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第十話 ヨルファングの本質


 修羅王ヨルファングさんは拳を振るい、拳圧で周囲の炎を消した後、漆黒のドラゴンをアイテム袋にしまった。


 未だにセシル、チェルシー、ジアスの三人はヨルファングさんを警戒しているけど、僕はヨルファングさんを気に入った。


 「一度町に戻りますよね? もしよかったら魔導自動車で一緒に戻りませんか?」


 「いいのか? お仲間達は嫌そうな顔をしているぜ?」


 振り返ると、確かにセシル、チェルシー、ジアスはしかめ面をしている。


 「皆、失礼だろう。ヨルファングさんも乗せていいよね」


 「···わかったよ」


 セシルが渋々了承するとチェルシーとジアスも頷く。


 了承を得たので魔導自動車でトリニーデの町まで戻る事にしたけど、ヨルファングさんは巨体なので魔導自動車の中が狭いみたいで、縮こまって乗っている。


 トリニーデの町について冒険者ギルドにドラゴン討伐をヨルファングさんと共に伝えに行くと、ヨルファングさんは、漆黒のドラゴンをギルドのモンスター解体場にてアイテム袋から出した。


 「持ってても邪魔だからよ。勝手に処分してくれ」


 ヨルファングさんはそう言って解体場から去ろうとします。


 「ま、待って下さい。上位種のドラゴンですよ? 買取に出せば一生遊べるだけの金額が手に入ります。買取に出さなくていいんですか!?」


 冒険者ギルドのギルドマスターがヨルファングさんを引き止めると、ヨルファングさんはギルドマスターを睨みつけ怒鳴る。


 「いらねぇって言ってんだろ!! 金なんて腐る程持ってる。金になるんだったら、森林を燃やしちまったし、その賠償金に当てろ!!」


 「ひぃっ!! わかりましたっ!!」


 ギルドマスターはヨルファングさんに怯えながら頭を下げます。


 町の人達はドラゴンのせいで狩猟や採取に行けてないと言っていた。ドラゴンは居なくなったけど、森林の一部は燃えてしまった。しばらくは狩猟はできないかもしれない。


 だから街の人々の為にヨルファングさんはドラゴンを町に与えたのだ。


 その意図に周囲の人間は気付き、ヨルファングさんに頭を下げている。


 「けっ、俺はいらねぇもんを押しつけただけだ。頭なんて下げるんじゃねぇ!!」


 ヨルファングさんはそう言って町から去ろうとする。


 「待って下さい。シュライゼムに向かうんですよね? だったら魔導自動車で一緒に行きましょう。セシル達もいいよね?」


 「···あぁ、噂のように悪い奴ではないみたいだからな」


 「···僕もいいよ」


 「うん、ルゥ兄が言ってたみたいに優しいみたいだしいいよ」


 三人とも了承してくれたのでヨルファングさんに視線を向けると眉間に皺を寄せている。


 「お前達は何か誤解してるかもしれないが、俺はいらないドラゴンの死体を町に押しつけただけだ。乗せてくれるのなら乗るが、勘違いするなよ」


 ヨルファングさんは照れているのか悪態をつく。


 「もう照れなくていいですよ」


 「べ、別に照れてねぇ!!」


 図星だったのか動揺している。


 その様子を見てセシル、チェルシー、ジアスが警戒を解いて笑う。


 どうやらヨルファングさんが危険な人ではないとわかってくれたらしい。


 誤解が解けて良かった。

 

 不機嫌そうに顔をしかめて照れを隠しているヨルファングさんと一緒に魔導自動車に乗って、シュライゼムへと向かう。


 道中、野営をしてジアスが作ってくれた料理を食べていると、ヨルファングさんは笑みを作る。


 「···美味いな。お前料理の才能があるぜ」


 ヨルファングさんに笑みを向けられたジアスは苦笑いする。


 「褒めてくれるのは嬉しいんだけど、その邪悪な笑みはなんとかならない?」


 「ふん、うるせぇ!! 生まれついたもんをどうにか出来る訳がないだろうがっ!!」


 「ひぃっ、ごめんなさい!!」


 ヨルファングさんの怒鳴り声で怒られたと思って萎縮するジアス。


 だけど違う。ヨルファングさんは怒ったフリをしているけど、邪悪な笑みと言われて傷ついてるのが僕にはわかる。

 

 「ヨルファングさん。僕は素敵な笑顔だと思いますよ?」


 「う、うるせぇ!! 世辞を言うんじゃねぇ!!」


 世辞? 本当に素敵な笑顔だと思ったんだけどなぁ。


 夕食を食べた後、交代で火の番をしようとしたけど、ヨルファングさんが「ガキ共が無理するんじゃねぇ!!」と言って、寝ずの番を引き受けてくれた。

 やっぱりこの人は優しいと思いながら僕は眠りについた。


 翌日、ジアスが作った朝食を食べた後、魔導自動車を走らせて昼前にシュライゼムに着く事が出来た。


 ヨルファングさんは城に向かおうとしていたけど、僕が半ば強引に家へと誘った。


 家に戻ると、ローナが昼食の準備をしていて、イルティミナ先生、パラケルトさん、ナギさん、キルハがリビングで寛いでいた。


 「ただいま戻りました。ローナ、僕達の昼食も作ってくれますか?」


 「う、うん、わかったわ」


 ローナはヨルファングさんを見て顔が引きつっている。

 ナギさんとキルハは、ヨルファングさんを見て警戒しているし、何故皆ヨルファングさんを怖がるのだろう?


 そんな中、イルティミナ先生とパラケルトさんはヨルファングさんに気付くと、嬉しそうにヨルファングに駆け寄る。


 「おぉ、ヨルファング!! 久しぶりべさね!! 相変わらずの強面べさ」


 「久しぶりなのね、ヨルファング。相変わらず皆に怖がられて面白いのね」


 「うるせぇっ!! 相変わらずお前らはうるせぇな!!」


 ヨルファングさんはイルティミナ先生とパラケルトさんに絡まれて迷惑そうなフリをしているけど、二人に会えて本当は嬉しいのが僕にはわかった。


 「それにしても何でヨルファングがルートヴィヒ達と一緒に居るべさ?」


 不思議そうにしているイルティミナ先生とパラケルトさんに、ヨルファングさんを連れてきた経緯を話すと、二人は爆笑する。


 「あははっ、相変わらず誤解されてるべさね」


 「うんうん、変わってないみたいで嬉しいのね。でもルートヴィヒはヨルちゃんを怖がっていないみたいなのね」


 「はい、怖がる必要なんてないじゃないですか。こんなに優しい人なのに」


 僕が笑顔でそう言うと、イルティミナ先生とパラケルトさんが目を丸くする。


 「!? まさか、ヨルファングの本質を見抜くとは!! 流石はルートヴィヒべさ」


 「うんうん、驚きなのね。ヨルちゃんは見た目と言葉遣いで誤解されがちだけど、とても優しいのね。だからナギちゃんもキルハちゃんもローナちゃんも警戒しないでもいいのね」


 パラケルトさんの言葉で部屋に張り詰められていた緊張が解ける。


 何で皆警戒するんだろう? 本当に不思議だ。


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