2、彼氏が出来たけど、なんか違う
「彼女?私が?何かの間違いじゃない?何で?私自分でも思うけど普通だよ?」
「理由が必要?まあ、面白そうだなって思って。あと彼女いると断るのに便利だし」
「いや、私全然面白くないから、お付き合いは遠慮します」
「うん、やっぱり面白い。俺振られたの初めて」
さすが学校1のイケメン様だ。
そんな台詞似合う人いないよ。
「・・・何でも初めてはあるよ。話は終わり?じゃあ、教室帰るね」
藤森くんは付き合ってとは言ったけど、私を好きだとは1度も言ってない。
それなのに、付き合うなんて時間の無駄だと思った。
「ふーん、教室帰るの?だけどね、あと5分後には俺に付き合ってくださいって言うと思うけど」
自信満々にふざけた台詞を言う藤森くん。
他の誰かなら、何言ってるの?!って突っ込みいれるところだけど、様になっている。
これが漫画のコマなら、バックに花が咲いていそうだ。
「ならないもん」
これが普通の女子なら思わず「うん」とか言ってしまうかも。
でも、私はそんなこと言わないんだから。
特に、イケメンのリア充や、スクールカースト上位の人間は信用してない。
藤森くんと私が合うわけない。
「古河さんさ、昨日何か失くしたものない?」
「えっ?」
心当たりはあった。
昨日、喬様のアクリルスタンドが失くなっていたのだ。
昨日鞄の中を何回も探したけど見つからなかった。
学校の机の中にあるのかなって、昨日はとりあえず寝て、朝学校に来て机の中を探したけどなかった。
「これ、古河さんのじゃない?昨日本を買うために慌てて帰っていったからさ。鞄から落としたの拾ったんだけど」
目の前に現れたのは、喬様のアクリルスタンド。
「ありがとう。拾ってくれたんだ」
私は思わず手を伸ばし、貰おうとしたら、喬様のアクリルスタンドが目の前から消えた。
藤森くんはアクリルスタンドを持った手を上にあげていた。
身長差が悲しい。届かない。
「これを返して欲しかったら、俺と付き合え」
「・・・わかった」
ムカつく。マジで5分後に私がこんなこと言うとは思わなかった。
悔しくて、涙目になりながらも睨んだ。
付き合っても、どうせすぐ別れるだろうし。
まあ、藤森くんの気まぐれに少し付き合ってもいいかななんて考えていた。
「いい顔するね。ああ、これはすぐには返さないよ。別れるその日に返すから。古河さんに選択権なんてないよ。俺が飽きるまで付き合うことになるから、よろしくね」
悪い笑顔で手を差し出されたけど、私は差し出されたその手を叩き落とした。
「1秒でも、早く飽きさせて別れてやるんだから」
「いや、俺は今のところどんどん興味が湧いてるよ」
「・・・最悪」
オタクで容姿普通、恋愛とは無縁だった私に、イケメン彼氏が出来たようだ。
出来たけど、なんかおかしくない???
彼氏ってこんな感じだっけ?
漫画やゲームの様に全然甘くない。
現実は厳しい。
********
「おはよう、古河さん」
朝、着席した途端、藤森くんに声をかけられて驚いた私は、「ほいっ?」と言ってしまった。
藤森くんに朝から話しかけられるなんて初めてだし。
「古河さん、お昼は弁当?それとも学食?」
「えっ?お弁当だけど」
「それなら、屋上で一緒に食べない?今日は天気もいいし」
「私、いつも美咲達と食べてるし、お断りだよ」
「じゃあ、古河さんの友達も一緒にどう?」
「うーん、それなら・・・」と口を開いて美咲達を見ると、3人で大きく手を交差していた。
バツってことね。
「ごめん。やっぱり、無理」
と、きっぱり断ったら、藤森くんに顔を掴まれた。
「何断ってんの。古河に断る権利なんかないの忘れた?いつまでたってもアレ返さないよ」
耳元で、低い声で囁く藤森くん。
目の前の人って二重人格なのか?
さっきまで、古河さんって言ってなかった?
おまえとか言ってるんだけど。
「ああ、因みに使い分けてるだけだから。二重人格とかじゃないから。優等生してた方が色々便利だしね」
私の心を読みとったみたいに説明してくれた。
でも、納得出来ない。
なんで私には違うんだ?私だって、優しくされたいよ。
「返事は?勿論OKだよね?」
「・・・はい」
ムカつくから、睨んでやった。
だけど、私の睨みが足りないのか、藤森くんは笑って去っていった。
「あかり藤森くんとよく話せるよね」
美咲達が話しかけてきた。
「美咲達はなんで藤森くんとお昼食べるの嫌なの?昨日イケメンとか眼福って話してなかった?!」
「だって、藤森くん光オーラ半端じゃないし」
「一緒にいると注目されるし」
「イケメンの破壊力凄いから」
「藤森くんは遠くから眺めているのがいいみたいな」
「そうそう、そんな感じ」
「・・・」
うんうん、美咲達もオタクだもんね。
目立ちたくない気持ちとかわかるよ。
・・・わかるけどっ。
助けてほしかった。
昼休み。仕方なく藤森くんと屋上にいた。
屋上は他にもカップルで食べている人が多い。
私は3年間訪れることはないと思っていたのにな。
日陰の場所を見つけ、2人で座る。
「あのさ、もうちょっと彼女らしくしてくれない?屋上来た意味ないじゃん」
「・・・へ?」
「まわり見なよ。膝枕とか、イチャイチャしながら食べてるカップル目に入らない?古河と付き合ってる噂流すために屋上来て2人でお弁当食べてるのに、何?その安全な距離」
正面の藤森くんを見る。
確かに、他のカップルとは違って離れているけど、安全な距離って。
なんか、近くにいたくないんだもん。
いい匂いするし。
どこから見てもかっこいいし。
そして、目立ちたくないし。
「・・・なんか、古河って懐かない猫みたい」
猫って。
かわいいけど、いい意味の例えではないよな。
「じゃあ、藤森くんは珍獣ハンターだよね。普通に考えて私に興味持つ男子なんかおかしいし」
「何、自分が珍獣とか言ってるの。・・・いや、まあ、珍獣か。今まで付き合ってきた女子とは違って可愛くないし、ベタベタしないし」
「別れたくなったでしょ?」
「いや、古河といると新鮮で楽しいよ。そういえば、あのアクリルスタンドって、蒼のイレブンの主人公の喬?だっけ。古河の好みってあんな感じなの?」
「・・・調べたの?」
「ああ、古河があんなに熱弁してたし、気になって。サッカーの話なんだろ?今度漫画俺にも貸してよ」
「・・・へ?藤森くん漫画とか読むの?」
「まあ、少しは」
「・・・いや、遠慮するわ。貸し借りとかしたら、いつ別れるかわからないのにめんどくさいし、返ってくる保証もないし。それに私蒼イレ読んで寝るのが習慣だからないと困るし」
「古河は、本当にぶれないよなぁ。じゃあ話の内容話せる範囲で聞かせてよ」
そんなこと言われたら、語っちゃうよ。
私の蒼イレへの愛は熱いんだから。
蒼イレの話を語り、あっという間に昼休みが終わった。
藤森くんは蒼イレに興味がないはずのに、馬鹿にせず話を聞いてくれた。
中学の頃、同級生のイケメン男子に、オタクなことを馬鹿にされ、俺無理と避けられた思い出から、イケメンなんて合わないと思っていたのにな。
藤森くんのこと案外いい人かもなんて思ったのは、私だけの秘密。




