4、彼氏が増えた?
放課後。
私は、新しいマネージャーとして紹介されていた。
抵抗したけど、無理矢理手を引っ張られてグラウンドに連れてこられたのだった。
3年生は引退して、1、2年しかいなくて、部長は藤森だ。
部長権限で勝手に入部届だすし、私をマネージャーにすることもほぼ決定してたもんな。
驚いたのは、フェンス囲むようにいる見学集団の女子だ。
私は放課後すぐ帰っていたから、フェンスによくいる女子の集団なんだろうと思っていたけど、サッカー部目当てだったんだな。
藤森1人じゃなく、イケメンが多いサッカー部だからだろう。
屋上にいた5人も、後輩の1年にもイケメンがいる。
こんなにイケメンばかりよく集まったな。
漫画みたいだ。
私の頭の妄想で新たな漫画が1本生まれそうだ。
「じゃあ、新マネージャーから一言」
藤森の声で現実に戻る。
「よろしくお願いします」
一言って何にもないし、やる気ないけど頭を下げた。
「教育係の五十嵐廉。因みに俺の幼馴染みだ。廉は女嫌いで人見知りなところあるけど、気にするな。まあ、頑張れ」
挨拶後、藤森から紹介された五十嵐くんは、藤森の後ろでプルプルしていた。
身長も私とあまり変わらない。
綺麗な顔してプルプルしているのは、下手な女子よりかわいい。
うん、ありだな。
でも人見知りって、レベル違くない?
震えてるし。
それに女嫌いなのに、私といて大丈夫なんだろうか。
「廉。こいつ生物的には女だけど、女子と思うな。珍獣かなんかだと思え。実際そうだから」
「五十嵐くんに無理言うんじゃないよ。私はちゃんと女子だから。他の教育係はいないの?」
「マネージャーいなくなったら、廉がマネージャーの仕事してたし、他の部員は仕事わからないし」
「部長の藤森がそれでどうする?やっぱりサッカー部はブラックなんでしょ?五十嵐くんに無理にマネージャーの仕事やらせてたんでしょ?」
「ほらな、廉。話してた通り、こいつなんか違うだろ?」
話はまだ途中なのに、藤森は五十嵐くんの方を向き笑った。
「…うん」
「古河って他の女子達みたいにギラギラしてないだろ?」
「ギラギラって?」
「廉を狙う女子は必死なのが多いからな。幼稚園の頃は廉を巡って女子がよくケンカしてたしな」
改めて五十嵐くんを見る。
やっぱり綺麗な顔だ。
幼稚園の頃は超可愛かっただろうな。
「智春、俺頑張る」
「ああ、もし何かあったら俺に言えよ」
五十嵐くんの頭を撫でて、藤森は去った。
「あ…あの…じゃ…あ、備品の…場所や…何をす…るか…とか…流れ…とか教え…ます」
「うん」
私は部室の救急箱の位置や、1日の流れ、1週間先のスケジュールなどを聞いたけど、
気になるのはやっぱり
「こ…これが、テー…ピ…ングで…」
必至に一生懸命話しているのがわかるけど、話し方がぎこちない。
「あっ、大き…い絆創膏が、切れ…て…る。買い…に…行か…なきゃ。一緒に、買い…出…し行き…ましょう。領…収書…と…かの貰い方や、いつ…も…行く店…教…える…ので」
「あの、五十嵐くん」
私が口を開くと、ビクッと震えた。
「は…い」
「敬語なんて使わなくていいよ。私達同じ歳でしょう?あと、やっぱり無理させてるよね?買い物私1人で行こうか?とりあえず何するか紙に書いてくれれば大丈夫だと思うし」
「ごっ、ごめ…んなさ…い。いろ…い…ろ。だけど、場所わ…かりづら…い…から、一緒に…行…きま…しょう…」
色々ごめんって。何も悪いことしてないのに。
そして、やっぱり敬語だし。
でも、これが五十嵐くんの通常なんだろうと深く考えるのは止めた。
五十嵐くんは金庫からお金を取り出し、鞄を持って歩きだした。
私は五十嵐くんの後について行くことにした。
2人で並んで校門を出た。
近くにいると無理させちゃうかなと思ったから、藤森がいう少し離れた安全な距離で。
学校から少し離れた住宅街の一角に薬局があった。
確かに、目印らしきものは何もない。
私1人じゃ来れなかったかもしれない。
薬局に来るまで、五十嵐くんは無言だった。
私も何か話せばいいかなと思ったけど、女嫌いって聞いていたし、何も話さなかった。
薬局につくと、五十嵐くんはテーピングや絆創膏の場所を教えてくれた。
話すの苦手そうなのに、一生懸命に話すのが可愛くて、私の脳内では悶えていた。
大きめな絆創膏だけでなく、他にも数点備品を買い店を出た。
荷物が2つになったから、私も持つよと言ったけど大丈夫だからと断られた。
話し方や見かけで、すぐ倒れそうで、力もなさそうと思ったけど、ちゃんと男子なんだな。
学校に帰るまでまた会話はなかったから、私はまわりの建物見ながら歩いていた。
学校近くなってから、五十嵐くんの足が止まった。
「ご、ごめ…んな…さ…い。僕…気の…きい…た…こと、言え…な…くて。一緒…に…いて、つ…まらない…です…よ…ね…」
「別につまらないと思ってないよ。景色見ていたし。それに、何も悪いことしてないのに、謝るのおかしいでしょ。五十嵐くん気を使いすぎだよ」
「だ…けど、上手く…話せ…な…くて、よく女子には、つま…ら…ない…と…か、早く…話せ…と…か、言われ…ま…す」
「話すペースなんて、人それぞれじゃない?気にすることないよ。それに無理に話すことないよ。私中学の時ぼっちだったから、沈黙とか気にならないし」
「・・・!」
別に大したこと言ったつもりはないけど、五十嵐くんは、驚いた顔で私を見ていた。
学校につくまで会話はなかったけど、買い物行くときより五十嵐くんとの距離が近いような気がした。
グラウンドを見ると、誰も居なかった。
時計を見ると6時近い。
結局蒼イレのアニメは生放送で見れないのが決定した。
ああ、早く帰りたい。
部室に戻ると既に制服に着替えている藤森と宇野くんがいた。
五十嵐くんが心配で待っていたんだろう。
「おかえり」
「お疲れ様」
五十嵐くんが買い出しの荷物を置いたので、私は無言で袋から絆創膏など取り出し、救急箱に入れた。
今日はこれで仕事終わりだなと、「それじゃあ」と部室を出ようとしたら、何か引っ張られているような感覚がした。
驚いて後ろを向くと五十嵐くんがジャージの上着の裾を掴んでいた。
見るとやっぱり少し震えてる。
私何かしたかな?
「あの、僕…古…河さん…の…彼氏になりたい」
「へっ?」
彼氏?って、聞こえたけど聞き間違えたかな?
「廉、正気か?古河よりいい女世の中に沢山いるのに?何で古河?」
いやいや、その私を彼女にしてる藤森がそんなこと言う?
「古河さん、無理して話さなくていいって、言ってくれたんだ。沈黙も気にならないって。他なんて絶対ない。古河さんがいい」
「一応、俺の彼女なんだけど。古河」
私を指差す藤森くん。
「だから、僕は2番目でいいよ」
2番目って、何?
浮気相手みたいなこと?おかしいでしょ。
五十嵐くんの口からまさか2番目とか出るとは思わなかった。
「そうか、なら廉も今日から古河の彼氏な。あっ、ついでに宇野も彼氏にしてやれ」
「・・・」
「・・・」
「なんでやねん?!」
宇野くんが部室に響く大きな声で突っ込んだ。
驚き過ぎて、声が出なかったけど、私の心の叫びと同じだった。




