、マグロなんて食されたことがないんじゃないですかね」



 宴が始まってそれほど時間が経っていない。

 というのに、ホアキンはもう出来上がっているようだ。



(客を接待せずに酔うなんて。呆れた)



 接待する側の人間が情けない。

 エリアナの婚約者は、ずっと信じていたホアキンは、こんなにだらしない人間だったのだろうか。


 なんとも言えない心情のまま私はマグロを口に運ぶ。

 そのままゆっくりと咀嚼し飲み込んだ。


 確かに脂の乗ったマグロの風味と酸味付けのレモンが絶妙だ。



「ホアキンさんが仰る通り絶品ですね。……エレーラでは海魚はほとんど食しませんから、マグロも初めて食べましたけど感動しましたわ。美味しいものですね」


「でしょう。田舎と都の貴族からはバカにされるけれど、マンティーノスは都会にも負けちゃいないんだ」


 ホアキンの空になったグラスに下僕がなみなみとワインを注いだ。

 私が一皿食べる間にもホアキンは早いペースで何度も杯を重ねている。


「ホアキン、飲み過ぎよ?」とルアーナが制するが、ホアキンは我関せずといったようにさらにワインを飲み進めた。



「セラノ様。マッサーナ様はどうしてあなたを選んだのでしょうね」



 ホアキンはじっとりとした目で私を見つめた。


 酔っ払いの声は概して大きいものだ。

 客たちは皆、食事の手を止めこちらを伺っている。



「ホアキンさん。その質問、失礼ではなくて?」


「あぁ。なんというか単純に疑問に思っただけですよ」



 レオンは貴族の独身男性で一番の優良株だ。

 配偶者の決まっていない女性は誰もがレオンとの結婚を夢見る。



「……それなのにマッサーナ様ほどの方にあなたが選ばれる理由が分からない。あなたがエリアナに……いやセナイダ様と同じ顔をしているのも何故か教えてもらえませんかね」



 あぁ面倒臭い。

 なんなのだこの男は。


 そしてそもそもなぜ宴の序盤に泥酔している??


 私の方が訊きたい。

 ハウスパーティの初日で酔わねばならない訳などどこにあるのだ。



「……私がレオンの婚約者である理由? あなたに言う必要あるかしら」


「あぁその言い方! それだよ。本当にエリアナそっくりだ。あいつも俺と自分が違うんだと見下していた。高飛車でいつも……」


「ホアキン!!」


 とうとうルアーナがグラスを取り上げた。


「申し訳ございません、セラノ様」


「いいのよ」と私はルアーナに微笑みかける。


(酔ってくだを巻くとか。小さい男ね。こんな男が好きだったとか最悪ね)



 しかも裏切られていたなんて。

 自分も間抜けすぎる。

 消したい過去、とはこういうものなのだろう。


(でもいい機会ね)



 自滅してもらうのも悪くない。

 私はナイフとフォークをおき、ナプキンで口を拭う。



「私も聞きたいことがありますわ。ホアキンさん、私の記憶によると、あなたは先代のエリアナ様の婚約者であったはずです。それなのにお相手が違うのは何故です?」



 広間の空気が凍る。

 誰もが思っていたことだ。



「そりゃあ先代がお亡くなりになられたからですよ。突然ね、死んだんだ」



 ホアキンはヘラヘラとだらしなく笑う。



「姉がダメだったから妹と、ですか。貴族の間では無くはないですね。ただエリアナ様とは長い間、絆を育まれた関係だと聞いていましたが、亡くなられてほんの僅かしか経っていないのに乗り換えるなんて薄情ではありませんか?」


「エリアナは家の取り決めで決まった婚約。仕方なくしたんだ。ルアーナは違う。魂で結びつく関係だ」



(エリアナ健在の頃からの仲と認めたわね)



 誤魔化せば多少は寛容に対処してやろうとも考えていたが。



(甘い考えはいらないわね)



 恥をかいてもらいましょうか、元婚約者殿?

読んでいただきありがとうございます!


ブクマ評価、そして誤字報告。

本当に嬉しいです。

がんばれます!


では次回も必ずお会いしましょう!

皆様に多謝を。


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